始まり
――少し寝すぎたようだった。
窓を見ると、のどかな空に太陽が光っていた。
「おはようございます。お嬢様」
「っ!?―」
うわっ、めちゃくちゃびっくりした……
「い…いつからそこにいたの? 」
そう音もなく、微動だにせず立っていた侍女に聞いた。
「つい先ほど参りました」
「そ…そう…あなたは別に私の専属侍女なわけでもないのだから、そんなことしなくてもいいんだけど…」
ついさっき来たばかりというのも私が気にかけないようにするための嘘だろうし
「いえ、私はすでにお嬢様の専属侍女です」
「あぁ、そういうこと…って え!? 」
あまりにさらっと言われたので一瞬受け入れそうになってしまった。
「詳しいことは奥様がお伝えすることになっています。朝食もご用意できておりますので、食卓へご案内いたします」
----------------------------------------------
案内された部屋では、すでにエンリ叔母様が紅茶を飲みながら待っていた。
「おはようございます。エンリ叔母様」
こちらに気づいた彼女は、穏やかなにこやか顔で
「あら、おはようアリア。よく眠れたかしら?」
あぁ、これは和む…
「はい、おかげさまで。疲れもきれいに取れました」
「そう、ならよかったわ。早速だけど、これからについて話し合いをしたいの…食べながらでもいいわよ」
空腹なのがばれたのか、気遣ってくれる。
言葉に甘えて、朝食を口に運びながら話を聞くことにした。
「さて、突然だけど、あなたの家が復旧するまで1カ月といったところまで来てるわ」
「 !? 」
早速食べたものを吐き出しそうになるところを、さすがに貴族令嬢としてこらえる
「あら? 言ってなかったかしら? 家に火は放たれたけど、そこまでの損害が出る前に消火されたのよ」
いや、それでも家というのは燃えてしまえば修理というよりは立て直しに近い。
少なくとも服に炎が燃え移るくらいには燃えていた。
少なくとも人の手を使えば3カ月はかかる。
「それが、王族専属の王国魔法隊を国王陛下直々に送ってくださったのよ」
それを聞いて思わず眉間にしわを寄せる。
「国王陛下はご寛大ね~」
エンリ叔母様はそう言っているが、今のこの国の現状を知らないからそんなことを言えるのだ。
国王はそんな人間じゃない。
差し詰めほかの有力貴族に領土を治める余裕がないのだろう。
だからと言って放置しておけばまたすぐに反乱が起きかねない。
それは王都にまで広がるかもしれない。
今の王国はそれまでに不満がたまっている。
ということで一刻も早く統治を復帰させたいというのが本音だろう。
「国王陛下からも準備ができ次第統治を再開するようにと命令が来てるわ」
やっぱり思った通り、か…
「えっと…つまり私にドラゴイド家の当主と領地統治を任せると。そう国王陛下はおっしゃってるのですね? 」
私はこれでも15歳なのだが…
「えぇ。それにあたって、もう聞いてると思うけどレウラをあなたの専属侍女としてつけるわ」
さっきの侍女のことだ。
「彼女はベテランだから、あなたのサポートを徹底してくれるはずよ…あと」
エンリ叔母様が部屋の隅に立つ侍女の一人に目配せをした。
「は、はい! コーリャと申します! これからアリアお嬢様のことをお支えできるよう励んでまいります!! 」
「…まだ新人だけど体力はあるから、この子もあなたの侍女にあげるわ」
「ありがとうございます。よろしくね。レウラ、コーリャ」
「まだ1カ月、あなたがドラゴイド家当主になるまでは期間があるから、その間は当主としてのふるまい、知識をレウラが教えることになっているから、頑張ってちょうだい」
「本当に何から何までありがとうございます」
ここまで色々してくれると、ここまで息の詰まる展開でも自然と不安もほどける。
本当にありがたい。