閑話:イースターの贈り物(マティルデ視点)
1064年3月中旬 北イタリア カノッサ城 マティルデ・ディ・カノッサ
朝の冷え込みは緩んできたけれど、布団の中から出られない。寒いから、だけではないのよ。寝る前からずっと考えがまとまらないの。
「ジャン=ステラへのプレゼント、これでいいのかなぁ」
悩んでいるのは4月17日にある復活祭の贈り物。お抱えの宝石商と細工師に注文していた品が届いたのが昨日。それからずっと悩みっぱなし。
(どんな品ならジャン=ステラは喜んでくれるのかしら)
ベッドに座って机の上に目線を向けると、そこには二組のピアスが置かれている。
その一組は繊細な装飾が施された銀細工のピアス。昨年のクリスマスにジャン=ステラから貰った私の大切な宝物。
もう一組は、昨日、お城に届けられた男性用のピアス。こちらも精巧なディテールの彫りで飾り立てられた見事な品ではあるのよ。目の肥えた宝石商も「どちらも素晴らしいアクセサリです」と太鼓判を押していたくらいだもの。
つまり、多くの人の目にはどちらも同じように美しく映っているのだと思うわ。
でも、それは表面しか見ていないから。
私の目は全くの別物に映っている。だって、ジャン=ステラが私にくれたピアスは光り輝いているのだもの。
「このピアスはね、マティルデお姉ちゃんの事を想いながら作ったんだよ」
ピアスに添えられたジャン=ステラの手紙は、こんな文で始まっていた。
「耳に触れるトップにキラキラ輝くビジュー(小さい宝石)があるでしょ。これはね、キラキラ輝くお姉ちゃんの美しさを表現しているんだよ。
そして、ゆらゆら揺れるボトムの銀鎖はお姉ちゃんとの運命の糸。糸の絡まりはお姉ちゃんと僕との出会いを表しているんだ。これから何度も、何度でも出会えますようにって。
もう一つのボトムにベルフラワーの花を添えてみたよ。マティルデお姉ちゃんはベルフラワーの花言葉を知ってる? それはね、楽しいおしゃべり。
僕はね、たくさん、た~くさんお姉ちゃんと一緒にお話ししたいっていつも思ってる。
そんな日の訪れが来ることを祈りながら作りました。このピアスがお姉ちゃんのお気に入りになってくれますように」
ジャン=ステラの手紙を思い返すたび、胸のうちが熱くなってくるんだもの。私が宝石商に命じて作らせたピアスでは全く敵うわけないじゃない。
でも、どうすればいいの? 一晩悩んでも、やっぱりわからない。
二組のピアスを前に、無益にため息をつくばかり。
「そうだっ!」
侍女のニナに聞いてみるのはどうかしら?
小さい頃から身の回りの世話をしてくれているニナは、私にとって姉みたいな存在。だから恋の相談にも乗ってくれるに違いない。
それにニナはいつも品の良い服を着ているし、兄も弟もいるから私よりも殿方の好みについてよく知っているわよね。
「ちりん、ちりん」
善は急げと私は呼び鈴を鳴らし、ニナを呼び出した。