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#005.あくまで”仮想”

学園を一通り案内してもらった日の夜は、近くの宿屋で一泊した。いつ着くかわからないのでまだ寮の部屋が準備できていなかったらしい。正直どんな部屋なのかは気になるところである。


そして翌日。俺たちは2年魔法科学科sクラスの教室で紹介を受けていた。ホームルームの教師が俺たちが今までやってきたことを簡略化して紹介してくれてはいるが……やはり黒歴史をほじくり返されている気がする。好き勝手暴れたツケがが回ってきたんだろう。


「それでは、最後に自己紹介してもらおう」


というわけで、自分たちで自己紹介することになったわけだが……誰から行く?


(いや、ここはですね)

(常識的に考えて)

((もちろん先輩からです!))


ですよね。ということを視線で会話したのでやむなく一歩前に出てこっちに興味津々に視線を向けてくる彼らに自己紹介を始めた。


「大川心斗だ。教官が言ってた通りリースキット王国のシュベルツィアで冒険者をしていて、国王のご紹介で留学することになった。得意な属性は無属性だ。よろしく」


今回、俺たちは建前上「冒険者から王国軍の士官になるための過程でここに留学」ということになっている。建前上だから国の犬にはならずに済むわけだ。冒険者よりも断然ホワイト企業だが、地球への帰還方法を調べる余裕ができないのでお断りだ。


「同じく、新田明里です。得意魔法は火と水属性魔法……一応、回復魔法も使えます。よろしくお願いしますね」


おい、新田。確かにお前は回復魔法の適性はあるだろうが、初期以外で使ったことねーだろ……それを使えるといっていいものなのか? まあ視線で非難したところ「使えるものは使えからいいんです!」というお言葉をいただいた。


「赤坂……唯一です。使える魔法は土属性と火属性……どっちかというと剣を使う方が得意です」


本当なら赤坂は騎士学科の方が向いてるからなぁ……。本当はあいつ職業は騎士だし。魔法使えるけど牽制以外で使ってるとこ見たことない。が、今回ばかりはしょうがない。これも依頼のうちだ。

やつの後ろ姿が小さく見えるからおそらく正面の顔は「助けて」と叫んでいることだろうな。


「そういうわけだ。お前らの席はあそこの窓側3席だ」

「わかりました」


そういうわけで、俺たちは教室の一番後ろにある自席についてとりあえず1限目を受ける。授業は簡単な魔物学だった。うちのギルドの脳筋バカどもでも知ってそうなくらいのやつだ。

俺たちが今日は初日だからなのか、それとも偶然なのかわからないが比較的優しい授業が4時間続き、昼頃になると今日の座学はすべて終了になった。


「で、ここからは実践……オースティン・レンジでの仮想戦争か」

「……そういうことだ」


教科書を片付けながら独り言を呟いていると、横合いからクラスに一命はいるであろうイケメン金髪が話しかけてきた。後ろには護衛と思われる生徒も2名ほど追随してきている。


「……君は」

「ああ、まだ名乗っていなかった。私お名前はシフォン•リースキット。リースキット王国の王太子をやっているものだ」

「……あなたが、えー……シフォン殿下でしたか。先ほどはご無礼を」

「はっはっは、無理しなくてよい。そう敬語をされても私が困るだけだ」


あー、よかった寛容な人で。こういっちゃなんだがあの気安い国王様の息子らしい。その代わり護衛の2名はめっちゃ堅そうだ。


「それで、ご用件は?」

「ああ。君たちをオースティン・レンジへ案内しようと思ってね。昨日見学はしたのだろうが、情報連合の首都、ルーメンにはまだ行ったことがないだろう?」

「ああ。案内してくれるってんならありがたく」


突如の王子様のご登場で赤坂と新田は石像のごとく固まっているので無理やり解除させ、俺たちは後者の北端にある塔までやってきた。シフォン王太子曰くここが情報連合の首都、ルーメンへ続く転移の魔法陣だという。


「今日から私たちも戦線に参加することになるんですかね?」

「ニッタ、といったか。その通りだ。現在、情報連合は聖教議会との戦線が活発だ。おそらくお前たちが所属することになるであろう情報連合軍第2戦術大隊は同第1大隊とともに最前線で一進一退の攻防を続けている」


なるほど……ここでの大きい規模は大隊レベルか。実際の戦争では旅団、師団単位で各方面にあたるからそれをさらにミニチュアにした感じだ。王国と公国の戦争に参加したとき大将やったけど、騎士団だけで8個師団あったから正直数が小さくなりすぎて逆についていけない。


やはりプロの世界と仮想の世界では規模が違うのか、と思いながら俺たちは転移魔法陣に乗って情報連合の首都・ルーメンへと転移していった。


  〇 〇 〇


首都、ルーメンは周囲を渓谷に囲まれた難攻不落の要塞だった。背の高い城壁には固定式のバリスタが所狭しと並べられ、迎撃態勢は完璧のようだ。

それぞれの陣営の首都には、陣営の司令部……共和国で言うなら軍部局に相当する建物、資材置き場や武器庫、パワードスーツの整備・制作拠点の軍事スペースと、購買、寮などの居住スペースがわかれているらしい。


あとで居住スペースは案内してやるというアーサーの言葉を聞きながら、俺たちは情報連合の司令部にやってきた。オースティン・レンジでの戦闘は午後1時から午後6時30分までとされている。あと数分で戦闘開始の時間だ。

なかなか立派な司令部の廊下を歩くこと3分。シフォンが足を止めた先にあったのはいかにも重要な部屋ですということをアピールするドアだった。


「失礼する」


こんこんと軽くノックしたシフォンは装飾のせいで重そうなドアをこじ開けて俺たちを中に招き入れる。

もちろんドアがあれだけのアピールをしていたんだ。中もそれと同じでいかにも「ここは重要です」といったオーラを放つ高級なカーペットに本棚、執務用のデスクが置かれていた。

そして、デスクに肘を置いてこちらに値踏みの視線を向ける人物が一人いた。


「そちらが、殿下の言っていた方々ですかな?」

「そうだ。オオカワ、彼が現状の情報連合の代表のジオールだ」

「大川心斗だ。世話になる」

「俺はジオール。さっきシフォン殿下も仰っていたが情報連合の代表をやっている。ちなみに4年総合科学科Sクラスに所属している」


自己紹介とともに差し出された手は一応受け取っておく。やはり値踏みするような視線は変わらないジオールと短く握手した後、軽く新田と赤坂を紹介してすぐに本題に入った。俺と同じであんま長く前座はとりたくないタイプらしい。


「それで、殿下。彼らはどうするので?」

「ああ。オオカワさえよければ第2大隊所属第3中隊配属にしようと思う

「第3中中隊のどこ小隊に入れるのだ?」

「新たに第6小隊を作る。隊長は彼ら3人で話し合ってもらおう」


本題に入る、とは言っても俺が入り込む余地はなかったようだ。あれよあれよと話が進み、最終的に

情報連合第2大隊の第3中隊所属の第6小隊というところに配属されることになった。ちなみに第6小隊は俺と赤坂、新田で構成される新たな小隊ということだ。


「ちなみに、とんとん拍子で決めてくださった殿下はどういう役職で……?」

「ああ、私はここでは情報連合第2大隊所属、第3中隊の中隊長だ。第1小隊の小隊長も兼任していて階級は少佐だ」


マジか……こいつが直属の上司で、しかも佐官かよ。なんだろう、これからめっちゃこき使われるような気がしてならねぇ。はっきり言って不安だ。


「いいだろう。オオカワとやら、そちらの2名も含めて本日付で第2戦術大隊所属、第3中隊への配属を命じる。存分に暴れてくれ」

「了解した」


配属せよ、か。いくら仮想とはいえ本当の軍隊並みのことはしているのか。さっきも言ったけどプロからみたらこんなん子供のおままごとくらいの迫力しかないが……それでも、”おままごと”でも一回も戦ったことのない生徒たちからしたら本物なんだろうな。


そんなことを思いながらジオールのもとを去った俺たちは、またまたシフォンに連れられて、聖教議会との戦線があるという北東の平原地帯に向かおうとしていた。


「で、上官殿。俺たちは何をやればよろしいので?」

「はっはっは、それはやめてくれ。とりあえず今日は実力を測らせてくれ。いくらこういう道のプロとはいえ、技量がわからんと何もできん」

「そうかい。その実力を測るのはどうやる? 聖教議会の小規模な砦でも落としてくればいいのか?」

「……小規模な砦でも一個中隊規模だぞ、それを落とせるならやってもらいたいくらいだ」


一個中隊というと、高々25人前後か。それに対してこっちは3人だけど、別に作戦次第ではやれなくもない。というかこんくらいやれないとプロの冒険者としての面子も丸潰れだ。


「よし、じゃあその手頃な砦の場所教えてくれ」

「……わかった。あと、例の件は今日の夜、そちらの部屋にお邪魔することにしよう」


例の件、か。この学園内にも浸透しているならうまく尻尾を掴まないといけない……注意深く行動しなければ。



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