取らぬ狸の皮算用
1068年6月下旬 イタリア カノッサ城 ジャン=ステラ(14歳)
……僕のせいで鍛冶職人が20人も亡くなった。
僕の胸の奥で、またズキンと痛みが走る。
無かったことには出来ないし、開き直ることも僕には出来そうにない。
でも……。でもね。犠牲を無駄にはしたくないと思う。
だから、もっと力強く生きなくてはーー
「ジャン=ステラ、おはよう。目は覚めた?」
気がつくと、マティルデの顔が目の前に迫っていた。
僕、目覚めのキスを求められてる?
なんて思ってたら、アメーデオお兄ちゃんが僕の視界に横入りしてきた。
「おっ、ジャン=ステラ。調子はどうだ? 訓練でもないのに気絶する奴なんて初めて見たぞ」
なんて呆れ顔を僕に向けてくる。
仕方ないじゃない。にわか知識で口を出したせいで、二十もの命を奪ってしまったんだもの。
「絶好調、とは言えないけど、もう大丈夫だよ」
言葉とは裏腹に、こぼれ出る言葉には力がなかった。
今も、肩にずしんと重い荷物が乗っているような気がする。
それとも、ここはキリスト教の預言者らしく「僕は十字架を背負うことになった」とでも表現した方がいいのかな?
ーー予言として与えられた知識を使わないのは神への背徳。
大砲の存在を中途半端に伝えるのはだめで、きちんと後のことまで考えておくべきだった。
僕が贖うべき罪の十字架として、二十人の犠牲者を心に刻んで生きていこう。
思考が暗闇に落ちていき、どんより憂鬱に傾いていた僕の心は、マティルデによってとびっきりの現実に引き戻された。
「ジャン=ステラ、あなたはイタリア王になるのよ、いいわね」
有無を言わさぬ迫力を備えたマティルデの笑顔が僕の眼前に迫っている。
「イタリアの地はイタリア人が統べるべきなのよ」
マティルデがきっぱり断言した。
そこにアメーデオお兄ちゃんが笑みを浮かべて続ける。
「ジャン=ステラをイタリア王位に就けるのはアデライデお母様の悲願なんだぜ」
僕が気絶している間に、二人で話し合って決めたらしい。いや、正確にはアデライデお母様の意向が強く反映されているのだろう。
「はぁ……」
熱気を帯びて前のめりになる二人とは裏腹に、僕から漏れるのは乾いたため息。
ーーイタリア王ねぇ。正直、肩書きには興味ないんだけどなぁ。
「で、大砲さえあれば、皇帝ハインリッヒのドイツ軍に勝てるって言うわけ?」
確かに大砲があれば有利になると思うけど、戦争ってそんなに都合よく進むものだろうか。
僕はナポレオンじゃない。あの皇帝が欧州を席巻できたのは、砲兵を指揮する天才だったから。
「それだけじゃないぞ、ジャン=ステラ。アッティラ大王の剣もある」
アメーデオお兄ちゃんが、年代物の剣を僕に差し出してきた。剣の形は古いけれど、よく手入れはされていて、刃こぼれ一つ見当たらない。
「あー、なんか見たことあるかも」
ハンガリー戦役で僕がもらった古ぼけた剣で、たしか……。
「この剣の持ち主は、世界の覇者になる運命にあるんだぜ、ジャン=ステラ」
なるほど。ジンクスの力まで総動員する気らしい。
マティルデが朗らかに笑う。
「そうよ、ジャン=ステラ。カナリア諸島の王冠に加え、南北ステラ大陸にも王位を作るのでしょう? ここでイタリア王位が一つ増えたって大したことじゃないわ」
彼女が楽しげに微笑む姿は、数日前の不安げな顔とは雲泥の差だ。トスカーナが攻め滅ぼされるんじゃないかと悩んでいた頃に比べたら、よっぽどいい。
でもね、だからこそ不安になってしまう。まるでジェットコースターが頂点を越え、次の急降下へ向かう直前みたいに胸がざわついた。
「イタリア王になるのは構わないけれどーーねぇ、本当にハインリッヒに勝つ算段はついてるの? まさか、大砲ドーンで敵全滅!、なんて幼稚な作戦じゃないよね」
いくら大砲が強力でも、万事解決とはいかない。
トリノはピエトロ兄さんのおかげで何とか死地を脱したけれど、トスカーナは依然として周囲を敵に囲まれたままなのだ。
まして大砲がいくつあるかも分からないのに、浮かれている二人に違和感しかない。
「心配ないさ、ジャン=ステラ。作戦はきっちり立ててあるからさ」
アメーデオお兄ちゃんが胸を叩いて請け負ってくれたけど、本当に信じて大丈夫なの?
口角がひきつるのを感じた瞬間、マティルデが軽く笑った。さすがによく見ている。
「くすっ。安心して。作戦を立てたのはアデライデお義母様だから」
「え、い、いや、アメーデオお兄ちゃんを信じていないわけじゃないんだよ、本当だよ」
……しまった、心の中まで読まれてる。
「まったく……。とはいえ、ジャン=ステラの気持ちも分かるしな。今は聞かなかったことにしておこう」
アメーデオ兄さんは肩をすくめて笑った。
その笑みで胸のこわばりがほぐれる。作戦の土台を組んだのがアデライデお母様なら信頼できるもの。
「ここからは私が説明するわ」
作戦の主軸はトスカーナ。だから説明役はマティルデにバトンタッチ。
「まずはトスカーナを締め付ける包囲網を崩すわ。狙う順序は二段構え。第一にハンガリー王、次にザクセン大公よ」
現ハンガリー王ソロモンはハインリッヒの義弟だから寝返りは望めない。だったら先代王ベーラの子、ゲーザとラースローをそそのかして王国内に火種をまけばいい。
「ラースローって、ピエトロお兄ちゃんと一騎打ちをしたあの人だよね?」
そう。王座崩落で命を落としたベーラ王の身代わりとなり、わざと敗北してピエトロお兄ちゃんを立てた弟のラースロー。その後、兄ゲーザと共にポーランドへ逃れ、いまもハンガリー王位を虎視眈々と狙っている。
「ええ。そのラースローにアッティラ大王の剣を貸すのよ。たった一本でハンガリー国内に内乱の火が点くはず」
アッティラ大王はフン族、すなわちハンガリー人の大英雄。その威光があれば、ゲーザとラースロー兄弟が玉座へ舞い戻る可能性はきわめて高い、とアデライデお母様は踏んでいる。
「ザクセン大公には、ドイツ王を約束するわ」
「ねえ、マティルデ、そんな口約束でザクセン公が動くとは思えないんだけど……」
ドイツ北部一帯を支配するザクセン大公は、皇帝ハインリッヒ四世と仲が悪いことで有名ではある。しかし、仲が悪いだけで、敵対するとは僕には思えない。
「あなたの従兄弟のマイセン辺境伯エクベルト二世も借りるけど、確かにそれだけでは足りないでしょうね」
マイセン辺境伯エクベルト二世の母親はアデライデお母様の末の妹エミリア。つまり、マイセン辺境伯は僕のいとこになる。
高位貴族ってどこで血が繋がっているかわらないものだね。僕もびっくり。
それはさておき、マイセン辺境伯は約100年前にザクセン東方から独立した土地である。その生い立ちから、マイセン辺境伯はザクセン大公に一定の影響力がある。それは間違いない。
しかし、それだけで皇帝ハインリッヒ四世に反旗を翻し、ドイツ王を目指すとも思えない。
「ハインリッヒ四世がドイツに居れば、その通りだわ。でも、今はイタリアにいるのよ」
皇帝ハインリッヒ四世をドイツに帰らせず、ただイタリアに釘付けにして時間を稼げばいい。時間が経てば経つほど、ザクセン大公の反乱率が高まっていく。
「つまり『時間を味方につける』ということ?」
「ええ、そのとおりよ。戦いを引き延ばすほど、私たちが有利になるわ」
マティルデの言葉にアメーデオお兄ちゃんが大きくうなずく。
「兵士にとっても重要なんだぜ。『守ってさえいれば勝てる』という見通しがなければ、不安や裏切りが生まれてしまうからな」
彼はそう補足し、防御側にとって時間戦術がいかに重要かを教えてくれた。
その説明を聞いた僕は、守勢に立つ側こそ“時間”を武器にできると改めてわかった。
いやもう、お兄ちゃんが百戦錬磨の軍師みたいでカッコいい! 背中に後光が差して見えるほどだ。
……と感動したのも束の間。
「アデライデお母様が、そう言っていたから間違いないっ!」なんて胸をはって言わないでよ、もうっ!
「じゃあ、大砲はどうするの?」
ここまでの話に、戦術の要だと思っていた大砲が一度も登場しなかった。
「大砲はね、南方に持って行くの」
大砲は重くて運搬が大変。それに大砲本体だけでなく、火薬や砲弾、運用する技術者も必要になる。単に大砲を運ぶだけでは役立たないのだ。
だから、アルプス越えが必要なドイツに大砲は持っていかない。代わりに、補給が円滑に行える地中海での運用を基本とする。
「ということで、陥落が一番懸念されるバーリで役立てましょう」
イタリア半島南部でただ1ヶ所、東ローマ帝国が保持している拠点がバーリである。その拠点をノルマン人の将、ロベルト・グイスカルドが包囲している。包囲しているとはいえ、制海権は東ローマ帝国が握っているため、補給は容易にできる。
そこで、大砲はバーリの防衛に使うという。
「南方のバーリでグイスカルドの軍を釘付けにできれば、南方に割く兵力を北に持っていけるわ」
東ローマ帝国、というか将来の娘婿予定のアレクちゃんこと、アレクシオス・コムネノスへの義理もこれで果たせる、という一石二鳥を狙っているとのこと。
「戦略方針は以上よ。何か質問はあるかしら?」
長い説明を終えたマティルデが、僕に質問を促した。
「方針はいいと思うよ。でも大砲の数は足りてるの?」
「いい質問ね、ジャン=ステラ。その点をあなたと相談したかったのよ」
執務室の空気が若干緊張を帯びた気がする。
「ここからは俺が説明するぜ」とアメーデオお兄ちゃん。
「正直なところ数が少なすぎる。ピエトロ兄貴が持っている分を入れても9門しかない。理由か? 青銅砲を作る技術者はいても、材料の青銅がないんだ」
青銅砲の形は、教会で使う青銅製の鐘に似ている。そのため、設計図があれば青銅砲をつくる技術者は確保できるらしい。しかし、肝心の材料がなくて作れないらしい。
詳しい状況をマティルデが残念そうに話してくれる。
「トスカーナには銅山があるから、銅はあるの。でも、錫がないのよ」
青銅は銅と錫の合金だから、銅だけではだめ。
「そして錫はコーンウォールでしか採れないのよ」
コーンウォールは現代イギリスの南西部にある半島部分。
「じゃあ、コーンウォールから錫を輸入すればいいんじゃない?」
せっかく、ジェノバやピサの商人を支配下に置いているんだもの。こんな時こそ使えばいいと思うんだよ。
なのに、アメーデオお兄ちゃんとマティルデが、二人同時に無理だと主張する。
「コーンウォールは、イングランドの王位継承戦に巻き込まれて戦乱の渦中にあるのよ」
海千山千の商人といえども、戦争中の大量買い付けは難しいらしい。
「まぁ、ダメ元で錫を集めてこいと命令はしているけどな」とアメーデオお兄ちゃん。
「そこで、ジャン=ステラの出番なのよ。クリュニー派の修道院から鐘をもらってきて欲しいの」
マティルデが上目遣いで、僕におねだりしてくる。
とはいえ、その雰囲気とは異なり、内容はおねだりなんて可愛い代物じゃなかった。
青銅製の鐘を鋳潰して大砲を作るって、鍋を供出させて弾丸を作ったという第二次世界大戦の某国と同じじゃない!
「鐘をもらうって言っても、実際は奪い取るって事だよね」
きつい言葉を返したつもりなのに、マティルデはどこ吹く風で、鐘を供出させる具体案を話始めた。
「最近、多くの修道院がクリュニー派からジャン=ステラ派に鞍替えしているでしょう。その鞍替えした代償として、鐘を上納させればいいのよ」
鞍替えした修道院には、蒸留ワインや木酢液の作り方を教えているし、算数の教科書も順次配布している。その代償として、鐘を譲り受ければいいと、マティルデが主張する。
「うーん……」
マティルデの理由もわからなくもないけど、それでいいのかな?
青銅供出命令なんて、平和教育を受けてきた僕にとって心理的なハードルが高すぎる。それに、供出なんて、負ける側が最後にとる手段じゃないのだろうか。
煮え切らない態度の僕を、マティルデがじっと見つめていた。
ややあって、彼女は小さく息を吸い、ふるえを帯びた吐息が静かにこぼれた。
「ジャン=ステラ……」
呼びかけは低く穏やかだったが、声の端がわずかに震えている。
「私たちには、もう時間がないのよ」
か細かった声は次の瞬間、熱を帯びる。
「鐘は――トスカーナを守る最後の手段なの!」
肩が震え、感情が制御しきれなくなったのが見て取れた。
「ハインリッヒに負けてもいいの?」
声量が一段上がる。
「負けたら何も残らないのよ。トスカーナもトリノも。それに、あなたや私だって死ぬかもしれないのよ」
込み上げる怒りと不安をぶつけるように、マティルデが咆哮した。
「いい加減に目を覚ましなさい!」
そんなマティルデの勢いが怖くて、僕はガクガクと首を縦に振ることしかできなかった。
「は、はぃぃ!! わかりました! マティルデの言う通りに何でもします」
「はい、よろしい。私、素直なジャン=ステラが大好きよ」
そういって、マティルデが熱烈にキスをしてきた。なんだか誤魔化されているみたいな気がするけど、まぁ、いいや。僕もマティルデのキス、大好きだし。
マティルデの唇の感触を堪能していたのに、「うぉっほん」ってアメーデオお兄ちゃんの咳払いで邪魔された。
「アメーデオお兄ちゃん、もう話は終わったんじゃないの?」
お帰りははあちらですよ〜、と執務室の扉を目線で示す。
ちゃんと客室は準備しているから、ゆっくりくつろいでね。
だというのに、アメーデオお兄ちゃんは呆れ顔を僕に向けてくる。
「おいおい、まだ終わってないって。肝心の褒賞の話が先だぜ」
「その褒賞ってのもアデライデお母様が考えたんでしょ? そしてマティルデも了承している、と。だったらその案でいいよ僕」
だから、邪魔しないでよ。もう疲れちゃったから現実逃避したいの、僕は。
「ジャン=ステラ、せめて聞いてから了承してくれよ」
仕方ないから適当に相槌を打ちつつ聞くことにした。
―――<当面の目標:戦後処理>―――
「ひとつ。ジャン=ステラはイタリア王位に就く」
うん、それは問題ない。イタリアの地をイタリア人に取り戻すという大義名分そのものだしね。
「ふたつ。ゲーザかラースローをハンガリー王位に就かせる。
みっつ。ザクセン大公をドイツ王とする」
こちらも戦争方針そのものだから問題なし。
うんうんと頷いていたら、マティルデが耳元でささやいてきた。
「ジャン=ステラ、ここからが肝心の部分よ」
そっと吹きかかるマティルデの息がくすぐったい、けど我慢する。
「よっつ。ピエトロ兄貴をブルグント王位に推す」
そっかぁ、ピエトロお兄ちゃんも王様になるのかぁ。
皇帝ハインリッヒが持っている王位は現在3つ。ドイツ王、イタリア王、そしてブルグント王。ぜーんぶハインリッヒから奪うんだ。うん、大賛成!
「いつつ。イルデブラントを次期教皇に、弟のオッドーネを二代先の教皇に推す」
いままで僕の味方をしてくれたイルデブラントを教皇に推すのもいい案だと思うよ。
「ジャン=ステラ、本当にいいのか?」
とアメーデオお兄ちゃんが様子を伺っている。
「僕はいいよ。むしろ何が引っかるの?」
アメーデオお兄ちゃんの方こそ、何が問題だというんだろう。
「いや、お前預言者だろう? だったら教皇になりたいんじゃないかってね」
「えー、そんなん嫌だよ、なりたくないって」
そもそも聖職者なんてストイックな職業に就きたい人の気持ちがさっぱりわからないもん。
「まぁ、ジャン=ステラがいいなら、いいや。次にいくぞ」
僕はうなずき、アメーデオお兄ちゃんに続きを促した。
「むっつ。アデライデ姉貴の息子ベルトルトをシュヴァーベン大公に就ける。
ななつ。アレクシオス殿下を南イタリアを統括する総督に任命する」
南イタリアのバーリ一帯は東ローマ帝国の領土だから、アレクちゃんが統治するのは妥当なんだろうね。きっと東ローマ帝国の皇帝も認めてくれるだろう、とアデライデお母様は踏んだに違いない。
【長期目標】帝国再統合
「さてと、ここまでが戦争直後の話だな。これから、戦後のさらに先の話をするからな」
アメーデオお兄ちゃんと、マティルデが居住いを正すのを見ると、まだ難しい話が続くらしい。
あーぁ、早く終わってくれないかなぁ。
そんな気持ちが顔に出てしまったみたいで、マティルデに肘で脇腹を突かれちゃった。
「ちょっと、ジャン=ステラ、ちゃんと聞きなさい。ここからが本番なのよ」
「はーい。わかりましたぁ」
「やっつ。戦争が終わったら、ジャン=ステラは皇帝を目指す」
現在、僕の王位はカナリア諸島王だけ。これにイタリア王が加わり、将来的には南北ステラ大陸王とか、東ステラ大陸王とかも名乗ることになりそう。
王位を複数持っている場合、皇帝を名乗った方がいいんだったっけ?
よくわからないけど、まぁ、いいや。
「そして、ここのつ。アレクシオス殿下を東ローマ帝国の副皇帝に推戴する」
東ローマ帝国は、東にセルジュークトルコ、北に遊牧騎馬民族、そして南イタリアでグイスカルドという敵を抱えていて、政情不安定になっている。
そこで、南イタリアを安定化した後、アレクちゃんに東と北の守りを担ってもらう。
「それなら、いっそアレクちゃんに皇帝になってもらったら?」
副皇帝なんて中途半端なことを言わずに、皇帝にしちゃえばいいって僕は思うんだけど、強く否定されちゃった。
「いや、それはダメだ。皇帝はジャン=ステラ、お前が就くんだからな」
「さっき僕が皇帝を目指すって言っていたのは、東ローマ帝国のことだったの?」
地縁のないギリシアで、僕が東ローマ帝国皇帝になるのは無理筋だと思うんだけど……。
「東ローマ帝国じゃないぞ。ジャン=ステラ、おまえが目指すのは東西を統合したローマ帝国皇帝だからな。
そして、オッドーネが教皇に就いた後、東西教会を統一するからな」
東方教会の総主教は、東ローマ帝国皇帝にほぼ従属している。そのため、僕が東西ローマ帝国の皇帝になれば、教会の統一ができるらしい。
「なんとも凄い計画だねぇ。でも、実現できるの?」
さすがに大風呂敷を広げすぎじゃないかしら。
「そんなん俺もわからん。でもお母様がやるって言ってるし、マティルデ様も乗り気なんだから何とかなるんだろうよ」
マティルデが僕の手を握ってきた。
「大丈夫よ。ジャン=ステラなら間違いなく実現できるから」
まぁ、ダメならダメでいいや。その時になったら考えようっと。
以上がアメーデオお兄ちゃんの長〜いお話だった。
「細かい調整は必要だろうが、大きな案件はこれだけになる」
あれ、おかしいな。一つ抜けてると思うんだけど。
「アメーデオお兄ちゃんの褒賞は?」
「あー、それなんだがな……」
アデライデお兄ちゃんはちょっと言い淀んだ後、
「アデライデお母様からは、ジャン=ステラに何か貰えって言われていてなぁ」
と後ろ頭をぽりぽり掻いた。
「じゃあ、新大陸を担当する副皇帝なんてどう?」
新大陸でトマトとコーンは手に入れた。
あとは、南アメリカでじゃがいもをゲットしたら、新大陸なんて用無しだもん。
統治なんて面倒なお仕事はアメーデオお兄ちゃんにぽいっと丸投げ。
僕は、じゃがマヨコーンピザを食べてノンビリ暮らすのだ。