10話 治安維持
騎士は色々な任務を持つ。
先日、担当したような魔物の討伐。
国家間の戦争が起きた場合、戦場に立ち、敵を討つ。
災害に襲われた時は、戦うためではなくて救うために活動する。
そんな派手な任務ばかりではなくて……
街の治安維持も含まれている。
たかが見回りと侮ることなかれ。
こういう小さな任務が積み重なり、街の……国の平和に繋がっている。
慢心することなく、きちんと任務に励まないといけない。
「今日も街は平和ですね」
一緒に見回りをするユースティアナは、どこか満足そうに言う。
基本、見回りは二人一組で行う。
なにが起きても対処できるように、だ。
「なにもないし、この分なら早く終わるかもしれないな」
「いけませんよ、ジーク。確かに平和ですが、どこでなにが起きるかわかりません。決して油断しないように」
「はい、そうですね。すみません」
「理解してもらえれば、それでいいです」
ユースティアナの言う通りだ。
事件というものは唐突に、悲劇的に訪れる。
「や、やめてくださいっ」
ふと、裏路地の方から女性の嫌がるような声が聞こえてきた。
「ジーク」
「はい」
ユースティアナと顔を見合わせて、裏路地に向かう。
「ちょっと来てくれるだけでいいから。ね? 絶対、損はさせないから」
「だから、私はそんなことは……!」
「大丈夫、大丈夫。すぐに楽しくなるよ、保証する」
「よし、決まり! それじゃあ、一名様、ごあんなーい!」
「だ、だから……きゃっ、やめて!?」
悪質なナンパ……というよりは、もはや誘拐だ。
二人組の男が、若い女性を無理矢理連れて行こうとしている。
「おい、なにをしている?」
「その子の手を離しなさい」
「ちっ……騎士かよ」
「うるせえな。消えろ、てめえらに用なんてないんだよ」
俺達に怯むことなく、むしろ態度を大きくして、男達はこちらを睨みつけてきた。
こいつら……本気か?
新米だとしても、騎士ならば、Cランク冒険者と同じ実力を持つ。
そんな相手を怒らせれば、タダで済まないことくらい、王都で暮らす人なら誰でも知っていることなのだけど。
ずいぶん若く見えるが……
見た目と反して、実は、歴戦の冒険者なのか?
「って……なんだよ。この騎士様、わりといけるじゃん」
「は?」
「なあなあ、騎士様も一緒に遊ぼうぜ? 刺激的な体験をさせてやるよ」
こいつら……バカか?
ユースティアナをナンパするとか、命知らずも良いところだ。
確かに彼女は綺麗だけど、中身は鬼神と同等……いや、それ以上なのに。
「ジーク」
ギロリ、とユースティアナに睨まれてしまう。
「今、変なことを考えませんでしたか?」
「……いいえ」
「後で、また稽古をつけてあげますね」
……失敗した。
「おいおい、俺らを無視しないでくれる?」
「ってことで、罰として一緒に来てもら……いてててててっ!?」
男の一人がユースティアナを連れて行こうとして、逆に手を捻り上げられていた。
「おいっ、てめえ! ダチになにしやがる!?」
「言うことを聞かないから、実力行使に出たまでですよ。騎士には、その権限が与えられています」
「くそっ! ふざけやがって……おいっ、出番だ!」
もう一人の合図で、どこからともなく熊のような大男が現れた。
……強いな。
無駄のない動きに、気配の殺し方。
『戦闘』をよく知っている動きだ。
「あなたは?」
「はははっ、こういう時のために雇っておいた、Aランクの冒険者さ! たかが騎士が敵う相手と思わないことだな」
「悪いな、これも依頼だ。怪我をしたくなければ、なにも見なかったことにして帰ってくれや」
……お前もバカなのか?
それなりの実力者なら、ユースティアナの実力を見切れ。
お前達が対峙しているのは、大怪獣のようなものだぞ。
「ジーク。また変なことを考えませんでしたか?」
「いいえ」
「後でおしおきですね」
だから、なぜバレる……?
幼馴染の勘が鋭すぎて怖い。
「で……二人はどうするんだい? 俺としては、このまま引き返してくれた方が楽なんだけどね」
「騎士として、そのような選択肢はありません」
ユースティアナが剣を抜いた。
その展開を望んでいたらしく、冒険者はニヤリと笑いつつ、同じく剣を抜く。
「いいねぇ……俺は、強いヤツと戦うのが楽しいんだ。あんた、けっこう強いだろう? あんたなら、俺の闘争心を満たしてくれそうだ」
けっこう、じゃなくて、とんでもなく、なんだよ。
あと、闘争心を満たす前に生を満たしてしまうぞ。
「……」
「無駄な話をするつもりはない……か。ますます気に入った。雇われの身でなければ、俺があんたと口説いて、俺の女にしていたところだ」
「無駄口を叩いていないで、さっさとかかってきてください。キャンキャン吠える犬ですね」
「いい、本当にいいな! その強気なところ、たまらねえ! これは、ますます……ふがっ!?」
意味のない話を聞くのがバカらしくなったのだろう。
ユースティアナは先制の一撃を叩き込んで……
「……がはっ」
冒険者は白目を剥いて倒れた。
一撃を見切ることもできず、また、攻撃を受けたことも自覚していないだろう。
気がつけば意識を失っていた、という感じだな。
そんな彼を見下ろして、ユースティアナは冷たく言う。
「残念ですが……私の男性の好みは、私よりも強い人です。あなたでは、その入り口にすら立っていません。出直してきてください」
……ユースティアナは一生、結婚できないかもしれないな。
「ジーク、なにか?」
「いいえ、なにも。それよりも……そこ、ドサクサに紛れて逃げないように」
「ぐぁ!?」
「ぎゃ!?」
こっそり逃げようとしていた二人組に足払いをかけて転ばせた。
毎日の訓練で覚えた拘束術を使い、二人組の自由を奪う。
「てめえ、離せ!」
「離せと言われて離すバカはいない」
「そして、バカはあなた達ですよ」
俺が押さえている間に、ユースティアナは拘束用の魔道具を取り出して、二人組に使用した。
魔力の放出を制限して、鋼鉄で作られている。
まず脱出は不可能だ。
「公務執行妨害で逮捕します。それと、他にも余罪がありそうですね。そちらは、塔でじっくりと追求させていただきますね」
「くそっ、このブスが!」
「俺等にこんなことをして、タダで済むと思うな、ドブス!」
この二人は自殺志願者なのか……?
二人の罵声を受けて、ユースティアナはあくまでも無表情を貫いて、
「少し黙っていてください」
容赦のない蹴撃を浴びせて、物理的に黙らせた。
……恐ろしいな。
やっぱり、怒っているんだろうな。
あとで、怒りを治めるためのあんパンを買っておこう。
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