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12話 新人教育

「新人教育……ですか?」


 とある穏やかな日。

 ユースティアナの執務室に呼び出されて、そんな任務を告げられた。


「先日の魔物討伐の際、間者を見つけてもらいましたね」

「はい、覚えています」

「当然、間者は処分しました。そのため、一人、足りず……」

「ああ、なるほど。それで、新しくうちに配属されることになったんですね?」

「ええ、その通りです。その新人の教育をジークにお願いしたいのです」

「それは……どうして俺に?」

「団長と話し合った結果、キミが最適だと判断したのですよ」


 ライラック副団長が、そう教えてくれた。


 最適、と言われてもな……

 どのように最適なのか、詳細を教えてほしい。


 俺の困惑を察したらしく、ユースティアナが補足してくれる。


「新人は若く、ジークが一番歳が近いんです。私もジークと同い年ですが……」

「団長が直々に新人教育を行うなんてありえません」

「……というわけです」

「了解しました。期待に応えられるよう、全力を尽くします」




――――――――――




 3日後。

 新人が第三騎士団にやってきた。


「フェルミー・リンク・ノーワル、伯爵家の長女よ。よろしく」


 なんて、偉そうな自己紹介をする彼女が、噂の新人だ。


 彼女の心を表したかのような、濃い赤髪。

 若干、毛先が跳ねているのは、やはり、心を表しているからなのだろうか?


 背は低めで、スタイルもなだらか。

 というか絶壁。


 ……なんてこと、口が避けても言えない。

 もしも言葉にしようものなら、烈火のごとく怒り出しそうだ。

 それくらい、瞳に強い意思を感じられた。


「よろしく。俺は、キミの教育を担当することになった、ジーク・ストライクスだ」

「ふーん……冴えない顔ね」


 ほっとけ。


「俺も新米という立場ではあるが、それでも、キミとは半年の差がある。過剰にする必要はないが、それでも、ある程度は、先輩を敬うように」

「なんで?」

「なんで、って……」

「ただ時間を重ねているだけで、大した力を持たないヤツなんて、騎士に限らず、どこの世界でもたくさんいるじゃない。老害、っていうやつ? そんなヤツに、どうして敬意なんて払わないといけないのよ。この世は実力主義。真に強い人が敬われるべきよ」


 ……こいつ、とんでもない問題児だな。


 第三は、ユースティアナの年齢と、年齢に見合わない活躍をすることで、他から疎まれているのだけど……

 そのせいで、こんな問題児を送りつけられたのかもしれないな。


 すでに頭が痛い。

 俺は教育は苦手だ。

 殴る方が得意なのに……


 とはいえ、投げ出すわけにはいかないか。


「ひとまず、仕事を教えていこう。ついてこい」

「はいはい」

「返事は一回でいい」

「はーい」


 ……本当に頭が痛い




――――――――――




「ねえ。つまらない仕事はどうでもいいから、もっと華やかな仕事を教えてほしいんだけど」


 事務作業などの手順を説明して。

 それから、報告書のまとめ方などを説明していると、そんなことを言われてしまう。


「つまらない仕事じゃない。これも立派な仕事だ」

「ただの報告書の作成が? そんなの適当でいいじゃない。それよりも、あたしは、団長のように華やかに戦い、民を守るような仕事をしたいわ!」


 そう語るフェルミーは、キラキラと目を輝かせていた。


 どうやら、ユースティアナに憧れているらしい。

 そして、教育係でユースティアナでないことに不満を抱いているらしい。


「あのな……戦うことだけが騎士の仕事の全てじゃない。こういう作業も必要なことだ。こうして情報を上げて共有することで、騎士団全体の動きを良くするための潤滑油として……」

「あー、はいはい。わかったから。それよりも、訓練がしたいわ。そこであたしの実力を見せつければ、あんたも、こんなことは無意味ってわかってくれるでしょ」


 正直、彼女は論外だ。

 ユースティアナに報告をして、クビにしてもいいのだけど……


「……まあ、もう少しだけ様子を見てみるか」


 俺も、社会に出る前は、大概、クソガキだった。

 ここは先輩として、心の余裕を見せてやろう。


「ほら、早く行くわよ。ぼさっとしない!」


 ……やっぱりクビにしてやろうか?




――――――――――




 希望通り、訓練場に移動した。

 それから木剣を構えて、フェルミーと対峙する。


「ふふんっ、あたしの実力を見せてあげるんだから♪」

「なら、早くその実力を見せてみろ」

「言われなくても!」


 フェルミーは体勢を低くしつつ、矢が放たれたかのような勢いで駆けてきた。

 そのままの勢いで木剣を振る。


 後ろにステップを踏んで回避。


 フェルミーは、驚きに目を少し大きくしつつ、さらなる追撃に移る。

 今度は力強く、重い一撃を繰り出してきた。

 相手の木剣ごと叩き折るような、攻撃は最大の防御、を体現してみせた攻撃だ。


 なるほど。

 言うだけのことはある。

 これだけの力を持つ者はなかなかいないだろう。

 ベテランの騎士に匹敵する力だ。


 でも……


「甘い」

「ひゃあ!?」


 絡め取るようにして、フェルミーの木剣を弾き飛ばす。

 それから足払いをして、尻もちをついたところに木剣を突きつける。


「終わりだ」

「くっ……このあたしが負けるなんて……!」

「と、いうわけで……これからは、ちゃんと俺の言うことを聞くように。そうでないと、きちんとした騎士に……」

「うっさい、ばーかばーか! 今回は、ちょっと調子が悪かっただけよ! あんたなんて、次はぼっこぼこにしてやるわ!」


 捨て台詞を吐いて、そのままどこかに行ってしまう。


「……いや、待て。まだ教育の途中なんだけど」


 今日、何度目になるかわからないため息をこぼすのだった。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
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