第一回 失格者 〜ただならぬ後悔〜
「今から晴れるよ」
───────────それが僕の、ゴミを肥溜めで煮込んだようなカスの友人の口癖だった。映画に影響されたらしい。なんとも馬鹿らしいが面白い男だ。
────────────僕は毎日地獄みたいな日々を送っていた。勉学に追われる毎日、
規模が小さいながらも社長の息子であるプレッシャー。
そんな毎日を送っていたとき、僕は人生で一番、美味しいものを貰った。
────────酸っぱくて、────どこか辛い。けれど、結局──────甘い。
まるで─────僕の人生を”体現化”しているようだった。
そんな僕の日常に1つ大きな変化が起こった。「十・二事件」と「十・八事件」だ。
僕は今の時代誰でも英雄になれるのだと、たかを括っていたのかもしれない。
あるいは、自分に大きな自信があったのか、皆が受けるAU検定...言わば英雄になる登竜門
の修行を怠ったのだ。
この事件の概要はこうだ。この検定は年に受けられる場所と時期が決まっている。僕は受けられる最後の年にこの検定を突破し注目を集めようと6年前から計画していたのだった。最後の試験を受ける前、担当教諭であるベタテが聞いてきた。
”お前AU検定2回受けて大丈夫なのか?”とダメなことがあるものかと疑問に思いながら話を聞いているとAU検定の監督をしたことがある””難聴””のマメという人物へ相談しにいくことへとなっていた。この人物は英雄養成学校でも屈指のGMで有名であった。──正直言って嫌だ。それならば天国の麻原尊師にでも土下座した方が良いだろ──そんなことを思いながらも自分で調べるというのは徒労である。仕方ない、割り切って行こう。
この決断が大きな事件へと繋がっていくのかを僕はまだ知らない...。
AU検定の相談をするため教諭室へと向かう足取りは重い。教諭室への廊下は長いのだ。それこそ移動だけで英雄になれてしまうのではないかと錯覚をしてしまうくらいだ。放課後、他にこの道を歩く者はいない。6年通う見慣れたはずの学校なのに知らない場所のように感じる不安感と孤独感に苛まれながらも歩いていく。
こんなことになるのなら自分で調べたほうが良かった───激しい後悔の念に駆られる。
ようやく光が見えてきた。目的地につき安堵の息を吐く。目的の難聴のマメは一番手前の部屋にあたかも自分はこの学校の王様だというような姿勢で居座っている。
僕らの中では教員の中でも嫌われているのでは──と言われる1つの所以だ。ただノックをして、ただただ質問をするだけなのに緊張感が襲う。もしかすると───この時すでに気付いていたのかもしれない──何に?──そんな僕の重い想いを断ち切るように、中からは「どうぞ」とどこか舌づまりで、耳障りで僕の鼓膜を引き裂くかのような嫌悪感をまとった声が返ってくる。重いドアを僕は引いて、開ける。
────マメは、自慰に耽っていた。何をするでもなく、ひたすらに自らの怒張を親の仇でも取るかのように、あるいはこびりついた古汚い油汚れを安いスポンジで必死に洗い落とそうとするかのように、そのオスの象徴である────それを。脂ぎった手で、僕たちの頭を撫でていたその掌で。おそらく盗撮であろう男子生徒達の写真を見ながら。己の分身のその頭を、馬鹿みたいに必死で撫で回していた。どうしようもないその安っぽい情けなさに、
僕は───────僕は。