第4話 再会
「…………勢いのまま出てきちゃったけど、この後どうしよう……」
大きめの鞄を手に、私は夜の街中で頭を抱えていた。
クラースとシェスナの身勝手過ぎる言い分が頭にきて、売り言葉に買い言葉だったが……お店を出てどうするかなんて、考えてなかったよね、全然。
「行く当てなんて、当然ないしなぁ……」
田舎出身の私にとって、王都で知り合いと呼べる人は数少ない。
いたとしても、もう何年も連絡を取ってない学園時代の友人とか、それくらい。
しかも既に所帯持ちで子供がいる子も多いし、そんな友人を頼るのはちょっと気が引けるんだよな……。
「今晩は宿を借りるとして……あ~、仕事はどうしよう……」
またどこかで薬師として雇ってもらうか?
……いや、それは難しいかもな。
幾ら薬師として働いた経歴があっても、スキルが有用でないと分かれば渋い顔をされるのが目に見えている。
それになにより、年齢だ。
29歳の微妙なスキル持ちの薬師――その響きだけで「コイツ将来性ないな」って思われる、間違いなく。
少なくとも私ならそう思うもん。
経験が浅くとも若くてそれなりのスキルを持つ子を採用した方がいいよね、って絶対なるよ。
そう考えると、昔みたいに薬屋の下働きをやるのが関の山か……。
いや、下手をすると下働きですら雇ってもらえないかも……。
……あれ?
もしかしなくても私、詰んでね?
「も……もう終わりだぁ!」
唐突に襲ってくる絶望感。
思わず道のど真ん中で叫んでしまった。
そりゃそうですよね!
29歳のリストラ薬師になんて需要あるワケないですもんね!
なんでもう少し冷静になれなかったんだ、私のバカ!
激しい苦悩に悶絶する私であったが――そんな時、
「――ゴホッ、ゴホッ……ガハッ……!」
――私の近くを歩いていた一人の男性が、突然激しく咳き込む。
そして苦しそうに地面に蹲った。
「!」
彼が咳き込む様子を見て、すぐに理解する。
アレは普通の咳じゃない。
まるで肺から血を吐くような……。
明らかになにか重い病を抱えた咳だ。
放っておいたら不味いことになるかも――!
「そこのあなた! 大丈夫ですか!?」
私はすぐに彼の下へと駆け寄り、鞄を開けて薬を取り出す。
「さ、これを飲んで……。少しは咳が落ち着くはずです」
彼の病がなにか分からない以上、あまり下手な薬は服用させられない。
しかし副作用がほとんどない咳止め薬なら大丈夫だろう。
それに一応【肉体強化】を付与してるから、もし肺が弱っているならより効果が期待できるはず。
包装紙を解いて薬を飲ませると――徐々に彼の咳は収まっていく。
「ハァ……ハァ……あ、あれ……? 肺が、なんだか軽くなったような……」
「よかった、咳止め薬に付与していた【肉体強化】も効果が出たみたい。これならしばらくは楽になるはずですよ」
「あ、ありがとうございます。急に発作が出てしまって……。なんとお礼を言ったらいいか――」
その男性は顔を上げて、こちらを見る。
流れるような金髪に、細い身体。
目の下には隈があり、肌は病的という言葉を連想させるほど白い。
整った顔立ちは美男子だが弱々しさを感じさせ、今にも倒れてしまいそうな儚さがある。
年齢は……20代中盤~30歳くらい?
いや、よく分からん。
雰囲気と美形の顔が相まって、年齢不詳感が凄まじい。
ただ……この人、どこかで見た顔のような……。
っていうか、昔の知り合いに似てるような――。
などと思っていると、
「…………キミ、もしかしてアネットかい……?」
教えてもいないはずの、私の名を呼んだ。
「え?」
「やっぱりだ、アネットだろ!? ほら、僕を覚えていないかい!? 『リングホルム王立学園』でキミの一年上だった、リクハルド・アールステッドだよ!」
「あ……あぁ……!?」
――忘れるはずもない。
私がまだ学生だった頃、異なる学問を学ぶ身ではあったが、僅かに繋がりのあった男の先輩。
しかも彼は侯爵家出身だったにも関わらず、庶民出身の私にも分け隔てなく接してくれた優しい人。
アールステッド侯爵家の三男――リクハルド・アールステッド様。
私の初恋の人にして……片想いで終わってしまった相手だ。
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