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012.食欲魔人と調理器具 3

 昼食を食べに来たら身内の人気で暴動がおこるという珍事から数時間が経過した。荒れに荒れまくった店内をなんとか(ほぼ)原型に戻し、壊れたところは家から修理器具を持ってきてすべて直した。手持ちの資材でここの椅子の材料と合致するものがなかったから一時的に違うのにしたりしたので統一感もくそもない不格好になってしまったが。


「いや、ほんっとうに申し訳ない! 修理費はすべて僕が出すから!」

「そんなことないわ。混んでて助けてもらってた時に起きたことだし」

「お前少しは有名人って自覚あんの?」

「過去の君にもその言葉言ってあげたかったよ!!」


 ようやくひと段落付き、店のカウンターに腰かけた俺たちは普通に文句を言い合っていた。なぜ昼ご飯を食べに来たらこんなことになってしまったのか……あらためて考えても理解できることが一個もない。っていうかアレスは本当に有名人という自覚はあるのだろうか……。


「そ、そういえば結局この大繁盛の理由はなんだったんだい?」

「え、ああ。昨日新メニューで出した海鮮東洋風パスタが美味しいって話題になってねぇ。うれしいことなんだけど、まさかここまでになるとは一切思ってなかったわ」

「ちなみに俺は初日の開店前から並んで食った」

「昨日の夕方に近所に用事があり出掛けたのですが、その時にはすでに話題になっていましたので……しかし、まさかこれほどとは思いませんでした」


 なるほど、だからセレスは今日の昼はここの手伝いに来ると決めていたんだろう。相変わらず近所のおばさんたちのネットワークから色々情報を拾ってくる子である。っていうかおばさまネットワークの広まり方凄すぎだろ。アレスがドン引きしてるのがいい証拠だ。


「で、二人は何しに来たの?」

「純粋に昼飯を食いに来たんだけど」

「こんなことになったからまだ食べてないんだよね」


 こんなことにって……誰のせいでなったんだよ誰のせいで……。まあいい、とりあえず昼飯を食べることにするか。


「ちょうどいいわ。私もお腹空いたし、セレスちゃんにもまかないで何か作らないとだし」

「はい……さすがに私も空腹です」

「それじゃあ、僕の驕りでいいから大皿料理を2品くらい頼むよ」

「わかったわ。っていかお代はいいわよ、さっき手伝ってもらったし」


 手伝ったお礼にとご馳走すると要ったエレンに「さすがにそれはできない」と言い交渉(?)に行くアレスだったが、3分もしないうちに言い負かされて帰ってきた。なんでも「これでも稼いでるから」と言って、月収を聞いたらここ最近は自分の1.5倍も売り上げがあったという。一品が安めの大衆食堂とはいえ、あんなに人がいたらそりゃあそうだわ。


「王都警備の花形職の事務局長がこんな……」

「カルチャーショック受けんな……素直にご馳走してもらおうぜ」

「じゃあ君は久しぶりに会った幼馴染同然の身内に奢らせるかい!?」

「それはただのサイコパスだろ」


 ったく、相変わらずルールというか、そういう慣習のようなものへの融通が利かない男だ。これも人付き合いの中の一つに過ぎないのだが……しょうがない、今言ってもどうせ何も通じないだろ。


 なぜかセレスも作るのにそのまま参加していたからか、10分と経たないうちにテーブルには大皿料理が2つとパン、サラダにスープが並んだ。この量だと大きめのテーブルに座ってなかったら収まりきらなかっただろう……。作りすぎだ。


「それじゃあ食べようか」

「そうだね。温かいうちにいただこう」

「それじゃ、私はこのエプロン置いてくるわね~。セレスちゃん先食べてて」

「わかりました……」


それにしても、俺とアレスにエレンが揃って食事するのなんて本当に何年ぶりだ……? それこそ10年単位でなかったんじゃかろうか。孤児院を出てから俺はハンターになったし、アレスもアレスで色々あった。エレンはここでずっと働いてたからやろうと思えば3人で集まることはできたが、どうもその時俺は一人で行動することを好んでたからな。


「それにしてセレスちゃんも大きくなったねぇ。あの時ジョンが連れ帰ってきたときは何があったかびっくりしたけどね」

「……そうだったんですか?」

「僕はその時見習いで王都外周の検問所で門番をしていたからね。そんなときにジョンがボロボロになりながら連れ帰ってきたんだよ。……おっと、この話はあんまりしない方がいいね」

「わかってくれたなら何よりだ」


 急に当時の話をセレスの前でし始めたので、大きめのパンに食らいつきながら睨みつけてやると、少しおどけた顔をしたアレスはすぐに黙ってくれた。まったく、油断も隙もあったもんじゃない。

 ちなみに言っておくが特にやましいことは一切ない。誘拐でもないし、俺がロリコンだったとかでもない。ただ俺が”守れなかったことの証”であり、セレス自体も相当特殊な境遇を持っている。それはまだいうことじゃない。それだけだ。


「しかし……エレン様とアレス様はお知り合いだったのには驚きました」

「ああ、僕もジョンとエレンと同じ孤児院の出身なんだよ。だいぶ出世できたからほとんどの人は知らないけどね」

「そういえば、どうしてジョンとアレスは二人でいたのよ。そこがさっきから気になってたんだけど」

「それはだな……かくかくしかじか」


 今回の件についてほぼほぼアレスは関係ないんだが、一応そこの関係も踏まえつつエレンに話していく。セレスも依頼書を渡されただけで特に詳しい話は聞いてなかったらしいのでついでに説明しておく。エレンには後で相談しに行こうと思ってたから一石二鳥だ。


「なるほどねぇ。でも、それってほとんど無理難題じゃない?」

「そういってんだけどなぁ……」

「僕も正直な話この依頼を仲介するのには滅入ったけど、警備局としてはカロリー子爵にいい顔しておかないと困るんだ。比較的協力的で一部装備を提供しているのも彼だし」

「それは仕方ないわねぇ」


 その仕方ないわねぇで無理難題吹っ掛けられて迷惑しているのは俺なんだけどなぁ……新しい調理器具だろ? それであわよくばそのご令嬢さんに食を好きになってほしいんだろ? どうすりゃいいんだよそれ。


「ちなみにそのお嬢様の好物とかってわかる?」

「確か焼いた肉は比較的好物だとか。少ししか食べないらしいけど」

「お肉ねぇ……それだと結構調理法は確立されつくしたと思うけどなぁ」

「じんおわ」

「終わらないでくれ頼むから」


 食べるのは好きじゃないのに肉が好物なのかよ。血は争えないな。

 まあそれはあとで考えるとして……久しぶりに食べた野菜炒めが美味い。塩加減がしっかりしているし、芯まで火が通っている。ただ、ところどころ砂というか、石のような食感のものがある。それが気になるのだが……。


「なあエレン、この石みたいな食感のやつなんだ?」

「それはね、岩塩っていうのよ。プレートを細かく砕いて瓶に詰めて売られていたのよ。旦那に好評だったから試してみたの」

「なるほど。つまり砂みたいなやつは塩だったのか」


 だからかなり塩の風味が強かったのか……脂身が少ない肉によく合うなこれ。


 ん、待てよ。岩塩って鉄と同じで熱伝導したよな?


「……? ジョン、どうかしたの?」

「ああ、思いついたんだ。今回の案件を一発で片付けられるのを!」


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