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お金儲けは悪徳なの? その1

 

 1056年9月中旬 イタリア北部 ピエモンテ州 トリノ ジャン=ステラ


「ジャン=ステラ、おまえが大きな船が欲しい理由はよくわかった。でもなぁ…」

 真面目な顔をしたオッドーネが歯切れわるそうに話し始めた。


 その話しぶりに僕は背筋を伸ばして話を聞く姿勢を整えた。


 オッドーネの話は、現在のトリノ辺境伯領が置かれた状況についてだった。

 神聖ローマ帝国皇帝のハインリッヒ3世の余命が短いこと。

 後継者のハインリッヒ4世が6才と幼く、ドイツ王国内での内紛が予想されること。

 イタリアのジェノバが神聖ローマ帝国からの独立する気運が高まっていること。

 これらの対応にトリノ辺境伯家も巻き込まれる可能性が高い事。


「だから、大きな船を作っているような余裕が我が家にはないんだ。

 ハインリッヒ3世陛下の治世がもっと長かったら良かったんだがなぁ。」


 オッドーネはうつむき加減で悲嘆に満ちた言葉で話を締めくくった。


「お父様、お話をありがとうございます。 トリノ辺境伯の置かれた状況を僕も理解しました。

 それに僕だって今すぐに船が頂けるとは思っていません」


 オッドーネ、アデライデ、アイモーネの3人が疑わしそうな目つきでこちらを見ている。


「い、いやだなぁ。僕はまだ2才なんですよ。 船に乗ることもできないです」


「確かにそうだなぁ。 話し方が2才でないから、ついつい忘れてしまうなあ」

「でも、トリートメントの時もそうでしたが、あなたは思ったことをすぐに実行してしまうでしょう」

「そうですね。明日にでもトマトが欲しいって感じでしたしね」

 3人が笑いながら僕に軽口をたたいてくる。


 うん、先ほどまでの重苦しい雰囲気がとんでったよ。

 やったね。 計算通り、というわけじゃないけど、結果オーライだよ。


「いつ西に旅立つかはさておき、今はトリノ辺境伯を安定させることが先決ですよね。

 その後に船でもちろんかまいません。」




「そうそう。 領地を安定させるためにジャン=ステラにお願いがあるんだ」

 船の話が一段落ついた所にオッドーネが違う話題を持ち出してきた。


「なんでしょう? 僕にできる事なら協力しますよ」


 その言葉にオッドーネとアデライデが頷きあった後、今後はアデライデが話し始めた。


「ジャン=ステラ、あなたの作ったトリートメントの事なのです」


 僕が原型を作り、母アデライデとアデライデねえとで改良したトリートメント。

 トリノの新しい特産品として、貴族女性との社交の切り札として使いたいとのこと。

 さらにはジェノバが独立することで悪化した関係を早急に立て直すための交易品としても役立てたいとのことであった。

「せっかく、ジャン=ステラが考えてくれたのに、それを取り上げるような感じになって申し訳ないのですが、私たちに扱いを一任してもらえないかしら」


 言い終わったアデライデは、再度オッドーネと視線を交わし、うなずきあっていた。


 自分たちの子供に対してこんな風に懇切丁寧に説明してお願いしてくるなんて。

 ぼくはとっても驚いたよ。

 前世でも「子供のものは親のもの」と考えている人は大勢いた。

 それなのに、きちんと了承を得ようとしてくれるなんて。


「お母さま、丁寧に説明してくれてありがとう。 もちろんトリートメントをどうするかはお任せします。

 トリノ辺境伯家のために存分に役立ててくれると僕もうれしいです」


「それはありがたい」「ジャン=ステラ、ありがとう」

 オッドーネとアデライデが感謝の言葉を口にした。

 横で見ているアイモーネも嬉しそうに笑っている。


「でも、トリートメントだけでいいんですか? 他にもいろいろ思いつきそうなんですけど。

 まだ2才の僕に代わって行動してくれる家臣を付けてくれたら、

 いろいろとお金儲けしてトリノ辺境伯家を裕福にしてみせますよ?」


 うーん、そうだなぁ。

 トリートメントに似たものだと石けん。 液体石けんはあっても固形石けんはないみたい。

 同じ衛生用品つながりで歯ブラシ。


 周りをみわたしても団扇(うちわ)みたいな(おうぎ)はあるけど、扇子(せんす)はない。

 食卓にナイフはあってもフォークやスプーンもない。


 食器も陶器やガラス器はあるけど磁器がない。磁器って動物の骨を焼いて作るんだったよね、たしか。


 ん? ガラス製品ってトリノ名産品だよね。 だったらレンズができないかな。


 まだ見たことないけど蒸留酒があるなら、木酢液もつくれそう。

 木酢液があれば、農業生産があがるかな?


 ちょっと考えるだけでもいろいろアイデアが浮かんでくる。

 全部は無理でも、いくつかはお金儲けができる商品になりそうだ。


 僕の言葉にオッドーネとアデライデが賛意を表す中、アイモーネは困ったような顔をしている。


「ジャン=ステラ様、お金を集める事は悪い事なんですよ」



 ーーー

 ジャン=ステラ   特産品とするなら、偽造と模倣対策しておいてくださいね

 アデライデ      ええ、そうね。作り方さえわかればすぐに複製できるわね

 オッドーネ      そこは任してくれて大丈夫

 ジャン=ステラ  どうするの?

 オッドーネ      貴族女性に直接、少量だけ売る

 ジャン=ステラ   たしかに貴族が自分で解析して複製するとは思えないね

 オッドーネ      それに少量の方が高値で売れるぞ。 ふっふっふ

 ジャン=ステラ   おぬしも悪よのぉ


 *オッドーネは直感で動くタイプですが、決して脳筋ではありません。

 *教会が独占していた銀貨鋳造を独自に行っています

 *ただ、教会の妨害にあってすぐに頓挫していますが...

 *直感だけで根回しが苦手だったんでしょうね。

ご愛読いただきありがとうございます。

1話が2000文字くらいと短くてすみません。


これでも1日かけて1話執筆が限界です。

他の執筆者の皆様は、超人なのでしょうか?

私には到底まねできそうにありません。


一回の凡人でしかない我々執筆陣のやる気を維持するため、皆様にご協力いただければ幸いです。


続きを読みたいと少しでも思っていただけましたら、ブクマ、評価をお願いいたします。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 扇子の発祥地は実は日本らしい。 木酢液ができたら消毒液とか正露丸(笑)でしょう!(クレゾール石鹸液の材料ですし)
[一言] お金を集めるのは悪い事。だから、莫大な寄附を行った。 だって。集めたいし欲しいんだもん。……ですよね〜。
感想一覧
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