生還
……甲高い鳥の鳴き声が聞こえる。
どうなったんだろ…私
目を開くと、眩しい光と共に広い天井が目に入り込んできた。
「ここは…」
「お嬢様!!お目覚めになったのですね! 奥様!!」
…急に枕元で大きな声が上がった。
バタンッッ
大きな音を立ててドアが開けられ、女性が飛び込んできた。
「アリア!?よかった、目が覚めたのね?」
視界に入り込んできたのは、ふくよかな、銀髪の婦人。
「…エンリ叔母様…?」
数年前に何度かあったことがある。
人の顔を覚えることが苦手なため、思い出せた自分を褒めたい。
・・・なんて呑気なことを考える状況でもない。
「トラゴイド家が市民からの襲撃を受けたと聞いた時は、本当に…本当に、生きた心地がしなかったわ…」
エンリ叔母様は涙ぐみながらそう言った。
なるほど、私はその絶望的状況から生還したわけだ。
誰かに抱えられ、屋敷から脱出できた。
―その誰かがわからないのだが。
「叔母様、他の…お父様やお母様はどちらに?」
「……」
…空気が凍りついた。
いや、薄々わかっていた。
「お嬢様、大変申し上げにくいのですが…」
侍女が叔母様の代わりに口を開いた。
「ご家族様は、皆様、」
「お亡くなりになりました」
私が生きているだけで奇跡だということを。
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「じゃあ、今後についてはまた明日話すとしましょう。食事は侍女に運ばせるわ」
現状を一通り聞いたところで、体を休ませることにした。
ひと段落付着き、今の状況を再確認する。
私は4大公爵家のドラゴイド家の一人っ子で、アリア・ドラゴイドだ。
そしてトラゴイド家は市民の襲撃により私以外殺された。
まぁ・・・この王国はうち以外の公爵家も、その上王家も腐っている。
つまるところ衰退、滅亡まっしぐらのこの国で4大公爵家なんて有名無実。
1家欠けたところで特に問題はないだろう。
正直、両親を失った悲しみというものは特にない。
というのも、私の容姿に原因がある。
黒髪に赤い目、そして極め付けに希少な魔法を使える人間。
それらが災いして悪魔の子なんて呼ばれるほどに、両親、まして侍女にまで忌み嫌われていた。
・・・アインス、執事を除いて。
異常に過保護でいつでもどこでも助けてくれた彼も、ともに屋敷で亡くなったが…
そんなことを考えていたら、侍女が食事を運んできた。
運ばれてきたのは、パンとスープという、超温室育ちの私にとっては、貧相ともとれる食事だった。
・・・しかし、無言で次々に口に運ぶ。
予想以上に空腹だった。
しばらく黙々と食べ続けていたが、段々と眠くなってきた。
バタンッ
食べ終わっていない食事を目の前に、私は睡魔に勝てなかった。