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記憶島  作者: 左夏詩萌野
3/3

2 夕食

「うん、荷物はそのあたりにおいておいてくれ。ほう炬燵があるのかいいじゃないか。」

部屋の鍵を開けて彼女を迎え入れればためらうことなく入り込んでいく。その様子は見慣れないものに興味津々の子供のようだ。家は昔ながらの古民家をリフォームしたものであり掘りごたつやら一般家庭では見られないものも多いだろう。

「さて、台所はどこかな?」

「はあ、台所ですか。」

「ああ、無料で泊めてもらうんだ、手料理くらいはごちそうさせてもらうさ。といっても料理の腕は一般的な学生レベルだからあまり期待はしないでくれ。君はそうだなその辺居座っているといい。」

まるで家主のようないいようだが、料理自体はするつもりらしくスーツケースからは町唯一の商店のお店の袋が出てきた。それと同時に暇ならこれでも読んで待つといいと言いながら一冊の薄い本を渡してきた。

「それはな、私の愛するミステリー同好会の会誌さ。といっても私は読む専門文字を書いて生み出すことは苦手でね。まあ幽霊会員となるわけにもいかないからね。すこーしだけ書いているのさ。まあ私が好きなミステリーを羅列していくだけのエッセイとも呼べないただの殴り書きだけどね。」

 台所ではどこから見つけてきたのか僕のエプロンをつけた彼女が調理しながら話し続けている。座っていろと言われたもののさすがに家主として何もしないというわけにはいかない。何かやることはないかと炬燵の上に散らばったものを片付けながら彼女の話に耳を傾ける。

「君はミステリーは好きかな?この島ではなかなか読むのも大変だろうけど。」

「ミステリーですか……まあ人並みには読んだり、テレビドラマを見たりしますけど。」

「うんそれはいい。ミステリーにはなんでもそろっているからな。青春もSFも、ファンタジーもうんとにかく何でもさ。」

「まあ確かにミステリーと言われてホームズやらポワロを思い浮かべるような人はほとんどいないでしょうね。」

話しながら僕の頭の中では某有名少年誌のメガネの少年の顔が浮かんでいた。

「最近と言っていいかはわからないがミステリーもどんどんいろんな方向に変わっていっているからね。ノックスの十戒なんて不要なくらいにはね。知っているかい、ノックスの十戒」

「ノックスの十戒ですか、犯人は物語の序盤に登場しなければならないってやつですか?有名になりすぎましたよね。」

「そうそう、まああれは操作方法も限られていた当時だから言えたことで。それに今と求められていたことが違ったのだろうね。」

「今と違う?」

「ミステリーをどのように捉えるのかということなんだろうさ。私のように広く一つの娯楽として楽しむのか、もしくは謎解きゲームとしての整合性を求めるのか。という風にね。」

「それじゃあ羽梟さんが好きなのは娯楽としてのミステリーなんですか?」

「ああ、そうだよ。もちろん謎を解くという部分に関して言えば大好きなのだけれど、何より重要なことは楽しいかだよ。謎解きはおまけみたいなものさ。それにノックスの十戒には一つどうしても気に食わない部分があってね。」

そう告げながら羽梟さんのミステリー講義は続いたのだが正直詳しい内容は覚えていない。

早口にまくしたてるように時には料理の手を止めて語り続ける。

「っと話過ぎたなそろそろできるぞ。」

30分ほどして外はすでに日が落ちてあたりが暗くなってきたころ彼女はそこで話を切り上げた。そのタイミングに合わせるようにして玄関からは帰ったぞと声がしてくる。こんな事態の元凶となった男、父の帰宅である。

「おお、今日はカレーか悪いね前田さん。」

父はコートをハンガーにかけながらそう声をかける。ちょっと待てと彼女から見えないところに連れ込んで事情聴取を始めた。

まとめるとこんな感じである。

連絡船に物資と一緒に見慣れない大学生が一人島にやってきて神社や祠の場所を聞いて回っているという話を聞きつけて職質、それ以降は彼女が言っていたように家に泊めるように誘ったということである。幸い誰も使っていない空き部屋や布団はあるため問題ないだろうという判断である。それにだな、と最後に父は付け加えた。彼女〇×大学っていうじゃないか、お前この前みたいな点テストでまたとってみろ今度こそ留年してしまうぞ。ちょうどいいから勉強も見てもらえ。うんうんとそこまで聞いていて帰宅したら内をしようとしていたか思い出した。時刻はもう7時。貴重な時間は残酷にもあっという間にも過ぎてた。

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