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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

りんか

作者: 高山純次郎

 今日も学校は朝から賑やかである。生徒指導部の坂之上は怒りをあらわにしていたが私はそんな事どうでもよかった。こんなに賑やかなのは恐らく金曜日だからだろうか。明日も部活があると言えど学校のある日に比べれば足が軽く感じる。私も中学生の頃そうであった。

 私は県内の公立中学校で数学の教師をしている小澤 光だ。教師になった理由は特にない。就職したい場所も特に無かった。公務員になりたかったが職種は決まっていなかったから教員になった。大学では数学を専攻していたので数学の免許を取ることが出来た。単位を取るのは大変だったが実際の現場よりは優しいものだ。毎日、残業続きで嫌になる。おまけに休日は部活で潰される。もっと違う仕事をやればよかったと今更後悔している。

 おまけに私は結婚もしていなければ人生で彼女すらできたことがない。中学くらいから女子との関わりがなくなり高校は男子校だったし大学は理系だったのでかろうじて女子はいたがイケメンに取られてしまう。私のような非モテはもちろん余る。だから女性と縁がないのだ。長らく恋もしていなかったが今は気になる人ができた。

「小澤先生!田嶋くんが尿検査忘れてたので明日言っておいてください。」

そう可愛い声で言ったのは保健室の入江先生だった。入江先生は今年が一年目だ。見た目は誰が見ても美人だと言う顔をしている。だから男子生徒からはかなり人気がある。嫌いな人はいないだろう。教職の世界ははっきり言って可愛い人に会う機会がかなり少ないのでものすごく貴重である。

「あ、ありがとうございます。言っておきますね。」

「はい。後、身体測定もあるのでそれも連絡お願いします。」

「分かりました。」

 私は白衣姿が可愛いとしか思っていなかった。おっとおっと仕事中だったな。

 入江先生が職員室から出るとテストの採点を再開した。出来が非常に悪いな。重点的に教えたところなのに平気で間違えるから余計にイライラする。ここの中学は荒れてはいないが学力はあまり高くない。こう言うと自慢になってしまうが私は学力は結構高い方であった。大学もみんなが一度は聞いたであろう名前だ。

 そろそろ部活に行こうとするととある生徒が職員室を訪ねてきた。

「小澤先生、分からない問題があるんですが。」

 この子はいつも分からない問題がある時職員室に来てくれる。確か竹内 りんかだった気がする。

「今日は何が分からないの?」

先生は質問に来てくれる生徒が好きだ。私が高校生の頃はよく分からなかったが分からないところを教えるのは楽しい。それにテストでいい点数を取ってくれるとさらに嬉しい。

「教科書の三十五ページが分からなくて。」

「じゃあ教えるから教室行くか。」

 私とりんかは教室に向かった。放課後の教室には本を読んでいる久保がいた。りんかの友達だ。

「りんかちゃん!今日も先生に教えてもらうの?」

「一緒にやる?」

「私はいいかな。」

 久保はそう言った。

「貴方もやった方がいいよ。点数悪かったし。」

「先生言わないでよ!」

私はどちらかと言うと生徒と親しい方の先生だ。上下関係とかあまり好きじゃないし。坂之上とは真逆のタイプだ。

「これは解の公式を用いて、」

「そう言うことだったんですね。」

「そうそう。分かれば難しくないから。」

「ありがとうございます。」

 気がつけば最終下校時刻になっていた。この時間までしか居残りや部活をしてはいけない。

「もう終わりだね。後は分かったかな?」

「はい!助かりました。」

「久保さんも帰ろうか。」

後ろで本を読んでいた久保に言った。

「は〜い。」

 二人が帰った後も私は仕事が残っていた。りんかは素直でいい子だな。背は小さめで顔も少し幼い。でもクリっとして可愛らしい。いや、気持ち悪いなそんなこと思うのは。

「小澤先生、お疲れ様です。お先失礼します。」

「お疲れ様です。」

隣の席の先生が帰った。あの先生は仕事を終えるのが早い。私は仕事があまり早くないのでまだ終わらない。

 気がつけば十九時を回っていたのでそろそろ帰ることにした。明日も部活があるので朝早い。

 日曜日、午前中に部活を終わらせたので買い物にでも行くことにした。近所のショップモールだ。好きなアニメグッズでも買おう。

「先生!」

後ろから声がした。普段、プライベートで先生と言われることが無いので私はすぐに振り返った。

 私を呼んだのはりんかだった。今日は一人でいるらしい。

「竹内さん、どうしたの?買い物?」

「そうです。服買いに来たんですけど先生っぽい人が居たので話しかけてみました。」

りんかはそう笑顔で言った。何だか嬉しい気持ちになった。

「なるほどね。一人なの?」

「家族と来たんですけど逸れちゃって。」

「なるほどね。心配してるかもね。」

「もう大きいんで大丈夫ですよ。」

笑いながら言った。

「まあ、気をつけてね。」

私は財布から二百円を出した。そしてりんかに差し出した。

「俺は帰るけどこれでアイスでも買って待ってな。じゃあまた明日ね。」

「帰っちゃうんですか?先生も一緒に食べましょうよ。」

「他の生徒に見られたら不味くないかな?」

「大丈夫ですよ。私がちゃんと説明しますから。」

「ならいいか。アイス食ったら帰るからね。」

「やったー!」

この子は私とアイスを食べるのが嬉しいのか。こんなこと初めてだ。学生時代、女子とアイス食べることなんてなかったから。

 私たち二人はフードコートでソフトクリームを買って食べた。りんかは嬉しそうに買った物を私に見せてくれた。なんか愛おしいな。よく分からない感情になった。

「先生もこんなところ来るんですね。」

「結構来るよ。最近は忙しくてあまり来れないけど。」

「そうなんですね。なんか会えて嬉しい。」

え?嬉しい?私に会えて?そんな事言われたの初めてだぞ。ましてや一回りも違う子に。私は心臓が高鳴った。私はロリコンでは無いはず。おかしいな。

 りんかの携帯が鳴った。

「あっ、親が待ってるらしいのでそろそろ行きますね。今日はありがとうございました。」

「いえいえ、また明日!」

りんかは手を振りながら離れていった。私は暫く一人で椅子に座っていた。今日のソフトクリームは格別に美味かった気がする。

 私は家に帰ってもりんかの事を考えていた。運動会の時、撮った写真を眺めている。確かに可愛らしい顔してるんだよな。何だろうか大人には無い無垢な感じ。他にも可愛い子はいるかも知れないが愛嬌が一番あるのはりんかだな。

 でもりんかはなぜ私と会ってあんなに嬉しそうだったのかな?

 もしかして私のことを?人生で初めてこんなことが起こったのか?ずっとこんな経験したことが無かったぞ。

 もしかして、りんかは私に恋してる?そういうことか。もっと早く気がつけばよかった。

 私から思いを伝えた方がいいのか?でもそんなこと人生でしたことがない。だから入江先生にも思いは伝えることができない。

 でも頑張れば報われる。教員採用試験の面接よりはマシだろう。明日も居残りしてたら思いを伝えてみよう。


 翌日、りんかは今日は部活に行っている。部活は吹奏楽だった気がする。久保とは別の部活である。これはもしかしてチャンスじゃないか。私はとある作戦を練っていたのだ。

 最終下校時刻になった。次々と生徒が下校していく。職員室の窓から様子を伺ってみた。  

しかし、りんかの姿はまだ見えない。音楽室に行くか。

 音楽室に行くと吹奏楽部はミーティングをちょうど終えたところだった。私が姿を見せると音楽の船橋先生が来た。

「どうしました?今ちょうど終わりましたよ。」

「すみません、健康診断の件で竹内さんに用があって。」

「そうなんですね。竹内!」

船橋先生はりんかを呼び出した。船橋先生はおばさん先生だが生徒から恐れられている。私も少し苦手である。

「あっ、先生!どうしたんですか?」

私に会って嬉しそうな顔をしている気がする。

「健康診断の再検査があるらしくて。それについて詳しく話すから教室来てくれるかな?」

「わかりました。」

 私はりんかを教室に連れて行った。

「ちょっと座って待ってて。」

「わかりました。」

 私はりんかを教室に残し、花束を取りに行った。これでプロポーズしたらカッコいいだろう。これは決まったな。

 私は花束を抱えて教室に戻った。

「先生、花なんて持ってどうしたんですか?」

りんかは笑いながら言った。後は思ってた通りに伝えるだけだ。

「竹内さんいや、りんかちゃん。」

名前呼びをすると少しりんかは驚いた。

「僕は君のことが好きだ。ぜひこの花を受け取ってほしい。」

喜ぶかと思った。しかしりんかの反応は予想外だった。

「え、」

少し引いてる感じで言った。

「なんで?僕のこと好きじゃないの?」

「どういう意味ですか?」

純粋だから分かって無いのか。

「もちろん異性としてだよ。」

私はもう一度、花束を差し出した。

「なんで。私、先生は先生として好きですけどそんな恋愛としては全然。」

「は?」

私は花束を落っことした。

「だってあんなに好意寄せててくれたのに?」

「それは先生として好きなだけで、昨日会った時も決して恋愛的じゃ無いし。」

こいつからかってたの?

「それに私彼氏いますよ。」

「なんで?」

「なんでって言われたって。」

私は頭に血が一気に登った。そのまま近くにあった机をひっくり返した。

「おい、お前!一人の大人からかって楽しいのか!」

「からかってなんかいませんよ。もう辞めて下さい。」

りんかは涙目で言った。

「俺は本気にしてたのに!裏切り者。」

そのまま私はりんかの首を掴んだ。

「な、何すんの。辞めて!」

「黙れ!裏切り者!死ね!」

私は気がつくとりんかの首をずっと絞めていた。

 手を離した時には時は既に遅かった。りんかが息をしてない。

「大きな声しましたけど何かありました?」

後ろの扉から船橋が来た。船橋はこの状況を見て悲鳴を上げた。

「な、何これ。あなたがやったの?」

 私は今頃冷静になった。やってはいけないことをしてしまったことに気づいた。

 船橋の悲鳴で学校にいた先生が全員来た。入江先生も来ていた。入江はりんかのほうに向かって行った。

「まだ間に合うかも知れない。救急車と警察呼んで!」

10分もしないうちに警察と救急車は来た。

 私はそのまま警察に連れて行かれた。警察に連れて行かれる時、入江先生はゴミを見るような目で見てきた。その他の先生も私をそう言う目で見てきた。

 りんかはその場で息を引き取ったことが確認されたらしい。

 私の何がいけなかったのだろうか。学生時代まともに恋愛していないとこうなってしまうのか。ニュースではロリコン教師が生徒を殺したと伝えられるのだろう。私はただ恋愛がしたかっただけなのに。


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