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山の芋鰻になる①

 俺は夢を見た。


自分で夢と分かる夢がある。これを人は明晰夢と呼ぶ。今、俺自身が見ている夢、俺にはこれが夢だと分かり俺はそこに自分が存在していることが分かった。


 周りには何もない空間。そこに俺は立っていた。薄暗い空間だった。目を凝らしてみても周りには特に何も見えない。壁すら無い様だった。どこまでも続いているような果てしなく大きな空間だった。


 俺はその中で特に何も出来ずに立っていた。特にしたいこともないということもあったのだが、それ以上にその空間では俺は何も出来なかった。夢だと分かっているなら空を飛ぼうと思えば飛べたり、誰かを呼ぼうとすればその人を呼べたりするはずなのだが、その夢では俺はそれらをすることができなかった。


 ただ立っているだけ。夢だと分かっているのに何も出来ない。おかしな夢だなぁと思った。でも実際見ているわけだしこういう夢もあるのかと適当に納得していた。


 そんな時だった。


 突然に自分の目の前、俺のちょっと上の空間辺りが明るくなった。その光の中には


何やら人影のような物が見えた。俺は立っていることしかできず、動くこともできな


いのでその光を見る。光の中にある人影のような物は逆光で姿は全く分からなかった。


何だこの夢?どうゆう展開?と頭の中で思考を巡らせていると


「人間よ。」


と声が聞こえた。それはたぶん光の中の人影が俺に呼びかけといるのだが、何故かその声は俺の頭の中に直接響いているようだった。まるで自分の脳内に直接呼びかけているような感覚。まさにそんな感じだった。


「聞こえているか。人間よ。」


声が再び脳内に響く。


「聞こえてるよ。」


俺は答えた。口を開くことはできた。というより今さっき口を開けることができるようになった。そんな感覚だった。何だこれは?


「そうか。人間よ。お前の名前は何と言う?」


そんなことはお構いなしに声の主は言葉を続ける。


「俺の名前は王子日馬だ。」


俺の口から自然に言葉が出た。そんな感じだった。俺はこの世界や声の主について疑問を持っていたのにそれを言葉にしなかった。いや、正確にはそれを口に出すことができない。そんな感じだ。俺の夢であるはずなのにここでは俺に自由は無かった。


「王子日馬。そうか。お前は何か望みがあるな。」


また脳内に声が響く。望みがある?俺は何かを望んだだろうか?だとしたらそれは何だっただろうか?うまく言葉に出来ない。


 黙っていると再び声が響く。


「よい。言わずとも分かる。お前は望みを持っているな。お前には欲望がある。だから私がそれを叶える機会を設けよう。」


ん?俺に欲望がある?それを叶える機会を設ける?何を言ってるんだこいつは?そもそもこれは夢だ。夢の中にいる奴が俺の願いを叶えるとか訳が分からない。俺は一体何の夢を見てるんだ?


「お前に力を与えよう。」


俺の混乱も意に介さず声の主は俺にそう言った。力?力って何だ?映画のヒーローとか漫画のキャラみたいな不思議な能力でもくれるってのかね。


「そうだ。お前に新しい能力をやろうということだ。」


驚いた。こっちの考えてること分かるのかよ。いや、夢の中だからあってもおかしくないのか。しかし、新しい能力ときたか。いよいよ中二臭くなってきた。まぁ与えら


れたとしてもここ夢の中だからあんまり意味無いけど。


「ふふっ。心配することはない。お前が得た能力は現実でも使うことのできる能力だ。まぁ少々限定的ではあるがな。」


また、俺の心を呼んだかのように声が応える。本当になんだこの夢。そういえば夢ってのは見る人間の精神状態によって決まるとか聞いたことあったな。だとしたらこの展開も俺が作ったのか。一体俺はどんな精神状態なんだよ。現実でも使えるって確かに俺はそんな不思議な力に憧れてはいたけどそれが夢にまで出てくるとは。


「その能力を使ってお前は叶えるがいい。お前の望みを。」


おいおい、何の力かも分からないのにそれで俺の願いは叶うのか?何かうまくいきすぎてないか?まぁ夢だからそういうものなのかもしれないけど、それにしてもうまく出来すぎている。


「そうだな。そんなにうまい話じゃない。」


まただ。また、俺の心を読んだ。もうここまでくると慣れたな。俺は黙ってその言葉を聞く。


「始めに言ったな。お前に機会をやろうと。だから、お前はその望みの為に戦い争うのだ。」


・・・はぁ?


戦い?争う?


何言ってるんだ?ますます以って何を言ってるのか分からなくなってきた。それに俺には戦う理由も術も無い。


「理由はあるだろう。お前は自分の望みを叶えたいのだろう?その為だ。それに術はある。お前に与える力が。お前はその力で戦って勝ち残る。そうすればお前の望みは叶えられるだろう。」


当然とばかりに声の主は言った。そう言われると確かにしっくりくるものはある。でも、一つだけ分からないことがあった。


 俺は一体誰と戦うんだ?


「ほう?気付いたか。少しは頭の回る奴のようだな。そうだな。お前が戦う相手はお前と同じ人間だ。」


なんだがバカにされたようで少しイラッとしたが、その後の言葉の方が俺に引っかかった。何て言った?いやわかるが。人間だって?誰だよ。その人間って。誰か知らないが、どこのどいつか分からない人間と貰った能力でタイマンよろしく異種格闘技でもしろってか?


「まぁ概ね合っているが、完全な正解ではないな。それに戦う相手は一人ではない。それこそ世界中にいる。望みを叶えたいという人間はお前一人ではないのでな。言うならばバトルロワイアルとうやつだ。お前らは争い合い、その中で残った一人のみの願いを叶えるというわけだ。ちなみに相手が誰かをここで教えるわけにはいかない。それはフェアではないのでな。お前らには対等な条件で戦って貰うことにする。その方が面白いからな。」


世界中だって?規模が大きすぎる。それに相手が誰かも分からない。そんなのどうしろってんだ。それこそ身近なところに母親や親父や友達が俺の敵になることもあるってことだろ。それに世界中じゃ俺が戦えない相手だって出てくるじゃないか。そんなの俺一人でどうにかなる問題じゃないぞ。それに相手が誰か分からないんじゃ戦いの始めようが無いじゃないか。


「心配することはない。手は既に打っている。いいか盤面はもう動き出してる。それに自分の戦う相手は自ずとわかる。まぁ詳しくは後で説明があるだろう。せいぜいよく聞いておくんだな。今言えるのはこれくらいだ。」


声の主はもう言うべきことは終わったというような感じで話を終わらせようとしているようだ。ちょっと待て。俺にはまだ聞きたいことがいっぱいあるんだが、そもそも俺の能力は何だ?俺はこれからどうなるんだ?


 だが、俺の疑問は俺の口からは出なかった。というか口が開かない。光も遠のき周りも暗くなってきた。俺の意識も遠のいてくる。


 やがて、全ては暗闇に染まり俺の意識はそこで途絶えた。

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