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第10話 終わりと始まり

 しかし、フランメに銃弾が当たる事は無かった。

「え……」

 エレオノーラが困惑した表情を浮かべながら、血を吐いた。エレオノーラの胸の辺りには拳大の穴が空いていた。

「そんな、なんで……」そう呟きながらエレオノーラはヨロヨロと後退りをした。


「これは……」

 フランメも肩で呼吸をしながら、驚いた表情でそれを見つめていた。

 何より一番驚いたのは俺だ。

 銃口の先にはフランメの背中があった。放たれた弾はフランメに命中し彼女を燃やした筈だ。

 しかし、魔銃の弾はフランメをすり抜け、エレオノーラの体を貫いた。


「使用者によって、魔法が変わるなんて……そんな事まで……」

 エレオノーラはそう呟くと、膝から地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 俺の側で蠢いていた木の根も枯れ落ち、戦いが終わった事を告げていた。


「フランメ、大丈夫か?」

 俺は傷口を布でキツく縛っているフランメに話しかけた。

「私は大丈夫。それよりアンタは大丈夫?あの銃は使用者の命を削るわ」

「あぁ、なんか体がめちゃくちゃ重いよ……」

 そう言いながら俺は魔銃をフランメに返した。

 フランメは魔銃を受け取ると腰のベルトに付けたホルスターにそれをしまった。

「さっきのは一体なんだったんだ?その武器てっきり炎が出るものだと……」

 俺は改めて先ほどの現象について訊ねた。

「私もよく分からないわ。私以外にあの銃を使った人は今までいなかったから……。どうやら、使用者によって魔法が変わるみたいね」


「そういうもんなのか」

 つまり、フランメが使った場合は爆炎を生み出し、俺が使った場合は特定の標的のみに当たる魔法になるという事か。

「私も詳しくは分からないけど、魔法ってのはその人が持つ深層心理を深く体現するって聞いた事があるわ。七人の魔女(マジシャンズセブン)……今はもう六人の魔女(マジシャンズシックス)ね。奴らもそれぞれ固有の魔法を使うし」

「深層心理……」

 あの時俺は、どうしてもフランメを撃ちたく無かった。その想いが反映されたのだろうか。


「それより、早く村人達を安全な場所に運ばないと」フランメがヨロヨロと立ち上がった。

 俺は改めて周囲を見渡した。

 村の様子は一変していた。地面はひび割れ、いくつかの建物は焼け落ち、凄惨な状態だった。


 俺達は村人達をいくつかの民家に運びベットの上に寝かせた。

「なぁ、みんなは大丈夫なのか……?」

 まるで人形の様に力なく横たわる村人達を見て俺は訊ねた。

「元に戻るには時間がかかるわ」

「そんな……」

「安心して、私の仲間に安全な場所に連れて行ってもらうわ」フランメは鞄から一枚の手紙を取り出した。「直ぐに隣町まで行って便りを出すわ。一日から二日で組織が人を送ってくれるはず」

「組織って……?」

「瀕死だった創造の魔女を保護し、私達、魔女狩りを作ったのはハースダン正教よ」


 ハースダン正教といえば聖光教の中でも最も大きな派閥だ。元々は一つだった聖光教会は数年前に起きた宗教革命により、二つに分離していた。そのひ一つがハースダン正教だ。そして、もう一つのモンテール正教の中心はヴァルトヴィング帝国にあり、聖光騎士団といわれる軍隊を有していた。


「じゃあ、みんなをハースダン王国に連れて行くって事か……」

「えぇ、ここよりは遥かに安全よ」

「なぁ、フランメ。みんなは蘇った奴らの正体を知らないんだろ?」

「ええ、おそらく。目覚めたら彼らは悲しみに暮れるでしょうね……最愛の人々を二度も失ったのだから」

「ありのまま起こった事を話すしかないよな……」

 しかし、俺でさえ未だに信じられないに、現場を見ていないみんなが納得してくれるとは到底思えなかった。


「私のせいにして貰って構わないわ」フランメが言った。

「え……どういう意味だよ」

「おとぎ話の通りよ、彼らにとって私は全てを奪った悲劇の魔女ってこと」

「おい……!自ら悪役になるってのかよ!」

「事実よ。人は物事を自分の都合の良いように解釈するわ。遅かれ早かれ私の噂は広がる」

「そんな……」

 俺は納得がいかなかった。フランメは俺たちを救った英雄だというのに誰にもそれを認められないどころか恨まれるなんて、なんて酷い話だろうか。


「別に構わないわ。私は英雄になりたいわけじゃない。七人の魔女(マジシャンズセブン)を全員倒せればそれでいい」

 フランメはそう言うと、鞄を手に取った。

「行くのか?」

「ええ、直ぐに助けを寄越すわ」

 俺は去って行くフランメの背中を見つめながら、葛藤していた。

 このまま、何の恩も返せないままフランメを見送って良いのだろうか。しかし、村人達を放って置くわけにも行かない。


 悩んだ末に俺は一つの結論を出した。

「フランメ!」

 俺は彼女の元へ駆け寄ると、背後から彼女に抱きついた。

「は!?ちょっ……!?何してんのよ……!」

 驚いたフランメは俺を振り解くと、頭を叩いた。

「いってぇ!」

 俺はフランメから離れた。その手にはフランメの腰のホルスターから抜き取った魔銃が握られていた。


「アンタ、何のつもり!?それがオモチャじゃないって事はよく理解してるでしょ!?」フランメは真剣な表情でこちらを睨み付けた。「返しなさい。さもないと……」

 フランメの瞳が獲物を狙う狩人のそれになった。

「待った!」俺は慌てて叫んだ。「勿論こいつは返す!ただし、アンタが仲間を連れてここに戻って来たら……だ!」


 フランメが眉を顰めた。

「そんなに私の事が信用できないわけ?ちゃんと仲間を寄越すから安心して」

「いや、ダメだ。俺はアンタを信用できない。アンタのしてる事が正しいってのは分かる。でも、そうやって一人で全部抱え込もうとしてる奴を信じる事が出来るわけないだろ!」

「は?」

 自分でも何を言っているのか良く分からなかった。ただ、俺は知ってしまった。七人の魔女と魔女狩りの事を。知った上で元の暮らしには戻れない。

「また、同じ悲劇が何処かで起こるんだろ……?」

「……ええ、今も何処かで魔女の被害を受けてる人達がいるわ。だからこそ私は早く次の魔女の所へ向かわないといけない」

「放っておけるかよ!魔女がいる限り帝国の侵攻は続くんだろ?ハースダン王国に行ったって安全とは限らない、戦争は続くし、人は死ぬ。今、自分達だけが安全な場所に行った所でただの時間稼ぎにしかならない」


「そんな事は無いわ!私が必ず魔女を倒す」

 フランメが言った。

「魔女一人に苦戦してた奴がか?」

 俺は挑発するように言った。フランメが苦戦したのは自分が居た所為でもあるという事は理解した上でそう言った。

「それは……」案の定フランメが言い返そうとした所で、

「俺も一緒に行く」俺はフランメの言葉を遮る様に言った。


「あ〜……」フランメが困った表情で頭を掻いた。「なるほど、それが言いたかったわけね」

 全てを見透かされた様で俺は恥ずかしくなった。

「あぁ、そうだよ!俺にも手伝わせてくれ!このまま何の恩も返せないままなんて嫌だ!」

 フランメは少し黙って考える素振りをした後で口を開いた。

「死ぬ覚悟はできるてるの?」

 フランメの真剣な物言いに俺は少し怯んだが、それでも言葉を絞り出した。

「いや、できてねぇ!」

 フランメが鳩が豆鉄砲を食った様な表情を浮かべた。

 俺は続けた。

「全部の魔女を倒して、この戦争を終わらせる。戦で死んだ家族の為にもだ。そして、全部が終わった後で母さんとルキナの三人で死ぬほど幸せに暮らしてやるよ」

「あははは」フランメが笑った。「いいね。嫌いじゃないわ」


「アンタが言ったんだろ。運命は変えられないって。起きた事を変えるつもり無いし、悔やんでても仕方ない。だったら、死ぬほど幸せな未来を築いてやる。おとぎ話の続きはこうだ。悲劇の魔女が去った後で村人達はもう一度、今度は他人の力を当てにしないで自分達で立ち上がった。そして、村人達は以前よりもはるかに幸せな暮らしを送りましたとさ、だ」

 俺はそう言ってフランメに近付いた。


 フランメが手を差し出した。

 俺はその手に魔銃を渡した。もう大丈夫だと思ったからだ。フランメはきっと仲間を連れてもう一度戻ってくる。

 そして、次に旅立つ時は俺も一緒だ。


 こうして、俺とフランメの魔女との戦いが始まった。この話の続きは全ての魔女を倒した後で語ろうと思う。

人生で初めて小説を一本書き切りました。自分のボキャルブラリーの少なさ、知識の無さが露見していますね。

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