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地中海への道:修道院の村

 1062年9月下旬 イタリア北部 トリノ ジャン=ステラ


「ピエトロお兄ちゃん、トリノの統治、がんばってくださいね」

「ああ、ジャン=ステラこそ、初めての長旅だから、体に気をつけるんだぞ」


 トリノ城館の正面玄関で、僕はピエトロお兄ちゃんと出発の挨拶を交わす。

 玄関先には大型の馬車が止まっており、アデライデお母さまと僕が乗り込むのを待っている。


 お母さまと僕は地中海に面した町、アルベンガに向かう。

 アルベンガにはお母さまの実家であるトリノ家の離宮があり、そこで一冬を過ごす予定である。


 その間、トリノの執務はピエトロが執ることになっている。

 ピエトロがトリノ辺境伯に叙爵されたので、アデライデは執務の一部を任せ、自らは5年間行えなかった領内の見回りをする気になったらしい。


 もちろん14歳のピエトロが一人で統治するわけではなく、お母さまの意をくんだ家臣たちが実務を担当することになっている。


 きっと、どこぞのお殿様のように「そちの言う通りにいたせ」とか「うん、そうせい」とか言うだけになると思う。


 ーー お兄ちゃんのあだ名がそうせい辺境伯とかになりませんよーに。


 それでも、トリノ辺境伯のトップとして君臨できる事が嬉しいのか、ピエトロの顔はとても明るく、自信満々である。



「長旅どころか僕、トリノ城館から出るの初めてなんですよ。もうわくわくが止まりません」

「そうなんだろうな。顔が緩みっぱなしだぞ、ジャン=ステラ」

「え、ほんと?」


 思わずほっぺを触った僕が面白かったのか、ピエトロが「わははっ」って笑い出し、それにつられて僕もふふふって笑い声をあげちゃった。


 そんな僕らの様子を温かく見守っていたお母さまが、出発の掛け声をかける。


「はいはい、2人とも。挨拶はそのくらいにしておきましょう。ジャン=ステラ、そろそろ馬車に乗りましょう。そしてピエトロ、留守中よろしくね」

「はい、お母さま。お任せください!」


 ピエトロが、僕に任せておけば大丈夫!とばかりに、実にはきはきとした声で返してきた。


 そんなピエトロに見守られ、お母さまと僕は馬車に乗り込むのであった。



 ◇    ◆    ◇


「お迎えご苦労!我々はトリノ辺境女伯アデライデ様、アオスタ伯爵ジャン=ステラ様の一行である。その方ら、名を名乗られよ」

 僕たち一行の先頭を進む騎士が大声で叫んだのが、馬車の中にいる僕の耳に届く。


 トリノから南へ2時間ほど馬車を走らせた僕たち一行は、石壁に囲まれた小さな村の門に到着した。

 門の前には修道服に身を包んだイシドロスたち、新東方三賢者が並んでいる。


 ここが僕たちの最初の目的地、トリノ南方に作られた新しい修道院である。


 新しいといっても、古代ローマ帝国の滅亡後に放棄された村跡に建てたので、まっさらというわけではない。

 そして修道院を建て、石壁を補修したのは、ギリシアから来てトリノ辺境伯領にやってきたイシドロス司教一行、約100名である。


 僕の事を預言者だと信じ、トリノに移住してくれた彼らには頭があがらない。

 イタリアより進んだ東方から優れた技術をたくさんトリノ辺境伯領にもたらしてくれたのだ。


 大西洋を超えて新大陸を発見するのに欠かせない方位磁針をたくさん作ってくれているし、船が腐らないようにするタール、ついでに木酢液もじゃんじゃん作ってくれている。

 算数の教科書を羊皮紙に書写しているのもイシドロス達の修道院だし、望遠鏡や顕微鏡の研究も任せっきり。

 僕の筆頭家臣であるラウルにお願いしていた固形石けんも、作り方を解明してくれたのも新東方三賢者の一人、アマルフィオン修道院の副輔祭だったニコラスとその配下の者だと聞いている。


 僕がじゃがマヨコーンピザを食べるという目的のために、彼らは頑張ってくれている。

 たぶん、じゃがマヨコーンピザというのが、天国に行くのに必要な免罪符とでも思っているんじゃないかと不安になるくらい。 

 うーん、なんというか、ちょっと後ろめたくなってくる。


 そんな僕の思いもあり、門をくぐるとき馬車から顔をだして、イシドロス達に手を振ってみた。


 そうしたら、イシドロス達は目を見張って驚き、とっても喜んでくれた。

 それはもう狂喜乱舞で(ひざまず)かんばかりって感じ。


 えっと、彼らにとって僕は推し、なのかな?

 ちょっと面映ゆかったのだけど、次の瞬間、凄い勢いで馬車の中に引っ張り込まれお母さまにめっっっちゃ怒られた。


「ジャン=ステラ、馬車から顔をだしちゃだめでしょ! オッドーネの二の舞いになりたいの?」


 お母さまによると城門は結構危ないらしい。

 人が多く集まっていても不自然じゃないし、城壁のような高くて足場が安定した場所もある。


 城主が命を狙っていなかったとしても、命を狙う不法侵入者がいるかもしれないのだそうだ。

「イシドロス達、修道院の者たちがあなたの命を狙うとは、私も考えていないわ。

 それに小さな村なので不審者も入り込んでいないと思うの。

 でも、それで安心していたらダメなのよ、ジャン=ステラ」

「お母さま、ごめんなさい、もうしません」


 平和ボケしてた事を素直に認め、僕はお母さまに謝罪した。


 お母さまに怒られる前に僕がイメージしていたのは、オープンカーに乗った大統領や王族、皇族のパレード。彼らが手を振ると、街道沿いの民衆が大喜び!って感じの。

 でも、パレードって確かに危ない。ケネディ大統領とかパレード中に暗殺されてるもの。


 僕、この先生き残る事ができるのかな。

そうせい侯 : 幕末の長州藩主 毛利敬親(たかちか)侯のあだ名

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― 新着の感想 ―
[一言] ソードワールド(アレクラスト版第5部アンマント財宝編)、トリオ・ザ・住専ズのリーダー、「うなずきエルフ」のマイスとか(笑)
[一言] >豪華な貴族女性用の馬車がなかったとしたら、当時の女性はなにで移動したのでしょうね? 中世の女性の旅は馬で男性の後ろに乗るか歩くかしかありませんでした。 14世紀に英国のリチャード2世にボ…
[一言] 乗用馬車が生まれるのは15世紀でそれ以前は荷馬車しかありませんでした。乗用馬車を使うなら開発しないといけませんね。
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