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ギリシア宛の手紙

1063年3月上旬

イシドロス・ハルキディキ から コンスタンティノープルのミカエル・プセルロスへの手紙



 敬愛なる我が師 ミカエル・プセルロス様


 コンスタンティノープルにてお会いしたのは、かれこれ五年も前になりましょうか。


 当時、元老院議長であったミカエル様が、東ローマ帝国の財政を立て直したご活躍は、ギリシアの地を遠く離れた北イタリアでも称賛を浴びておりました。


 そして今も、東ローマ皇帝・コンスタンティノス10世ドゥーカス陛下の相談役として、外交面においても成果を挙げ続けていると聞き及んでいます。


 その中でも、アナトリア半島への侵略を企むセルジューク朝トルコへの対応は素晴らしいの一点張りです。

 トルコ支配下のイラン高原を北側と北東側から包囲する外交戦略の壮大さは、さすがはミカエル様と驚きをもって迎えられています。


 その地政学的見識を得るにあたっては、我が(あるじ)・ジャン=ステラ様の地図がお役に立ったと確信しております。また、外交使節の派遣により、ジャン=ステラ様の地図が正しい事を確認できたと思います。


 まさしく、ジャン=ステラ様は預言者である事を、ミカエル様にお認めいただけたものと私、イシドロスは信じております。



 今回、我が(あるじ)・ジャン=ステラ様からのお願いをお聞き届けいただきたく手紙を送りました。


 この度、ジャン=ステラ様は、ご自身の預言について研究する者を秘密裏に集めることとなりました。


 その預言の範囲は大変広く、帝都大学で教える学科のうち、哲学、医学、算数、幾何学、天文学、音楽学、法学の教師陣、および学生を家庭教師という名目でトリノに招きます。


 さらに、錬金術師をはじめとする各種技術者も北イタリアへと連れて行きます。


 ミカエル様につきましては、その後押しをお願いしたい次第です。


 ただし、このような手紙一本では、東ローマ帝国の重鎮であるミカエル様にご納得いただけないと存じます。詳しくは、私がコンスタンティノープルに赴いた後にお伝えしますが、各学科に関する預言について、その一端を披露いたします。


 哲学:万物は、陽子・中性子・電子からなる原子で出来ています


 医学:瀉血(しゃけつ)は無意味どころか、害悪です


 算数:0より小さい数は存在します


 幾何学:一筆書きを理論化しました


 天文学:火星を回る月が2つあります


 音楽学:この手紙を届ける従者に「喜びの歌」を授けています


 法学:人が生まれながらに保持する権利、人権というものがあるそうです


 ジャン=ステラ様が神より預かった知識は、これだけに留まりません。

 物を作る技術への造詣(ぞうけい)も深いものがあります。


 ただし、知識はあっても作るためには技術者が必要となります。北イタリアの劣った技術を補うべく、東ローマ帝国の優れた技術者を多く欲しています。


 ミカエル様の、ひいては帝室のご協力を(たまわ)らんことをお願い申し上げます。


 追伸:

 ジャン=ステラ様の預言は、これまでの預言と性質を(こと)にしております。


 これまで預言とは、「人々のとるべき態度や行動を指示し、規範を示す」ものでした。


 ところがジャン=ステラ様の預言は、いうなれば「神の作りたもうたこの世界を知れ」と命じているように私は感じております。


 われわれキリスト教信者に対し、神は「神の叡智の一端に触れること」をお許しになったのかもしれません。

セルジューク朝トルコ包囲網


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 科学の発展って宗教との分離が不可欠なハズなんだけど、ジャン=ステラ大学(仮)では新発見のたびに 「やはり神は正しかった」 ってなりそう。
[一言] 「喜びの歌」だけで、ミカエル様失神しそう……
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