010.食欲魔人と調理器具 1
昨日はお休みをいただいたので今日はもう一個、23時30分くらいにもう1話更新しまーす
春から夏にへの季節の変わり目になり、寒がりな種族以外は全員半袖に衣替えをする時期になってきた。我が家でも普段からメイド服もどきを(好んで)着ているセレスが半袖のゴスロリみたいなメイド服もどきを買ってきて愛用するようになった。最近の子はそういうファッションがトレンドなのか? それとも本当に俺の育て方が悪かったとかじゃないよなぁ……。
あとでエレンのところにでも相談しに行くかね。こういうのはわからん。もし反抗期とかだったらジョンさん泣いちゃうよ。
「それでですね……スミス様、聞いてますか?」
「ん? バッタがブラックバスに食われてそのブラックバスがじじいに捕まって丸焼きになった話だろ?」
「誰もそんな話はしてません……私がしているのは、今日の業務の話です」
「あ、そう?」
しまった、セレスが反抗期か否かとかそういうことを考えていたらいっさい話を聞いてなかった。やべえ、なんかされる。
「……まあいいです。とにかく、今日はスミス様に直接お会いしたいという方がいるので、朝ご飯を食べ終わり次第王国警備局まで行ってください」
「なんか俺悪いことした?」
「いえ。私は約束をされていると聞いていますが」
約束……? 俺は一切口約束はしない主義だ。だから約束と化したら絶対に携帯しているメモ帳とか、帳簿とかに残っているはずなんだが……メモ帳にも一切そのような起債はない。し忘れたことなんて持ち始めたころくらいだけだし、一体どうしたものか。
「と・に・か・く。行ってくださいね」
「あ、ああ……わかった……」
〇 〇 〇
朝ご飯を食べた俺は、なぜかいつもの作業着ではなく礼服を着せられて店から追い出された。セレスは昼まで木工をしてから昼にエレンのところを手伝いに行くと言っていたな。まあそれはいいんだが、どうして礼服なんだよ。お偉いさんに会うということはわかったけれども。いったい何をどうすりゃあいいってんだ。
どんどんと防護柵を片付けていつもの賑わいになりつつあるメインストリートを通り、王国の北側、貴族街に近い場所にある王都北警備局まで歩いていく。はぁ……気が進まないがここで帰ったらうちの店の評価も評判も信用もだだ下がりだ。だからどうあがいても行かなければいけない。
約20分ほど……俺にとっては100分くらいに感じた道のりを歩き終わり、とうとう俺は警備局までやってきた。とりあえず門番に名乗ったらなんとかなるか。
「もしもし、ちょっといい?」
「……なんだ?」
「俺、ジョン・スミスってんだけど。今日ここに呼び出されてんの。なんかわかる?」
「ジョン・スミス……なっ! 失礼しました、こちらへどうぞ!」
名乗る前までは少し槍を傾けてこちらを警戒していた警備員は、俺の名前を聞くとまるでスイッチが入ったかのような、別人のようになってしまう。それから「どうぞこちらへ」とキビキビした動きで俺を警備局の中に招き入れる。さっきまでの人を値踏みするようなあの顔はどこ行った。
「ん、なんか今日は馬車の数が多いんでないの?」
「はっ。今日は来賓の方が来ておりまして。護衛もいるのでこれだけの数がいるのです」
「ふーん、なるほど」
それにしては数が多いような気もするが……それほどまでに重要なVIPがここに来ているということだろう。それから考えるに、かなり面倒くさい案件だと思われる。もうこの時点で家に帰りたい。
「はぁ……」
意気消沈しながらも警備局の建物の中に入った俺は、すぐに2階にある応接間に通される。ここに来るのも何年ぶりだろうか。ここまで案為してくれた門番が敬礼して部屋から出てくると入れ違いになるように、今度はメイドさんが登場。俺にお茶を出して退散していった。しかもまあまあいいものを出されたということは完全に”歓迎モード”じゃないか。また面倒くさいことになったぞ
いったいどういうつもりなんだ。
この状況に、やけくそでむしろ開き直ってしまった俺は、次にドアが開くまでソファにふんぞり返って出されたお茶を飲んでいると、コンコンとノックがありメイドさんが事務局長と来賓の方がいらっしゃいました」と言ってくる。別に通さなくてもいいのだが、そんなことを言えるはずもなく、「あ、はい」と返すことしかできなかった。
そして、メイドさんが再び引っ込んだ後に現れたのはこの前も会ったアレスと……顔も知らない巨漢……ではなく肥満。その後ろから護衛が2名ほど現れる。
「悪いなジョン、待たせた」
「ん、あ、ああ……」
「早速だが紹介しよう。こちらはカロリー子爵だ」
そういえば警備局長だったアレスは、後ろにいる存在感を抑えきることが一切できていないカロリー子爵を紹介してくる。いや、こいつ子爵じゃなくでデブ爵だろとツッコミを入れたくなったが、あちらから手を差し出してきたので仕方なく握手をする。手、でかすぎだろ。
「それじゃあ、早速だが本題に入ろうか。子爵、そこに座っていただければ」
「……お腹減った」
「わかりました。おいメイドーーー!!! なんか食いもん持ってこ――――い!!!」
廊下にまでよく通る声でそう指示したアレスは、俺が座っていたところの横に座った。普通はお前も対面に座るんじゃ……といいかけて、すぐにそうした理由がわかった。結論から言うと、あのデブ子爵の横幅がとんでもなくでかかったのだ。2人掛けのソファの1.5人分の占領しているではないか。そりゃあ俺よりも身長が高くて肩幅もあるアレスは隣に座ることができないわ。
「っていうか、なんで今日俺呼ばれたの?」
「覚えてないのかい? ほら、ギルドで会って一緒に飲んだ時に、僕が見合い話とかで困ってるって言ったじゃないか……まさかとは思うが、覚えてないのかい?」
「ん? ああ……あんときの記憶はほぼないな」
「本当かい!? でも確かにあの時は君もベロンベロンに酔ってたから……そうか、覚えてなかったか」
ああ、俺はきれいさっぱり、何もかも覚えてませんとも。無意識のうちに魔石とかは買ってきて掃除機は作ったみたいだが、それ以外はアレスとばったり会って飲んだことしか覚えていない。
「……で、結局なんで俺っち呼ばれたん?」
「ああ、それはだな……こちらのカロリー子爵も僕に見合い話を持ってきてくれた方なんだけど、そこのお嬢さんがあまり食べるのが好きでなく内向的な方でね」
「失礼ですがそのお嬢さんと血縁関係あります?」
「私も疑ったが……しっかり正妻の子らしいんだ。奥様も、ほかの兄弟も食べるのが大好きらしいんだけど……」
おいおいおいおい……逆にそれ怪しくなってきたじゃねーか。一度血縁関係とか探偵とか雇って不倫とか調べた方がいいよ!?
「……まあ、それはあとで聞くとして。そんで、俺はどうして呼ばれたん?」
「ああ、それはだね。君にはどうにかしてそのお嬢さんが興味を持ちそうな食品か、それの調理器具を作ってもらいたいんだよ」
「……俺、料理屋じゃねーぞ?」
「どっちかというと、お嬢さんは作るのは好きな方でね。調理器具とかには目がないらしいんだ。ですよね?」
確認のためにアレスがカロリー子爵に問うと、彼はフライドポテトを次々に口に入れながらうなずいている。っていうか、さっきまで尋常じゃない量のポテトあったのにもうなくなりそうなんですが。どーなってんの?
「とりあえず、報酬は言い値で出すそうだから。受けてくれないかい?」
「ん、じゃあなんで警備局が仲介してんの?」
「ああ、それはね。今度大きな警備局に職員用の食堂を作ることになってね。好評ならそこにも置きたいから一枚絡んでおいたというわけさ」
「……なるほど」
これはまた面倒くさいことになりそうだ。