山の芋鰻になる⑤
5
放課後になり皆それぞれに自分のやることをする為に教室から出て行ったり居残ったりしている。俺はとりあえずその様子を眺めている。さて、俺はどうしようか?
俺がぼんやりと考えていると玲土が俺の机に近づいてきた。
「お疲れ。日馬。」
玲土は俺に声を掛けてくる。いつもはすぐに部活に行くのに珍しいな。
「どうだ?あれから少しは気分は晴れたかい?」
なるほど。こいつなりに俺のことを気遣っているらしい。その為にわざわざ部活に行く前に俺に声を掛けたと。ふむ、なるほど俺の話は玲土にそこまで心配をかけていたということか。それはそれで何か少し悪いことをしてしまった気がするな。俺はなるべく気遣いさせないように
「まぁそれなりにな。」
と返した。気分が完全に晴れたといえばそれは嘘っぽいし、実際にそこまで気分は晴れてはいない。だからと言って全く変わらないと言ってもそれはそれで玲土が可愛そうだというものだ。こいつは俺の話に付き合ってモヤモヤした感情を抱えているのかもしれない。なら尚更、その必要はないと安心させてやるべきだろう。
俺の言葉を聞いて少し安心したのか。玲土は少し笑顔になって
「よかった。何かあったら言ってくれよ。何なら放課後付き合ったっていいんだからさ。一日ぐらい部活休むのなんて問題ないさ。友達のためならね。」
そう言った。
あー。何てこいつはできた奴なんだろうか。俺だったらそんな言葉口を裂いてでも出てきやしないだろう。それを普通に、平然として言い放てるこいつは間違いなくこの世界にいていい人間なのだろう。
「あぁ。」
俺にはそう返すことしかできなかった。ありがとうの言葉すら俺には言うことができない。そこが俺と玲土との違いなんだろう。
「じゃあ、僕は部活に行くから。また明日ね。日馬。」
玲土は颯爽と歩いて教室を出て行った。そんな玲土とは逆に残された俺はどうしようもない感情に苛まされていた。俺はどうすれば、どうしたら良かったのだろう。これからどうしていけば良いのか。分からなくなってしまった。あんな夢を見たせいだろうか。それともあんな夢を玲土に話したからだろうか。分からない。でも、俺の心の中には何か穴が開いてしまったような、途方もない虚無感が支配していた。
「日馬どうした?」
声の主を見ると遊斗だった。遊斗は
「おー何だ。元気ないじゃん。あーいつもか。どーよ?今日もゲーセン行かね?元気出るかもよ。ははは。」
ケラケラと笑いながら話している。はぁこいつはこいつでいつも通りだ。何も考えてなさそうなバカな奴に見えるけど、それでもこいつはこいつで自分のしたいことを見つけてそれを楽しんでる。この世界で、だ。こんな世界で、か?まぁどうでもいいや。遊斗もできた人間なんだろう。俺なんかと違うんだろうな。ちゃんとした人間だ。
「いーよ。今日は止めとく。」
俺は窓の外を見ながら言葉を吐く。何だか今日はそんな気分にはなれなかった。
「そうか。じゃあいーや。また明日な。」
と言って手を振って教室を出て行く。俺はその姿を見送った後に机に突っ伏した。
「ハァー。」
口から大きく溜息をつく。こういう時はどうしたらいいんだろうか。うーん。真っ直ぐ帰っても何もしないで寝てしまうかもしれない。かと言って何かしたいのかと言われれば自分自身でもよく分かっていない。
でも、ここに居ても何も無いのは分かる。そもそも俺あんまり学校は好きじゃない。さて、ならばどうしようか。
少し考えた後に学校を出る。特に行く当ては無いが、とりあえず街の中心の方に行ってみるか。何かあるかもしれない。
・・・何も無いかもしれないが。
当ても無いままに街の中心に行ってみる。住宅街が多いこの街も中心の方へ行けば娯楽はそれなりにあるものだ。衣服店、映画館、ゲームセンターは昨日行ったからいいか、後は本屋。いろいろある店をそれぞれ周っていこう。何か変化があるだろうか。
まずは、衣服店。
第一に俺の服に対する見解だが身体の上に着るものと言う定義でしかない。
店内を見渡してみて確かに欲しいというものはあったが、別に絶対欲しいとは思わない。そもそも私服を着るのなんて学生の俺からしたら休日くらいだ。休日に遊ぶ友達も男友達くらいだし、そこまで気にする必要も無い。そう考えると今別に買わなくてもいいと思った。
服を買ったところで今の俺がどうこう変わるものではない。
もし、俺に彼女のような存在ができたりしたら、この考え方も変わるのだろうか。
他人により良い自分を見せたい。そう思って服を選んだりするのかもしれない。実際に服は着る人の第一印象になる。その人のセンスというか個性が現れるのが衣服だろう。それがあまり気になら無いという人はそれはそれで服に表れると思うし、その逆なら尚更衣服のチョイスが際立った物になる。別にそれが本人に似合ってるかどうかは別に俺は気にならない。それが自分の好きな物としてきている物なら別に他人の迷惑になりさえしなければ俺は何を着ても良いと思っている。
そもそも衣服一つ一つのデザインだってデザイナーが考えて創作して良いと考えた衣服なのだ。それに一般人である俺なんかが、どうして甲乙をつけられようというのだろうか。
そんな権利は俺には無いし、それを着るか着ないかはその衣服を選んだ本人の自由というものだろう。だから、今その衣服を選ばないというのも俺の自由だ。俺には着たい服というのは今この時点で厳密に決まってはいないし、そもそも服を買おうとしてここに寄った訳ではないのだ。何か変化が欲しかっただけだ。
次に映画館に行った。
映画館の前に行くと、今絶賛公開中の映画が宣伝されている。子供向けから年齢制限付きの映画までその種類は幅広いものがある。
俺はあまり映画は好きではない。何故かっていうとこれも俺なりの考えなのだが。映画を見てる時は楽しいと思う。いろんな映画があってその中には共感できるようなものや自分が驚くものまで様々あり、それはとても面白いし、楽しい時間だ。
だが、問題なのはその後だ。多くの人は映画の余韻や次の展開などに胸を躍らせて楽しむ時間なのだろうが、俺は違う。
とても悲しくなるのだ。
自分の世界はそうではない、そう感じてしまう。現実との落差。映画を見ている時の自分と終わった後に再び自分の日常に返ってきたときの自分その落差が大きすぎる。
特に、映画というものは途中で中断できないというのも大きい。他のアニメやドラマ、小説ならば途中で観るのを止めるということもできるだろう。
だが、映画はそうはいかない。決まった時間、決まった内容を迫力ある映像と演出で見せられることになる。特に時間が決まっているから、内容は当然濃いものになる。
それは人に何かを感じさせる為に必要なものだろう。そうでなければ映画は人の心を掴むことができないし、現にそれができない映画は売り上げが落ちたり、続編が出なかったり、レビューで酷評されたりする。そうならないように映画の関係者は全力を尽くしてより良い作品を創ろうとする。それは当然のことだ。
だが、それが良ければ良すぎるほど嫌になる人間もいる。
それが俺だ。
考えてしまうのだ。何故あんな風になれないのか、何故あんな世界に自分はいなかったのか、何故あんな風に自分は考えられないのかと。だから、あまり映画は観ない。それこそ友達に誘われたり、テレビで再放送されたりしたものを録画して観る位が精精だ。放映中の映画には俺が少し興味を惹かれるものもあったのだが止めることにした。
逆にそれが今の俺の感情を落ち込ませてしまうことになりそうだから。
最後に本屋に寄ってみることにした。
ここの本屋は本だけでなくドラマや映画、ゲーム等も売っている大型の店舗だ。これだけいろんな媒体の気分転換ができる手段があればどれかは俺の今のもやもやを変えてくれるかもしれない。
実際に中にはいろんなものがあって、俺が見てて面白いと思った映画やドラマ、今買っている漫画の最新刊や新発売のゲームもあった。
今までの語りから俺は漫画やゲームを面白くなくて全く触ってないと思われるかも知れないが、それなりにその媒体には触れている。
俺にだってそういったものを見てみたいという感情はあるし、割り切ってしまえばそういう世界観も楽しいものだ。(まぁ大抵後で後悔するが)それに全部が異世界物やSF物というわけでもなく日常系だってあるし、中には今の俺より酷い環境を綴った物語もある。だからと言って今の俺の日常が良いと思えるようにはならないが、それでもそういったものを嗜むことはする。
一通り見て周る。とりあえず、今追いかけている漫画の最新刊は買っておくか。今日読むとは限らないが、たまに来た本屋だ。こういう時に買っておかないと後々忘れてしまってその巻だけ歯抜けになってしまうこともある。そうならないためにも気付いたときに買っておくのがいいだろう。
ドラマや映画のコーナーも見て回ったが、こちらの方は流し見するだけで通り過ぎた。昔見たものを再度見る気にはなれないし、新しいものを一から見始めると言うのは結構力を使う。というわけで今回はスルーさせてもらう。まぁその内テレビで放送されれば目に入るだろう
雑誌のコーナーや小説の所も一通り見ていく。でも、これらの品に関して俺はあまり買わない。雑誌は旬の時期が過ぎたら読まなくなるし、小説は何か難しそうなのであまり読まないのだ。
食わず嫌いならぬ読まず嫌い。
挿絵が付いている物なんかはタマに読むんだけど、俺の友達でそこまで小説に詳しい奴がいないので俺も何が面白いのか分からずに手を付けられないでいると言ったところだ。何かきっかけがあるのならその時は読むようになるのかもしれないが、今のところその予定はない。
そもそも挿絵が無いと読めないって時点で俺は小説を読むのに向いてないのかもしれないけどな。まぁここもスルーだ。
最後にゲームコーナーに足を伸ばす。最近はいろんな媒体のゲームが増えてきてゲームコーナーも充実している。因みにだが、俺の良くやるゲームは主人公が自分以外のゲームが多い。
主人公が自分で無いって言い方するとおかしなことを言っているように聞こえるが、要は主人公が決まっていてその人物を俺が操作するゲームの種類のことだ。
そういうゲームならば自分がその世界に入りきるということは少なくても済む。第三者視点でその世界を見ることができる。その方が俺には都合がいい。
現実ではない物語ならば主人公は自分でなくていい。
主人公視点で話が進むとどうしても物語に感情移入してしまう。その後に待つのは強い後悔だ。まぁそんな感情でゲームをやる奴はあまりいないのだろうが、俺はそういう人間だ。ということで俺に合いそうなゲームを探してみたのだがそれもここには無いようだった。まぁ別に今買わなくてもいいし、買ったとしても今日やる気は起きないだろう。ゲームなんて物は俺にとっては唯の暇つぶしだ。それ以上でもそれ以下でも無い。俺はゲームコーナーを後にした。
店を出ることにしてよくよく考えてみたら結局自分が読み続けている漫画を買っただけだった。これでは何も変わらないだろう。
そうして店を出た俺は当ても無くフラフラと歩いていた。通りには他にもいろいろな店が並んでいるが特に入る気も起きない。喫茶店やファミレスもあったが一人で入る気は起きないし、入った所で何をするわけでもない。
それこそ時間と労力の無駄だ。ここまで出てきた意味が無い。家にいてダラダラしているのと同じだ。そうは言っても結局俺がやりたいことは何なのか結局分からず俺
はどこに行くでもなく歩いていた。
俺は一体どうしたいんだろうか?
分からない。分からないから何か無いかとここまで来たのだが、それでも俺にはその何かを見つけることが結局できずにいた。周りでは俺と同じような学生から主婦と思われる人、子供やサラリーマンまでいろんな人が同じように歩いていた。
だが、その人達の表情は様々であり、中には笑っている人もいた。まぁ当然だろう。誰もが誰も仏頂面でいるわけではない。そういう人だっていて当然だ。
だけど、今の俺にはそういう人たちが少し羨ましく感じた。何気ない日常で笑って過ごせる。そういう人たちがいる。
考えてみると、俺がそういうことで笑えなくなったのは何時からだろうか。昔は何気ないことでも楽しく笑えていた気がする。何故だろう。
いつからか俺は普通の日常が楽しくないと思えるようになってしまったのか?いつも通りであることが苦痛と感じるようになってしまったのか?もちろん、普通といわれる日常であってもちょっとしたハプニングやトラブル、ラッキーと思えることもある。
だが、その程度のことでは俺は何も感じなくなってきてしまったのだ。そんなものは言わば日常の延長であり、大局を見れば特に何の変化でもない。世界は変わらない。そんな風に考えるようになってしまった。自分は世界の中心にはいない。俺がどうなろうと世界は変わらない。世界を動かす小さな歯車の一つ、それも無くなっても特に困らない程度の歯車。だから、俺がいてもいなくても何があっても何をしても世界は変わらない。そう思うようになってしまった。そこに俺は至ってしまったのだ。何故俺がそう思うようになってしまったのか考えたこともあったが、キッカケが思い当たることは無かった。普通に生活して普通に成長して俺はこうなった。
こんなことを考える俺はやっぱりおかしいのだろうか。違う自分に成りたい。違う世界に生きたいと思う俺のこの感情は正常ではないのだろうか。
結局答えが出せずに俺は家の近くまで帰ってきてしまった。俺の家の近くには小さな公園がある。ふと、そこへ立ち寄った。まだ四月だからだろう。日は既に落ちていて肌寒くなっていた。公園には誰もいなかった。誰もいない公園を歩く。公園の中にあるのは滑り台やシーソー、ブランコ等簡単な遊具だけだ。俺は誰もいないブランコに腰掛けるように座った。
手を前に組んで今日有ったことを思い返す。
変な夢を見た。それを友達に話した。何だか自分が嫌になった。何か変われないかと街を散策した。
こうやって改めて考えてみると自分が何をしているんだろうと思う。変な夢を見た以外はいつもの日常じゃないか。それなのに、俺は普通の人間なのに一体何をしているんだろう。何を抗っているのだろう。俺にできることなんて両手で数えられるほどのことだというのに俺は何を悩んでいるんだろう。悩んだって考えたって俺のできることは決まっているのに。俺には特別なことなんて何一つできやしないんだ。
分かっているのに。分かっていたのに。
「ハァー。」
口から大きな溜息が出た。何をしているのか自分でもよく分からない。俺は一体何でこの世界に生まれたのだろう。そう考えると少し悲しくなってくる。自分の存在が無意味なんて考えたくは無いけれど、今の俺は正にそれなんじゃないだろうか。在ったって無くたって変わらないのにその価値を探そうとする滑稽な道化師。それが俺を指す言葉にふさわしい気がする。
ふふ。道化師か。滑稽だ。俺は人ですらない。人に成り切れなかった道化だ。あぁ、道化師なら道化師らしく道化を演じなければならないのかもしれないな。俺はこの感情を押し殺して普通の人間として生きていくべきなんだろう。そうするしかない。
何もできないならそうするしかない。
「何してんのよ。こんな所で。」
ふと、顔を上げるとそこには瑠希の姿があった。そうか。こいつは部活帰りか。俺はそんな遅くまでここで悩んでいたのか。
「何でもいいだろ。別に誰もいないんだし、迷惑は掛けてない。」
俺はぶっきらぼうにそう答えた。そうだ。別に俺がここにいたって誰も気にしない。誰にも変化を与えることはない。俺はそういう人間なのだから。俺は唯の普通の一般人なのだから。
俺がそう言うと瑠希は目を尖らせる。
「いいわけないでしょ。おばさんが心配するじゃない。何も無いなら早く帰りなさいよ。わたしみたいに部活があるわけじゃないんだから、帰ろうと思えばすぐ帰れるじゃない。あんたの悪い所はそういうとこよ。もっと周りのことを考えなさい。わたしだってこうやって心配になったから声を掛けたぐらいなんだから。」
瑠希はまるで当然とばかりに持論を述べた。
「ふーん。」
俺はあからさまに興味が無い様に言った。
「何よ?何が不満なのよ。」
瑠希は不機嫌そうだ。まぁそうか。自分の持論を堂々と述べておいて相手にされないのであればそれは不機嫌にもなるか。だけど、俺はその意見に賛成することはない。俺は瑠希のこと等、周りの人のこと等どうでもいいのだ。
「お前はそう言うけどさ。」
俺はそう切り出した。
「お前はそれで楽しいのかよ?」
「―?どういうことよ?」
瑠希は俺の言葉の意味が理解できなかったらしく質問に質問で返してきた。俺はそんな瑠希に向けてより分かりやすいように説明する。
「だから、周りの機嫌伺って生きてて楽しいのかって聞いてんだよ。」
「はぁ?」
瑠希はその言葉が気に入らなかったらしく目を鋭くして俺を睨んだ。
「別に機嫌を伺えとか、そこまでは言ってないし。もう少し考えなさいって言ってるだけじゃない。何であんたはそんなに極端なのよ。」
極端、か―。まぁ確かにそうではあるが。
「そういう人間もいるってことだよ。そう考える人間が少なくてもお前の周りには一人いるってことだ。」
瑠希は俺の言葉に頭を掻きながら答える。
「全く何であんたはそんなにネガティブなのよ。逆に聞くけどね。あんたそんな風に考えてて楽しいの?あたしは全然楽しくないけど。」
そんなの分かってる。俺が一番よく知っている。
「楽しくねぇよ。」
俺は答えた。その言葉に瑠希は勝ったとばかりに自信満々に声を張る。
「ほら?そうでしょ。だったらあんたも―。」
「でも。」
瑠希の言葉を遮るように俺は言葉を発する。
「お前の生き方が別に楽しいとも思わない。」
俺ははっきりと言い切った。更に言葉を続ける。
「人間はみんな同じじゃない。みんながみんなお前と同じ考えだと思うなよ。俺には俺なりの考えがあってこういう生き方をしてるんだ。」
十人十色。人はそれぞれ皆違うんだ。同じ人間なんてみんなの意思の統一なんてできるわけがない。それが人間なのだから。
「だったら―。」
瑠希は声色を変えた。
「だったら、あんたはどうしてそうするの?」
核心だった。その通りだ。俺は自分の両手を見つめる。
「分からねぇよ・・・」
俺が口で来たのはその言葉だけだった。俺は改めて考える。
俺は何の為に生きてるんだろう?
結局その場では答えが出せず俺達は帰路に着いた。瑠希はそれ以上は問い詰めてこなかったがお互いが家に入る前に俺を見て一言
「あんたはもっと自分の価値を考えなさい。あんたが何の為に生きるのか。それはきっと見つけなきゃいけないものよ。あたしはそう思う。だからそうしなさい。その内また、同じ質問をするからそれまでには答えを見つけておくことね。それじゃ、また明日。」
と言われた。
「あぁ。」
それしか言葉が出なかった。
家に入ると、母親から何処をほっつき歩いていたんだとか、今何時だと思ってるんだとかいろいろ言われたが、適当にあしらって夕食を摂って風呂に入り、自室まで逃げてきた。
ベッドで横になり、さっきの瑠希との会話を思い出す。俺の意見はきっと間違っていないと思う。間違いなんて他人の揚げ足取りで使う言葉だ。
でもたぶんそれだけじゃ答えになっていない。
何の為に?
そう。何の為に俺は生きるんだ?誰かのために生きるなんてそんなかっこいい言葉は俺には吐けない。
でも、誰かの為に生きないというのなら、俺はきっとその代わりを見つけなければ成らない。人でないのなら物の為か。物でも無いのなら信念の為?
信念すらないのなら―。
「どうすればいいんだよ。」
俺は自室の天井を見ながら呟いた。
答えは返って来なかった。