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011.食欲魔人と調理器具 2

 結局、食べてばかりでほぼ何も話さなかったカロリー子爵とは別れ、俺はアレスと一緒に工房まで帰っていた。業務はいいのかと聞いたら、今日はこのためだけに出社させられたとのこと。本来は週に2回ある非番の日だったらしい。最近こいつこのパターン多いな。


「しょうがないじゃないか……公的機関の、これでも重役の部類に入る職業なんだから。それも込々でまあまあ高い賃金が払われているんだよ」

「まあそれもわかっちゃいるがな……給料と言えばセレスが給料何かに使ってんの見たことがねぇな」

「へぇ、そうなんだね」

「ああ。小遣いとは別にそこら辺の売り子と同じかちょっと高いくらいのを渡してやってるんだが……あいつは全部それを貯金していってるんだよなぁ」


 小遣いも人並みには渡しているんだが、それもなんやかんやで自分で使うものに買ってきたことはほとんどない。服とかもそれは別途で買えるだけのマネーは渡している。でもいつもエレンに選んでもらってるみたいだし、ファッションとかに興味はなさげだし。自分で買ってくるのなんて唯一好んで買ってくるメイド服モドキくらいだろう。


 何をどうするのが正解なのかねぇ。やはりそこら辺はわからぬ。


「それで、なんで俺についてきてんだっけ?」

「だーかーら! 一緒にお昼ご飯でもどうだいってさっきから言ってるじゃないか!」

「いや、だってまた泥酔させて今日みたいなことになるんじゃないかと思ってな」

「さすがにもうあんなことにはならないよ! それを常套手段かデフォだと思わないでくれ!!」


 まあそれは冗談だが……俺も少しは話したいと思ってたしちょうどいい。同じ孤児院出身のやつらの面倒や相談事を聞くのは俺の役目だからな。


「そんで、じゃあ飯はどこ行くんだ?」

「そうだね……僕のおすすめの店はここからちょっと遠いし反対方面だから。エレンがやってるところに行かないかい?」

「ん? ああ、”ノルン”か。いいんでない?」


 ただ、ゆっくり話すにはあそこの店は混みすぎる。元々大衆食堂だからそれなりの人口が入ることが前提にされているところだし。またラストオーダーぎりぎりに入れさせてもらうか。そういえば今日はセレスが昼頃に手伝いに行くと言ってたしちょうどいい。アレスも数年ぶりに会ってみたいと言ってたし。


「んじゃ、それまで家に来るか?」

「そうだね、そうしようか。せっかくの休日だからのんびりしたいし」


  〇 〇 〇


 来た道を戻りながら、エレンに手土産を買っていきたいというアレスのショッピングに付き合わされること30分ほど。ようやく”ノルン”や俺の鍛冶屋などがある地区まで帰ってきた。何かと遠いんだよな、あそこまで。


 結局、エレンの旦那にもスパークリングワインを買ったアレスとともに家に向かっていたところ……なんだか見慣れない行列を発見した。やけに並んでる人の数が多い。ところどころに貴族っぽい人いるし、学生っぽいのもいる。これ、どうしたん?


「なかなかの行列だねぇ。この先に人気の占い館でもあるのかい?」

「そんなん聞いたことがないな。いや、まさかとは思うが……」


 この通り、実を言うと”ノルン”があるとおりだ。その証拠にしっかりと”大衆食堂 ノルン”の看板が見える。そして、視線を下にスライドすると行列はその下に向かって少しだけ曲線を描いているではないか。


 ……まさか!


「おい、ちょっと裏口から覗いてくぞ。 ワンチャン俺たちがヘルプに入る必要あるかもな」

「いや、そんなことしなくても。従業員はエレンの他にもいるんだろう?」

「いねーよ。いるとしたらセレスが手伝いに来てるくらいだ」

「は!? それは流石に自殺行為だよ!」

  

 やはり”ノルン”の入り口に行列が集中しているのを確認した俺たちは軽く走りながら裏口に駆ける。アレスが言う通り、これを2人で捌くには限界がある。オーバーワークもいいところだ。

またまた十字路を塞いでいる客を押し分け、過去に冷蔵庫を搬入したところからドアを開けると、またエレンが忙しそうに厨房を動き回り、セレスが次から次に皿という皿を運んでいく。


「おーいエレン、なんか手伝うことあっか?」

「エレン、大丈夫かい!?」

「あら、ジョン……なんでアレスがいるかは後で聞くとして。手伝ってくれるなら二人とも料理はこんでくれる? セレスちゃんはこっちで調理手伝って!」


 思った通り、人手は圧倒的に足りていなかったようだ。あのセレスがまあまあ疲れているのは最近見たことがなかっただけに、これはさらなる危機であることを知る。よく今まで二人でやっていたものだ。すぐに二人そろって手を洗うと、後ろには完成した料理が3品もおかれていた。


「一番左は6番、真ん中は12番、一番右はカウンターの1番ね!」

「ジョン、どこがどこのテーブルかわかるかい!?」

「そうか、お前わかんないんだったな。そこのカウンターから見て、時計回りに1番、2番だ」

「よし、覚えた!」


 素早く確認を終えると、俺とアレスは皿を両手に持って店内に繰り出した。それからは料理を出して料理を引っ込め、料理を出してから料理を出して、そして皿を引っ込める。しばらくはそれでよかったんだが……。


「あ、あの! 北警備局長のアレス様、ですよね!」

「え、ええ? そうですが……」

「なんでここで料理なんて運んでるんです!?」

「い、いやこれにはちょっと事情がね……」


 そう、アレスは有名人。今では王都警備の花形である警備局の局長なのだ。その人気は貴族から見合い話が続々来るくらいだから、当然一般人の女性にも人気があるわけで。


「キャー!!! アレス様よ!!!」

「アレス様、こっちに料理運んでぇ!」

「こっち向いて、こっち向いてぇ!!!」

「てめーアレス!!! もういい、お前は引っ込んでろ!!!」


 とうとう”ノルン”の店内がファンの女性で埋め尽くされ、キャーキャーと黄色い声援が飛び交うところになってしまった。そこら辺のアイドルの握手会じゃねーんだぞここは!! 最初はアレスも(´・ω・`)な顔だったが、徐々に事態が大きくなるにつれて( ゜Д゜)となった彼は、俺の指示通り裏のエレン自宅の方面に引っ込んで行った。

 

 しかし、それに納得しないのはアレスファンだった。


「まさか、ここの店主はアレス様の愛人……」

「そんな……!」

「この泥棒猫!! 今すぐアレス様を出せー!!!」


 自分の推しを引っ込ませられた熱狂的なファンは怖い。噂を聞きつけてさらに人がごった返し始めた”ノルン”はもうカオス。なんとか俺が厨房への侵入を抑えているが、そろそろ限界だ。

な、なんとかならないか!?


「とりあえず、このままじゃ危ない! エレンとセレスは裏口から逃げろ!!!」

「で、でも流石に……」

「いいから、俺に構わずに早くしろおおおおおお!!!」

「わかりました、エレン様、行きましょう」


 少し渋ったエレンの腕を引っ張り、セレスのツインテールがなびいて後ろに走り始めようとしたとき……今度は店の入り口のやじ馬たちを押しのけて、十人単位の人々が入ってきた。うっすら見える制帽を見ると……それは警備隊!


「お前たち、何をしている!」

「しまった、警察よ!」

「私たちは悪くないわ! あいつらがアレス様を引っ込ませたのが悪いのよ!」

「なに……アレス様がここに!?」


 一人の暴動ファンからアレスがここにいるのを聞いたリーダー格の人は必至で止める俺を見てくるので、目で「本当ですまずは助けてください」と訴えると、外に待機していた増援を中に呼んで前面にシールド隊を配置。そんなとき、上から見ていたのであろうアレスが後ろの階段から顔だけひょっこり現れた。


「そこの君、僕は構わないからすぐにこの人たちをなんとかしてくれ! 僕の権限で反抗した者は取り押さえてもらって構わない!」

「あれは確かにアレス様……はっ、了解いたしました! 者ども、かかれっ!」


 それから始まる熱狂ファンvs壁になってる俺vs警備隊の修羅場。店の机や椅子が飛び交い、とうとうフレンドリーファイアが始まって仲間割れまで起きてしまう。


 ……これ、どうすんだ。



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