008.孤児院リフォーム 3
エレンが孤児院リフォームの助っ人に立候補してから約2日。またまたセレスに起こされると、リビングではつなぎを着たエレンが我が物顔でコーヒーを飲んでいた。聞けば1時間ほど前に来てセレスとずっと女子会まがいのことをしていたらしい。これからやることが力仕事なのにのんきなことだ。
「結局店はどうしたんだ……?」
「え、普通に一昨日から臨時休業するって張り紙してたし、常連さんにも普通に話したわよ」
「そりゃあ用意周到なこって。つーか人の家でくつろぎすぎだろ」
「それに関しては人のこと言えないんじゃない? あと、もうちょっとで行く時間なんだから早いとこ身支度整えてきなさいよ」
まったく……エレンは俺のなんなんだ。まあいい、セレスが朝食の運日をしている間に身支度を整えておくことにしよう。
〇 〇 〇
すべての支度を整えた俺たちは、店の防護柵を降ろし、ポストを置いてから孤児院に向かう。ギルドで魔石とか直接孤児院に届かなかった物資を受け取るために、まずはチャーターした馬車をとりに行き、そこから孤児院に向かう。
王都という一つの都市とはいえ、流石に広いし人通りも多い。久しぶりに御者をやったのも相まって予定より30分近く遅れて孤児院の前に到着してみれば、そこには資材・木材・版材の山。 これから一つの小屋を作るといわれても納得できるような量が玄関横のスペースに鎮座していた。
「ねえジョン、あんな使うの……?」
「ん、ああ」
実際のところを言うと、あそこから採寸したサイズに切り落とすから実際に使う量はまた違ってくるんだが……ちなみに馬車の中に魔石と金具もある。正直男性1人と女性2人でやることじゃないんだが……昨日居酒屋で知り合った土木屋のおっちゃんが「そんなら午後暇だから行っちゃる」といい弟子数名と来るらしいのでそれまでの辛抱だ。
「ひとまず、シスター・メリッサに挨拶しに行くか」
「そうね。私も久しぶりに会いたいし」
「それでは、私は資材の整理などをしておきますので」
「ん、了解」
それから、エレンと一緒に挨拶を済ませた俺たちは早速作業に取り掛かることに。午後の救援が来るまでは、なるべく2人もできるような細かい場所を中心にすることにした。例えば、2段ベッドの支柱の交換とか、椅子の足の交換とかだ。床の張り替えとか窓枠とかのやつは人数が集まってからじゃないと時間がかかってしょうがないからな。
ちなみに、なんで素人の女性でも支柱交換などができるかというと、王国で使われている家具のほとんどがパーツとパーツを簡単な金具で固定して組み立てているからだ。だから1パーツの交換くらいなら、金具のロックを外して、その部分を替えのパーツに入れ替えてまた固定すればいいだけなのだ。
金具自体が壊れていたり、壊れそうなものは別だが、それ以外ならそこら辺の初級学校の1年生でも満足にできるだろう。ただ、横着をしたりすると一気にバラバラになったり、指を挟んだりするかもしれないしという理由で俺たち鍛冶屋にその依頼が回ってくる。うちはどちらかというと冒険者の武器や防具の修理、料理屋の命と言える包丁の研磨などが主な収入源だが、大手はこれが依頼のほとんどを占めている。
そんなわけで、あちらは彼女たちに任せてもおおむね大丈夫なので俺はまた調理場で魔石の交換とか掃除とかを担当。買ってきた魔石と古い魔石を取り換えて、周辺をお気に入りになったオチルンデスを使ってカビなどを落としていく。毎日30人以上の孤児と聖職者の食事を作っているキッチン周りを労うように作業をして終了。それ以外の午前中は家具の壊れた金具を修理しておいた。
しかし、3時間という短い時間ではやれることは少ないため、すぐに昼になってしまった。細かいところはすべて終わったからいいものの、残っているのを鑑みると残り半日でできる量ではなさそうだ。
「もしかしたら明日もやることになりそうだなぁ……」
「そうですか、ゆっくりでいいので無理しないでくださいね」
「ああ、はい」
「さて、私は張り替えない部分の廊下や部屋を掃除してきますね」
ご厚意でサンドイッチとシチューを用意してくれたシスター・メリッサは、軽く会話をするとほうきを持って食堂を出ていった。それにしても、昔は大人のしっかりとしたお姉さんという感じだったシスター・メリッサも今じゃ少し年配といった感じになっていたのには驚いた。気づけばセレスもしっかり家事とかができるようになってたし、時の流れは不思議なものだ。
「そういえば、さっき椅子の足変えてた時に聞いたんだけど、ここのシスターさんたちは年配の方が多くなって、かがむ作業がキツイって言ってたわね」
「なるほど。掃除も何かとかがんだりするので大変そうです……スミス様、手伝ってきます」
「いや、やめとけ。午後は特に重労働になるからな」
いくらセレスは俺たちの半分くらいで、シスター・メリッサの4分の1くらい若いとはいえ、この後重いものを持ったり、なんならかがんだする作業が多くなる。それを考えたら今は体力を残しておかないと、文字通り”死ぬ”。
「いえ、私は大丈夫ですので。これを食べたら手伝ってきます」
「まあそれならいいが……」
最近、徐々に話を聞かなくなってきたセレスは、持っていたサンドイッチを口に放り込むと、シチューでそれを流し込んで外に行ってしまった。若いのはいいが、徐々に反抗期に突入していっているような気がしてならん。
「若いってのはいいわねぇ……あのくらいの元気がうらやましいわ」
「だな。俺たちも年取ったなぁ。20代では言いたくなかったけど。セレスみてたらいいたくなるわ」
「確かにねぇ」
向かいの席でセレスが去っていくのを見たエレンは、コーヒーを口に運びながらそんなことをつぶやいている。その姿はどこか、自分の子供を見ているようだ。もしかしたら俺も同じようになっているかもしれないが。
「さてさて、私たちも早く食べちゃいましょうか」
「ああ。エレンは体力大丈夫か?」
「伊達に一人で大衆食堂回してないのよ。まだまだ残ってるわ」
「それならいいが、無理はすんなよ」
俺もまだまだ体力は十分残っているし、午後も大丈夫だ、ただ、シスター・メリッサがいうシスターの悩みは思っているよりも深刻だろう。
……何か作ってみてもいいかもしれない。