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#006.プロをなめるな

情報連合の首都から聖教戦線の最前線の拠点になっているところまで再び転移魔法で移動した俺たちは、シフォンが見繕った敵陣の小規模な砦に向かって平原を進んでいた。

聞くとこによれば、聖教議会側が物見櫓と実質的な最前線拠点のために素行で築いた木製の簡易的なものとのこと。


「それで、先輩。今回の作戦はどうするんです?」


初陣にしてなかなか歯ごたえのあるものを取ってきてやった恨みなのか今日は新田が少し反抗的だ。別に範囲攻撃が得意な俺と新田がいて、赤坂も前衛だけどめきめきと腕を上げているから大丈夫だろう。

この前、模擬戦やってみたらあと一歩のところまで追い詰められたからな。


「まあちょっくら爪痕残すくらいでいいか。作戦としてはだな……」


というわけで考え付いたことを話してやると、新田と赤坂から「さすが根暗の陰キャ」「悪質大臣」との誉め言葉をいただいた。


「ふっふっふ、プロがおままごとを全力で遊んだらどうなるかやってやろうじゃないか」

「……どうなっても知りませんよ」


よくよくかんがえたら新田も巻き添えだからな。そりゃやけくそになるわ。


  〇 〇 〇


それから数十分後、俺たちは今回の標的になった櫓の近くの茂みで息を殺して潜伏していた。今回の作戦は簡単。まずは情報連合のざk……じゃなくて一般騎士に化けさせた赤坂を真正面から出して敵の注意を引く。まあもちろん単騎だし? 油断して確実に処理をしようとした瞬間に新田の魔法で攻撃。あとは俺も前に出て各個撃破というわけだ。馬車は昨日のうちに寮に持ってかれたから今日はあいにく自作のバズーカがない。もっと言えば弓もない。だから短剣とかでなんとかするしかない。


「……先輩、そろそろですよ」

「ああ。あの櫓は……うん、まああれだと多分欠陥建築かもしれんから火魔法使っていいぞ」


実をいうとあの櫓は無傷で手に入れて戦利品にしようとしたんだが……速攻で作ったからか所々欠陥建築らしきところが見受けられるので普通に壊すことにした。

ここから見える敵の数は8。外周を周回する見張りが4,見張り台に4人。正面に何人いるかはわからないが俺たちで処理できるだろう。


そんなことを考えていれば、すぐに敵陣が騒がしくなった。聞き耳を立てると一般兵に化けた赤坂がやってきたらしい。外を歩いていた奴らもすかさず正面に回っていき、俺たちがいる側は隙だらけになった。今が好機だろう。


「よし新田、一つでかいの頼むわ」

「わかってますよ。せっかく学園に来たので初心にかえって詠唱ありで」

「いや別にお前いらないじゃん」


詠唱は魔法のイメージを高めるために言う、いわば独り言みたいなもの。もちろん俺たち(赤坂含む)は詠唱なしでも魔法は使えたりする。初心に戻るのはいいことだがさっさと撃ってやらないと赤坂の負担やばいんですけど。


『我が力よ、願いに応じ炎の息吹で敵を薙ぎ払え! 【ファイアーブレス】!」


持っていた杖に魔力を集中させた新田は、宣言通り丁寧に詠唱をしてから龍が吐くような特大級の炎を放つ。高速で飛んでいく炎は、着弾前に大きく口を開くが如く左右に分かれてから重い爆発音を響かせて着弾した。


「な、なんだ!?」

「物見台が爆発したぞ!」

「うっわぁ……」

「はぁ……きれいに決まって気持ちいい……」


魔法がきれいに着弾してスッキリしたというような顔をする新田。でかいの頼むとは言ったけど敵さんに同情するくらいのオーバーキルをしろとは一切言ってないんだけど。まあ気持ちよさそうだからいいか。


「よっし、こっちも行くか。【フライ】」


新田にはその場からの支援攻撃を頼み、俺は重力反転魔法を応用した【フライ】を使い空中へ。流石に正面から正々堂々行っても勝てるとは思うがいつものように空から奇襲した方が勝率がいいか。


そのまま櫓の上空へ行ってみれば、餌役の赤坂が敵の騎士を相手に大立ち回りを演じている最中だった。3方向から同時に攻めてくる敵に対して、一方には【ウインドカッター】で牽制、もう一方は盾で防ぎ、もう一方は大剣でガード。いくらなんでも容赦がない……。餌にしたの俺だから手加減してやれとも言えんが。


「じゃ、俺も参戦ってことで」


腰の鞘から短剣を引き抜いて、上空30mから急降下。もちろん狙いは赤坂に魔法をあてることしか考えていない敵の魔導士だ。詠唱中なのか隙だらけだ。だったら……と思い投げナイフを一本取り出してそれに魔力を込めて地面に投げる。


「【エレクトリックフィールド】」

「なん……あばばっばばばば!?」

「あああああああ!?」


次の瞬間、地面に突き刺さった投げナイフを中心に広範囲に高圧の電流が流れていく。空高く舞っていた鳥さえ落とす【エレクトリックフィールド】の威力は絶大。あっという間に後衛と一部の騎士はその場で戦闘不能になってしまう。


「う、上だ! 上にももう一人いる!」

「クソ、魔法が使える奴はあいつを連携魔法で落とせ! 残ってるやつはあの騎士野郎を囲んで一気に倒してしまえ!」


どう出るかとみていると、一人偉そうな奴が周りの騎士たちに必死こいて命令している奴がいた。おそらくそいつがここで一番偉い奴か。中隊規模らしいからおそらくは中隊長だろう。

もちろん一番偉い奴を見つけたらそいつを倒すことに専念する。頭を押さえたら相手は戦意喪失するからな。


でも予定変更。思ったよりガードが硬かったから周りから倒すことにした。こちらに【ファイアーボール】とか【ウインドカッター】とかの魔法が次々と飛んでくる。意外にも魔法が使える棋士は多いようで、俺の相手は一気に12人くらいになってしまった。

今回は飛び道具がないから突っ込むしかない。で、たぶんさっきので【エレクトリックフィールド】があるということは知られている。


「じゃあ素直に突っ込むか」


直撃コースの【ファイアーボール】を【魔導障壁】でガードし、海部軌道を取りながら徐々に敵への距離を縮めていく。連携魔法で吹き飛ばそうとしていた奴らも、魔法をよけてガードして切り裂いて距離を詰めてやればすぐに取り乱して魔法を撃ってくる。

流石に12人の魔法を全部躱すのは辛いから一度上昇して、真下から襲ってきた【ファイアーボール】をバク宙の要領で回避しながら投げナイフを5本引っこ抜いて魔力を込めて解き放つ。


「【ソードビット】」


手から離れた5本のナイフは、俺の指示のもとまるで意識があるかのように滑らかな軌道を描きながら敵に襲い掛かる。1本目が正面から、2本目はその真横から、3本目は真上から、4本目は地面すれすれから、5本目は目の高さから|全方向攻撃<オールレンジ>攻撃はさらに敵を惑わすには十分だった。


「な、なんだこれは!」

「くそ、回避できねぇ!」

「なんなんだあいつは!」


5本のビットは12人の集団を惑わすには十分。俺をしっかりと見失ってくれたので今度は俺が高度を落として地面すれすれを飛んで、正面にいた1人の背中に刃を滑らせる。


「ぐあああ!」

「……なるほど、確かにダメージカウンターに攻撃してるっぽいな」


しっかりと攻撃は通ったようだが、感触は黒板を引っ搔いたような感じだった。肉を断つ感覚とはまた違う。生き物に刃を通す仕事を生業にしていたからこれにはちょっとした違和感が残ってしまうがしょうがない。


「バカめ、地上に降りて接近戦するなど!」

「【チェンジマテリアル】」


もちろん真正面から正統派の騎士に勝てるなんて思ってないからちょっとした小細工を使わせてもらう。使った魔法は物質変換魔法の【チェンジマテリアル】。結界とか障壁がない限りどんな物質でも任意のものに変換させることができる俺の十八番。ただしその物質に関係するものじゃないといけない。なので今回は、やつらが引き抜いた少々お高そうな剣を今持ってる短剣と一合打ち合ったら壊れてしまうレベルの鉄までグレードを落としてやった。


「おらああ!」

「よっと」


そんなことも気づかない騎士の一人が剣を掲げてこちらに切りかかってきた。それをサイドステップで避けて、逆手に持った短剣で、相手のロングソードを根元からへし折ってやる。


「な……! 剣が根元から!」

「バカな! それはルーツの中でも指折りの鍛冶屋が作った一振りなのに!」

「だったら俺がやってやる!」


今度はスモールシールドにショートソードのやつがやってきて、またまた剣を振り下ろしてきた。単調な動きなので今度は違う動きをしてやろう。


「【魔導障壁】、【ブースト】」


相手が剣を振り下ろすと同時に障壁を展開。しっかり弾いてから態勢を低くして、身体強化魔法をかけてから肩からタックルを仕掛けて吹っ飛ばす。


「【ソードビット】」

「な……うわああああああ!」


強制的に距離を取らせたら【ソードビット】で多方向から串刺しにしてロスト状態に持っていく。これで残りは10人だ。2人も瞬殺してやったからさらに焦るかと思ったら、逆に冷静になったのだろう。慎重に行こうと周囲をぐるりと囲まれてしまった。赤坂の方に目を向けると自分を囲んでいた最後の一人を切り捨て終わった感じだった。


「【エレクトリックフィールド】」

「後ろに下がれ!」


囲まれたのならまずは相手の行動を制限、もしくは牽制しなければいけない。だからこそまずは【エレクトリックフィールド】で牽制、うまくかかれば行動不能を狙っていく。もちろん範囲外に逃げればあまりダメージが入らないことは見え見えだったようで、すぐに範囲外に逃げられてしまう。


「【ブースト】」


相手が離れてくれたのですぐに身体強化を使い自身を強化。それから一気に正面の一人との距離を詰めて一閃。さっき使った【チェンジマテリアル】で与えた弱化と自分への身体強化魔法でしっかり一撃で相手をロストさせていく。


「あいつ、早いぞ!」

「防御陣形だ! 接近戦主体が単騎なら防御陣形は破れない!}

「【ファイアーボール】、【マジックチェンジ】」

「「「はぁ!?」」」

「【ファイアーブレス】!」


今まで使ってないから俺は身体強化魔法と【エレクトリックフィールド】、【チェンジマテリアル】以外、つまり攻撃魔法が使えないと踏んだのだろうが、ただの的に早変わりしただけ。確かに適性は無属性だが、他属性の適性も一般市民並にはあるので【ファイアーボール】とかの初級魔法は使える。もちろんそれだけだと火力不足なので【マジックチェンジ】を使う。それを使って作り出したのはさっき新田も使った魔法だ。


「「「あああああああ!?」」」


自分たちがやってたことが逆効果だったと気づいたときにはもう遅い。着弾前に広範囲に広がった炎はため息のように重く降りかかる。


【マジックチェンジ】の効果は名前の通り自分、もしくは味方の魔法を自分の知ってる魔法に変化させるというもの。ただしどれに変化させても一定量の魔力を持っていかれるから魔力総量が高い俺でも連発することはできない。


「にしても【ファイアーブレス】は威力高いよなぁ」


こういう魔法をストレートに使える新田が羨ましい。俺みたいに色んな魔法とかスキルを使って追い込んでから一発をぶち込まなくて最初からチンパンパワープレーできるんだもんなぁ。


「【シャイニングブレード】!」

「ぐわあああああああ!?」


赤坂も同じようなもんか。愛用しているロングソードを光剣に変化させて重い一撃を敵の司令官に叩き込んで瞬殺していた。使うときに少し隙ができるとはいえ威力は絶大。こっちにまで衝撃波来てるんですけど。


「先輩、こっちは終わりました」

「ああ。とりあえず占領完了ってところだな」


作戦開始からたった30分で、俺たちは最初の任務を完遂することができたのだった。



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