引っ越し
疲れた…
「お疲れ様です。アリア様」
1カ月の詰め込み指導に疲れ果てた私の前に茶菓子をおいてくれるのはレウラだ。
「ありがとうレウラ。本当に明日からやっていけるのかしら…」
明日からついにドラゴイド家当主として働くことになる。
「アリア様なら大丈夫です。私とコーリャともども助力を尽くさせていただきます」
この1カ月を彼女たちと過ごしてわかってきたが、レウラはどんなサポートも徹底してくれるし、コーリャも無尽蔵な体力でいつでも助けてくれる。
「確かに、あなたたちがいれば安心できる気がするわ…よろしくね」
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「お嬢様、たまには散歩でもいかがですか? 室内にいるだけではお体に障ります」
そうアインスが声をかけてくる。
「…いやだ」
「…今日は庭から使用人も全員追い出しておきました。誰にも会うことはないかと」
「……」
外に出たくない理由も見透かされていた。
そしてやはり彼は…アインスは、呆れるほどに優しい。
「それに…お嬢様を傷つける輩は地獄送りに致します」
「それはいいから」
…やりすぎるところは直してほしいが。
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アインスに連れられて庭へと出ようとしたとき、母上に会った。
母上には、「邪気がうつるから部屋に引きこもっていなさい」などと、いつもと変わらないことを言われた。
それに対しアインスは、さすがに地獄送りにしようとはしないものの、怒りを隠せない様子で「お嬢様の体に何かあってはいけないので」とこれまたいつもと変わらないことを言って私をかばうように庭へ連れて行ってくれた。
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「様…アリア様! 」
目を覚ますと、馬車の中だった。
「アリア様、もう到着いたしました」
どうやら夢だったようだ。
――アインス…あの時周囲から常に疎まれていた私にとって、唯一の心のよりどころだった。
そして今はといえば、私を疎まないでくれる二人の侍女とともにドラゴイド邸に戻ってきた。
馬車を降りると、そこには襲撃前と変わらない、懐かしい光景が広がっていた。
「ささっ、アリア様のお手荷物以外はすでに運び終えています!! アリア様のお部屋はどこにされますか?? 」
―まだ着いてから時間全然立ってないのだが…
体力が無尽蔵な彼女は、こういうところで仕事が早い。
「自室…ね」
父上が使っていた部屋が一番仕事に向いている気がする…が
―以前の父上との関係性的にも、とても使えたものではない。
となるとやっぱり…
「もともとの私の部屋―2階の奥の部屋にするわ」
私とアインスしか入ったことのない部屋だった。