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第9話 対魔女兵器

「フランメ!大丈夫か!?」

 俺は慌てて叫んだ。

 すると、土煙の奥にフランメの姿が見えた。どうやら致命傷は回避したようだが、体の所々から血を流していた。

「しぶといですね」

 エレオノーラが不敵な笑みを浮かべた。

「そりゃどーも。こっちはあんた達とやり合えるように鍛えてるからね」

 フランメは肩の傷を押さえながら皮肉を込めて言った。

「あはははは」エレオノーラが疳高い笑い声を上げた。「私達とやり合うですって?ただの人間如きが思い上がりも甚だしいですね」


 フランメはそれをふっ、と鼻で笑った。

「そういう割には私達の攻撃を随分と食らってるじゃない」

「手加減をしていただけですよ」

 次の瞬間、エレオノーラの背後から無数の木の根が飛び出してきた。さらに、飛び出した根の先端が捻れ、槍の様に鋭くなった。

 それはまるで洗練された軍隊の密集陣形のようだった。

「さて、果たして先ほどの様に避ける事ができるでしょうか」

 エレオノーラがニヤリと笑った。


「………」フランメは無言でその密集陣形を見つめると「はぁ」とため息を吐いた。そして、

「出来れば使いたくは無かったんだけどね」そう言いながら腰につけた皮のベルトから小型の銃--拳銃を抜いた。

 その拳銃は、所々に白銀の装飾が施され、先ほどまでフランメが使っていた無骨な銃と違って一種の美術品の様な美しさがあった。


「それで何をしようというのですか?その武器は私には効かないと言ったはずですよ。それに先ほどは火の力を使って鉛の弾を押し出しているように見えましたが、その武器には火種がありませんね」


 エレオノーラの言う通り、先ほどの銃と違ってフランメの手の中にある拳銃には火縄が付いていなかった。そもそも、先ほど村人達を焼くためにフランメは火種を全て使ってしまった。

 くそ、俺を助ける為に……。

 フランメ一人なら、いくら村人の数が多くてもどうとでも出来たはずだ。なのに、わざわざ村人を焼いたのは俺がいたからだ。

 俺は自分が情けなかった。ルキナを守る事も出来ず、フランメを勝手に悲劇の魔女だと思い込み、傷つけた。それなのに彼女に守ってもらっている。


「フランメ!もういい!逃げろ!」俺は張り裂けんばかりの声で言った。「アンタ一人なら逃げる事も出来るだろ!」

「あらあら、アガ君もああ言ってますし、どうしましょうか。そうですね、どちらか片方は見逃してあげてもいいですよ」

「アガ!アンタ勝手に勘違いしないでよね!」フランメが拳銃を構えたまま、背中越しに言った。「これは私が好きでやってる事よ!こいつらを殺す為に私はここにいる!」

「この状況で強がるなんて、ただの愚か者ですよ」

 エレオノーラが飽きれたような表情を浮かべた。


「アンタも勘違いしてるわ」フランメがエレオノーラに向かって言った。「さっきまで使ってた銃は私がこいつを見様見真似で再現して作った只のレプリカよ。アンタの言うとおり火種が必要な、ね」

「それが何だと言うのでしょうか。正直、飽きました。もう、終わりにしましょう」

 エレオノーラが己の腕を前にかざしたのと同時に、背後の密集陣形が一斉にフランメに襲い掛かった。

 しかし、その槍先が届く前に密集陣形は激しい爆炎に包まれた。


「な、何が……」

 エレオノーラは背後で燃える木の根を呆然と見つめていた。

 当時の俺もその時何が起きたのか全く分からなかったが、今なら分かる。

 フランメが拳銃の引き金を引き、放たれた銃弾は一直線にエレオノーラの背後にある木の根に命中した。そして、同時に着弾部分から激しい爆炎が上がったのだ。


「魔銃」フランメは呟く様に言った。「これはアンタ達魔女を倒す為に作られた対魔女用魔法武器の一つ。この銃に火種は必要ない」

「魔法武器……!?そんな馬鹿な……!何故そんなものが……!」

「これは裏切りの者の八人目の魔女、創造の魔女が創り出した物よ」

「そんな事はありえません!あの裏切り者はとうの昔に私達の手で殺しています」

 エレオノーラの表情に焦りの色が見えた。

「えぇ、確かに彼女はアンタ達の魔法にやられてもう助からない状態だった。でも、死ぬ間際に最後の力を使ってアンタ達に復讐する為の武器を創り上げた。そして、その意思を受け継いだのが私達、魔女狩りよ」

 フランメはそう言うと、腰につけた鞄から鉛玉を取り出して、魔獣の銃口にそれを装填した。


「ありえません!いくら魔法が使える武器があったとしても、それをただの人間に使いこなせるはずが……」そこまで言ってエレオノーラは何かに気づいた様に固まった。「あはは、そういう事ですか……!命の魔女である私の目は誤魔化せませんよ……!」

 エレオノーラの足元から数本の木の根が再び生えて来た。そして、その木の根はエレオノーラの体を包み込むように彼女の体に纏わりつき、彼女の姿を木の鎧を纏った騎士に変えた。


 フランメは静かに魔銃の銃口をエレオノーラに向けた。

「よーく狙った方がいいですよ。弾を無駄にはしたくないでしょう?」木の鎧を纏ったエレオノーラが言った。「何せあなたの命をけずっているのだから!」


 後から知った話だが、八人目の魔女--創造の魔女が創り出した対魔女武器は魔女でない者に魔法の力を与える反面、その魔法には使用者の命が使われていた。

 魔銃は込めた銃弾に魔法の力を付与し、引き金を引く事で魔法の力によって弾丸を撃ち出す仕組みだ。

 銃弾に込める力が大きいほど威力も増すが、奪われる命も大きい。その為、極力、弾を無駄にする事は避けなければならなかった。


「ふふふ、急激に命を削る行為は肉体への影響も大きいはず。そんな体で一体あと何発撃てるのでしょうか」

「心配してくれてどーも!」

 フランメが魔銃の引き金を引いた。

 雷の様な轟音と共にエレオノーラの体が爆炎に包まれた。

 同時に炎に包まれたエレオノーラがフランメに向かって突進した。木の鎧の左腕が変形し槍の様な形状になり、フランメに襲い掛かった。

 フランメはそれを横に飛んで躱そうとしたが、完全には躱しきれず脇腹を槍が抉ぐった。

「あああっ!」

 フランメが悲鳴をあげてその場に倒れた。


「残念でしたね。素晴らしい威力ですが、私のこの『命の鎧』(レーベンパンツァー)の前では無意味でしたね」

 炎に包まれた鎧の奥からエレオノーラが言った。

 フランメは倒れながらエレオノーラを睨みつけると、魔銃に弾を装填し、銃口をエレオノーラに向けた。

 しかし、エレオノーラがそれを黙って見ているはずも無く、燃える槍を横薙ぎに振り、フランメの手から魔銃を弾き飛ばした。


「くそ……!」

「その武器が連射可能でしたら、勝てたかも知れませんね」

 そう言ったエレオノーラの鎧は炎によって燃え尽き、バラバラと地面に崩れ落ちた。


 俺はその光景を横目に見ながら一目散に駆け出した。

 その先にあるのは弾き飛ばされた魔銃だ。

 しかし、俺に気がついたエレオノーラがこちらに視線を向けた。

「ふふふ、させませんよ……!」

 エレオノーラが腕を振ると、俺に向かって一直線に地面に亀裂が走り、木の根が飛び出して来た。


 根が飛び出した衝撃で俺は地面を転がった。しかし、転がりながらも俺は手を伸ばして落ちていた魔銃を拾う事が出来た。

「やった……!」

 そう思ったのも束の間、直ぐ横では木の根がその先端を向けていた。

「アガ君。さようなら」

 エレオノーラが腕を振り下ろそうとした時、フランメがエレオノーラに掴みかかった。

 二人は取っ組みあったまま地面を転がった。

 俺はその隙に立ち上がると銃口をエレオノーラに向けた。

 すると、どっと体の力が吸い取られる様な感覚を覚えた。俺は魔銃に命を吸われた。


 しかし、そんな事は気にならなかった。

 俺の頭の中にあったのは、みんなを苦しめた喜劇の魔女を葬る事だけだった。

「離しなさい!貴方も巻き込まれてしまいますよ!」

 エレオノーラが叫んだ。

「離すわけないけでしょ!」フランメはそう答えると、俺の方を向いた。「アガ!早く撃って!」


「くそ……」

 俺は銃を構えたまま固まった。

 今撃てば確実にフランメも死んでしまう。フランメを殺す事など俺は出来なかった。


「アガ!今やらなきゃ、アンタの大切な人達は皆死ぬわよ!」

 フランメが俺の背中を押す様に言った。

 だが、それでも俺は撃ちたく無かった。

「撃ちなさい!!」

「くそぉ!!」

 フランメの一言で、俺は魔銃の引き金を引いた。

 ほぼ同時にエレオノーラが立ち上がり、フランメを盾にするように掴んだ。

「死ぬのは貴方よ!」

 放たれた銃弾は一直線にフランメの背中目掛けて飛んだ。

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