#003.魔法学園
学研都市”ルーツ”の中は特に変わっているというところはなかった。町の中心に大きな広場があって、そこから放射線状に6本のメインストリートが伸びるという作りだ。リースキット王国の王都もこんなつくりをしていたはずだ。
そして、俺たちは現在、この学研都市の中でも1番でかい建築物の目の前に立っていた。
黒光りする巨大な門、それを囲う要塞顔負けの壁、その中に立つのは下手な小国の王宮に匹敵するのではないかくらいの大きな建築物――大陸最大の教育機関と名高いルミウス魔法学園だ。
今日から俺たちはここに留学生として在籍しながら王国からの依頼を達成するために動くことになる。
「さて、来てみたはいいものの……どーすればいいんだべ、これ」
「そんなの私が知るわけないじゃないですか。とりあえず中から人が来るのを待たないと」
とりあえず学園の正門に来てみたはいいものの、そこからどうすればいいかまでは王国からの依頼書にも一切合切書かれていなかった、門番がいるわけでもなし、何かインターホンみたいなものがあるわけでもなし。このまま立っていても、俺たちが場違いなのは明確だった。
「う~ん……とりあえず誰か通りかかったら声かけてみっか:
「そうしますか」
というわけで待つこと15分。どこからかチャイムが鳴ったかと思えば、正面から一人の男性と、それに引っ張られるように1名の生徒らしき者がやってきた。
そして、真っすぐに男がやってきてその大きな門が開かれると、後ろにズルズルと引きずってきた生徒らしき者をひょいっと投げ捨てた。
「貴様はこれ以降、ルミウス魔法学園への立ち入りを禁ずる! 二度とこの場を訪れるな!」
……ガラガラガッシャ―ン。
放り捨てられて絶望の淵に立ち閉まる扉を呆然と見送る人とともに俺たちも再び閉められる門と、背を向けて歩き去る男を見送って――
「あっ、ちょ……ちょっと待って!」
「……む? 貴様は何者だ」
やべぇやべぇ、あまりの迫力に手も足も声も出なかった。放り出された奴は残念だがこのチャンスを逃すわけにはいかないので必死に男を呼び止めて中に入れてもらおうとする。
「これを学園長に渡してくれ」
「何を言っている。その格好だとおそらく冒険者だな。馬と馬車はいいもののようだが貴様らのような冒険者風情が学園長に書類を届ける依頼受けれるのか?」
「その封筒の端っこ見てくれ」
そういって、俺が指さした先にあるのは金色に光る国王の捺印。これが本物であり、絶対に偽造ができないのはこのレベルの学園で務めているからには知らないはずもないだろう。
「これは……わかった。学園長に渡してみよう。しばし待たれよ」
「頼んだぞ~っと」
このクラスの学園の学園長だからなぁ……そうすぐに話が通ることはあるまい。そう思って御者台の上で居眠りをし始めてから数分後。俺はすぐに叩き起こされる羽目になった。
「おい、起きろ。学園長が貴様らを呼んでいる」
「んん……? なんだ、早かったな」
「いや、あれからかれこれ1時間は経過してるんだが」
「そうです。先輩が堂々と爆睡してたのでそんくらい短く感じたんですよ」
気が付けば、赤坂が俺の隣で手綱を握っており、新田はと言えば馬に餌を与えている最中だった、っつーか俺は1時間も寝てたのかよ。ここんとこ移動続きで疲れてたからなぁ……しょうがないか。
「とりあえず馬車はいい。うちの者が移動させておこう。そのまま来てくれ」
「……荷車にあるもん、勝手に盗るなよ?」
「そんなことはルミウス魔法学園の名においてしないと誓おう」
というなんともうざい発言をする男は無視して、言われたとおりに係の者に手綱を渡して正門から敷地内へと入っていく。それにしても目の前にそびえたつ後者のプレッシャーはやばい。まるで限られた者以外を受け付けない圧倒的オーラを放っている。感覚としては某東大学の赤門と同じ。
正面玄関から校舎に入り、これまた豪華な内装を見回しながら歩くこと3分。最上階のとある一室の前で案内役の男が歩を止め、重厚感のあるドアを3回ノックして自分だけ入っていく。
それから数十秒としないうちに再び扉が開き、さっきの男が「入れ」と促してくる。
そう促されて入室した学園長室の内装はしゅべるつぃあギルドのギルドマスターの事務室と似たり寄ったりだった。木目調の床に白い壁、緑色のカーペットの上には対面式のソファーと机が置かれていて、その正面にデスクが置いてある。
それはいいのだが……驚いたのはそのデスクに座る学園長の姿だ。なんというかその……背が低い女性だ。耳が長いからエルフとかの妖精族であることは間違いなさそうだが……俺の弟子(仮)といい勝負のロリだとは予想できんかった。
「ようこそ、ルミウス魔法学園へ。そこにかけるがいい」
「あ、はい……」
おまけに声まで幼いときたもんだ。いったいこれはどういう冗談だ……からかわれているのか?
「先輩、これはどういうことです?」
「ここ、学園長室じゃないんですか?」
とりあえず言われたとおりにソファーに座りながら新田と赤坂の抗議を受け付けて「知らん」と突っぱねる。俺に聞かれても知らんものは知らん。
「……君たちが考えていることは、私が学園長なのに幼すぎる冗談じゃ済まさんぞコラってことかな?」
「後半部分の1割は余計だがほぼその通りだ」
「はぁ……最近の若い者は無知だからしょうがないとはいえ」
そんなことをブツブツ言いながら学園長(仮)は俺たちの前のデカいソファーにやってきて、座ってから偉そうに足を組んでこちらに品定めをするような視線を向けてくる。
「私はルミウス魔法学園の学園長、シトリーだ。どう見られているかわからないがこれでも君たちの10倍以上は生きている」
「なんだその合法ロリ」
「妖精族は寿命が長いのだ。ちなみに私はエルフとフェアリーのハーフだから……まあ800年くらいは生きていられるだろうな」
何それチートじゃん。いくら長寿で有名なエルフ……というかハーフエルフだとしても800年とかやばすぎだろ。そして新田、君はエルフを解剖したいとか言いたそうに目を輝かせるな。
「だって先輩、ハーフエルフですよ! しかも人間と精霊のハーフのフェアリーの血を引いてるハーフエルフですよ!! これは興味が沸かない方が異常です!」
「それはわかるけどなぁ……すぐにでも解剖したいという気持ちを全面に出すのはやめとけ」
「ハハハ」
新田の態度に身の危険を感じたのか、はたまたドン引きしたのかわからないがシトリーは苦笑いしながら足を組みなおして本題に入ってきた。
「さて、オオカワくん、だったか。今回君たちを呼んだ理由は……知っているかい?」
「ああ。王国も今回の件はかなり問題視してるらしいからな。実際に新領で残党が決起したっつー事件もあるからな」
まあその決起した集団を現地の戦闘民族と協力してフルボッコにしたの俺なんですけどね。彼らはあれから元気にしているかは気になるところだ。
「そうかい……私も君の、というか君たちの噂はよく聞いてるよ。王国に現れた異端児ってね。ただ、今日からは建前上この学園の生徒になってもらう。くれぐれも校則を守り街中などでも問題を起こさないでくれたまえよ」
「了解だ。校則についてはあとで学生手帳をもらうとして」
「ん? なんだねその学生手帳、なるものは」
どうやら独り言が聞こえていたらしい。なぜか学生手帳に食いついてきたシトリーに地球時代の高校に遭った学生手帳の話をしてやると、途端に目を輝かせてさらに詳しく追及してきた。
「なるほどなるほど、つまりそれには学籍番号と氏名と学年クラスが書かれているんだな!}
「それと校則も書いてある。確認したいときには学生手帳で校則を確認したり、学生手帳を見せることで学割っていう学生だけの割引サービスを受けれるようにだな……」
「なるほど! それ採用! 今すぐ採用! 秘書、秘書ちょっとこーい!」
……あ、やべぇこいつ興味あったらすぐにそれを実行したり作ったりするタイプじゃん。俺が余計な事しゃべったせいで話が伸びてしまいそうだ。
「何してんだ」という新田と赤坂の視線から目をそらしながら、今度からシトリーに余計な事言わないようにしようと心に誓うのであった。