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第2話 私のスキル


「ふぅ……こんなところかな」


 薬の調合をひとしきり終えた私は、身に着けていたエプロンの紐を解く。

 気が付けば外はすっかり夜。

 暗くなった道を、お酒に酔った町人やら冒険者やらが千鳥足で進んでいく。


「……結局、クラースもシェスナも帰ってこなかったわね」


 こんな時間までどこを遊び歩いてるんだか……。

 お店が混まなかったからいいものの、流石に文句の一つ言ってやらねば……。

 そんなことを思いつつ店仕舞いを始めようとした私だったが、


「! そうだ、いけない。パンチョお爺さんたちの薬にアレ(・・)やらなきゃ……!」


 ふと最後の仕上げを忘れていたことを思い出して、再び調合台の前に赴く。

 そして調合し終えたばかりの薬を収めた包み紙を前に、


「エンチャントスキル――【肉体強化】」


 自らのスキルを発動。

 すると包装紙が内側からボウっと光り、効果付与(エンチャント)に成功する。


 そう……これが私の持つエンチャントスキル、【肉体強化】だ。

 自分で作成したアイテム――私の場合〝薬〟であるが、それに身体能力を強化する効果を付与できる。

 効果を付与した薬を飲めば、調整した強化率で身体を強化してくれるのだ。


 ――人は誰しも15歳になると神様からの祝福〝スキル〟を授かり、個々人の持つ能力が決まる。

 この能力こそ才能だとするのが、世間の一般的な考え方だ。

 故に、その才能によっておおよそどんな職業が向いているのかも判明すると言っていい。


 とはいえ、スキルによって人生が決まるかと言われれば必ずしもそうではないのだ。

 自らのスキルに関係のない職業に就く人も数多い。

 私などはそのタイプである。


 薬師はいつの時代も花形職業だ。

 薬の調合・処方をできる人なんて世の中多くはないから、まずお給金が高い。

 資格を持って全うな仕事をしていれば、まず衣食住に困ることはないだろう。

 それに患者の皆からも感謝されるし、やりがいだってある仕事だ。


 私の実家は田舎の貧乏農家だったから、両親は私に薬師になってほしいと願い、私自身もそうなりたいと思った。

 だから子供の頃から勉学に励み、『リングホルム王立学園』へと入学。

 専門の知識を身に着け、晴れて薬師となって卒業することができた。


 だが……いざ世の中に出て見れば、薬師に向いたスキルを持った者たちと私とでは、扱いに雲泥の差があった。


 薬師として有利なスキル――

 例えば薬の効果を増幅する能力だったり、

 薬の副作用を消し去る能力だったり、

 凄いのだと、ほとんどの毒を無効化できる薬を作れる能力だったり。


 そんなスキルを持つ者たちは大貴族に召し抱えられたり、スポンサーが付いて大きな薬屋を出店したりなど、華々しい出世を遂げた。


 対して私のように薬師とスキルがイマイチ噛み合わない者は、職場を探すだけでも一苦労という有様だった。

 実際、王都に来てから五年以上も大手薬屋の下働き。

 当然薬の調合など任せてもらえず、薬師の資格を持っている身としてはお給金だって最低。

 ヘルマンさんやクラースと出会い、『ホーカンソン薬店』で働くようになってようやく生活が安定して薬の調合も任せてもらえるようになった……そんなレベルなのだ。


「いやまあ、薬師が患者の肉体を強化してどうすんねん、とは思うわよね……」


 薬を飲んだら腹筋がムキムキになりました!なんて喜ぶ患者がどこにいるのか?

 患者は具合の悪い部分や病気を治したいから、薬師を頼るのだ。

 そもそもそれって、響き的にヤバい薬飲んでるようにしか聞こえないし……。

 一応、パンチョお爺さんみたいな身体が弱ってきたお年寄りには、ちょっと需要があるみたいだけど……。


 ともかく、こんな取り柄のない私を拾ってくれたのがあの二人なのだ。

 クラースに至っては婚約まで受け入れてくれた。

 感謝してもしきれない。

 

 でも、流石にこの歳まで結婚を伸ばされるのはなぁ……。


「……よし、決めた。クラースが返ってきたら、文句を言うついでに結婚の話もしよう。今日こそは強気でいけ、私」


 顔をピシャっと叩いて気合を入れる。

 すると、その時だった。


「――アネット! アネットはいるか!?」


 お店の入り口がバンッ!と開けられ、怒鳴り声が木霊する。

 これはクラースの声だ。

 ようやくのご帰宅らしい。


 私は彼の大声に一瞬ビクッと驚かされるが、すぐに気を持ち直して主の下へと向かう。

 できるだけプンスカと怒った顔を作って。


「クラース、今までどこ行ってたんですか!」


 私が入り口へ向かうと、そこにはクラースとシェスナの姿。

 クラースは現在30歳の美丈夫で、年齢の割に顔が若々しく端正。

 如何にも遊び人という雰囲気の持ち主だが、むしろそれが彼を若く見せているのだろう。


 そんなクラースと一緒にいるシェスナは22歳。

 まだ入って半年の新人で、私の目から見ても可愛らしく美人な女の子だ。

 ……ちょっとクラースにくっつき過ぎているのが気になるけど。


「一日中お店をほったらかすなんて……一体なにを考えているんです!?」


「別にいいだろ? どうせ大して混まなかったろうに」


「そういう問題じゃありません! クラース、今日という今日はあなたにお話があります!」


「へえ、話ね……。それなら俺もお前に大事なお話(・・)があるぞ?」


「? な、なんですか、それは……」



「――アネット、お前との婚約を破棄する! 薬屋もクビだ!」




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[一言] 現代程度に医学知識が発達すれば超優秀なスキル
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