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⦁羽が同じ色の鳥は群れになる④


食事が終わったので食器を片付けて(片付けないとまた小言を言われるので仕方なく)自分の部屋に戻るかと足を向ける。母親が


「宿題があったらちゃんとやっておくのよ。勉強は今が一番大事なんだからね。お母さん心配して言ってるんだからね。」


と言っていたが俺は返事もせずに部屋に向かった。


 部屋に入ってベッドを椅子代わりにしてテレビを点ける。勉強ねー。今が一番かー。そうかねー。そう自分の中で自問自答する。出てくる答えは分かってる。いつもノーだ。それしか出てこない。そうだと分かっている。違うな。俺がそうだと信じているんだ。こんなことをしてたって普通になるだけだ。普通に勉強して普通に大学に行くか就職して、大学行ったとしても就職して普通にサラリーマンとして働くのだ。俺はその普通の世界を回す歯車の一つでしかなくそれにしかなれない。どうしたってどうやったって変わらない。


だったら、勉強しなければいいのでは?


いや、違うそれだけではダメだ。単純に普通に落ちこぼれになって就職するかニートになるかは分からないが、それでも普通な人間であることには変わらない。俺に変化は無い。


だったらもっと勉強すれば?


有名な大学に行ってそのまま教授なり博士なり、何にでもなればいい。そうしたら世界が変わるかもしれない。少なくとも世界の見方は変わるかもしれない。親だって喜ぶだろう。それはどうだ?


 違う。俺は答える。そうなったとしたって世界の見方が変わったとしても。違うんだ。俺が変えたいのは世界の見方なんかじゃない。世界を変えたい。こんな普通な世界なんてクソくらえだ。そして、そこにいる俺だって一緒だ。つまらない人間。面白くない、楽しくない、何も感じない。それが普通なのだ。だから人間は、面白さや楽しさのような刺激を求めて作る。それを体感できるから。気分を味わえるから。


 それではダメなんだ。そんなもの紛い物だ。本物じゃあない。ならそこから湧き出る感情はなんだろう?嘘の感情なのか?俺は嘘の世界で生きてるのか?


 話がややこしくなってきたから考えるのを止めた。点けていたテレビを見ることに集中する。テレビでは丁度、今期始まるドラマが始まるところだったので俺はそのドラマを観ることにした。どうせ明日このドラマの話は出るだろうし、俺の今のモヤモヤも薄れる。それにそのドラマに出ている役者が誰でどんな役なのかも気になる。


 強いて言うなら一番の理由は最後の理由なのだろう。俺は感じたいのだ。その世界が作られた世界であったとしてもそこにいる役者、それを演じている人間はどう感じているのか。どう思ってその位置で、どう納得させて自分を見ているのか。


 これは結構矛盾した答えだと思うかもしれないが、俺は結構役者という仕事になってみたいと思ったりもする。さっきも言ったが、俺はこの世界があまり好きではない。それは普通で退屈で変化の無い世界だと俺が考えるからだ。そして、それを面白くするために人が作った世界、つまり物語なんかも俺は正直好きかと言われるとそうではないというのが俺の考え方になる。何故ならそれを体感した後に自分の世界の変わらなさ、あまりにも異常の無い異常さに虚しくなるからだ。そんな気分になるくらいなら始めから物語を知ることを止めた方がいい。そう思う自分がいる。


 だけど、それを演じている役者はどうだろうかとも思う。限られた時間の中でも一瞬だけでも作られた世界だとしてもその中心としていられる気分はどんなものだろうか?


 それは嬉しいのかもしれない。


 それは悲しいのかもしれない。


 それは楽しいことなのかもしれない。


 それは辛いことなのかもしれない。


 そして、それが終わった後の虚無感をどう感じているのだろうか。自分がその世界の住人ではなくやはり普通の世界だったと感じたらどう思うのだろう。


 でも、それは多分その役者の気持ちを知りたいんじゃない。それを介して俺だったら俺がその立場だったらどうなるかということを知りたい。それが出来る立場になったときに俺は嬉しいのか?悲しいのか?楽しいのか?辛いのか?どうだろう。それは気になることだった。俺が役者になったらおれはどんな人間に変わるのだろう?俺の見える世界はどう変わるのだろう?思考がまた加速してきてしまったので一旦ストップさせる。ドラマに集中しよう。


それにしてもそんなことを考えながらドラマを視てるのなんて俺だけじゃないか?我ながら自分の変わり者様に笑みがこぼれる。


勿論、苦笑いだが。




とりあえず、一時間のドラマを観終わった。ストーリーとしては王道のボーミーツガールから始まる物語のようだ。冴えない男子学生がある時に、とても魅力的に女の子に自分の部活に入らないと声を掛けられ、着いて行ったらそこはとんでもない部活でそこで繰り広げられるドタバタ劇に男子学生が四苦八苦するという物語だ。ラブコメ要素とコメディー要素、そして独特な世界観のあるドラマだった。


まぁ、そういう風に作られているのだろうが。


俺があの世界にいたら、あの世界の中心だったらどうだっただろうか?幸いにして俺は一つの条件を満たしている。俺は冴えない男子学生であるということだ。そんなこと言ったらもっとたくさん候補がいるだろとも思うが、例えば俺がその中でその候補に選ばれたとしたら、だ。


俺はあの主人公のように四苦八苦できるだろうか?ドタバタ騒ぎを楽しめるだろうか?


楽しめるかもなぁ。少なくとも今よりはずっと楽しい。俺の今いる現実よりずっとハチャメチャでずっと破天荒だ。少なくとも普通じゃない。


でも、その気持ちは冷めた。CMに入った所で、その世界は現実ではなく虚構であることを実感する。


はぁ、まぁいいか。こんなのはいつものことだ。それにしても役者の演技はなかなかうまく出来ていたと思う。ああいう時、役者の人はどう考えて演技をしているのだろう?本当に自分がその世界の中にいると感じているのだろうか?でもそうじゃないとあんなにリアルな演技は出来ないだろう。だとしたらその演技している期間、役になりきっている時、その人は幸せだと思う。


少なくとも俺はそう感じる。俺が不思議な世界の住人になり、自分を中心に世界が回る。それはどれだけ素敵なことだろうか。


でも、それは逆に言うとそれが終わった後はそれだけの落差が自分に推しかかるということだ。その落差をどう感じるかは人それぞれだろうが、俺は耐えられそうに無いな。そんなことを繰り返していたら感情が、人格がおかしくなりそうだ。うーん。そういう意味では俺は役者には向いていないんだろうな。まぁ役者になるような人には確固たる自分というのがあり、その自分の土台の上に役というペンキを上塗りしているようなものだ。確固たる自分が無い俺にはそれはできない。俺が求めているのはその確固とした土台であり、その土台の下にペンキが敷かれてなければならない。そういう意味で俺がなりたいのはやはり役者ではないのだ。


俺がなりたいのはあくまでその物語の役であり、役を演じる人ではない。それは近いようで遠い。同じようで違う。例えて言うなら「おざなり」と「なおざり」ぐらいの違いだ。


まぁ今の俺はそのどちらにも当てはまるけどな。


さて、ドラマも終わったので風呂でも入るか。明日も勿論学校はある。このまま起きててもいいが、寝不足で原因でウトウトして誰かに注意されるのは嫌だから一応十分な睡眠をとる努力だけはする。


重い腰を上げ、部屋を出て階段を下り風呂場に向かう。リビングが見えたので中をチラ見すると親父が帰ってきていたようで晩飯を食べていた。母親はソファに座ってテレビを見ているようだ。親父は俺に気付くと


「ただいま。」


と笑顔で言ってきた。


「おかえり。」


と俺は無表情で言って返した。


洗面所に着き、服を脱いで風呂場に入る。そして、身体と頭を洗って湯に浸かった。


 ふぅー。


 いつも思うが、こうやって風呂に浸かると本当に疲れが溶け出て行ってる気になる。そのまま俺も溶けてしまいそうだ。うーん。そうだなぁ。このまま溶けるのも悪くは無い。まぁないけどな。


 思考を切り替えて今日あったことを思い出す。今日は何があったかなと。


 朝起きて(まぁ親に起こされてか)、んでいつも通り学校に行こうとしたら当然のごとく瑠希が同行し、何かいろいろ小言を言われながら学校に着き、玲土にいつものことをからかわれ、始業式に出て、授業を受けて、昼になって昼食を友達と食べて、午後もまた授業を受けて、帰りにゲーセンに寄って、家に帰ってきて母親に今日あったことを軽く報告しつつ夕食を食べて、部屋に戻ってドラマを観て、風呂に入ったと。


 まぁ、普通だな。特に取り上げて何も上げることがない。誰かに今日何かあったか?と聞かれたら迷わず俺は答えるだろう。「何も無かったです。」と。


なんだかな。と思って俺はため息を漏らす。うーん。どうやったら俺の日常は、もといこの世界は面白くなるのかなぁ。少し考えてみるが。妙案は出なかった。そもそも俺に夢とか希望とかないしなぁ。強いて言えばもっと違う世界に生きたいとかか?もっとスリルやサスペンス、そしてファンタジー溢れるような世界に行ければなと思う。というかそこで生まれてればよかっただろう。でもそうではなかったのだ。


 そもそも、ああいう世界だってこの世界に生きている人間がこうだったら面白いのにと思って創った世界だ。そういう世界に生きてたらそんな物語は普通の物でその世界にいる人間はそんな世界を面白いとか楽しそうだとか思ったりはしないのだろう。それが日常でそれが当たり前、つまり普通なのだから。


 でも、それでも俺はそっち側に行きたいんだよなぁ。なんだっけ?あれだ。隣の芝は青いって奴だな。この場合隣ってのは全然近くは無いんだけど、物語ってのはいつも手の届くところにあるものだからそう考えてもいいと思う。


「なーんかいい方法は無いかねー。」


何もない天井を見上げながらボーっと考える。


「いつまでお風呂入ってるのよ。もう出なさい。お母さんもお父さんもお風呂入るんだから、それにいつまでものぼせるわよ。」


母親の声だ。風呂にあるデジタル時計を確認するともう二十三時を回っていた。


「分かったよ。」


と言って湯船から上がる。母親は立ち去ったようでドタドタと遠くに行くのが足音で分かった。結構浸かってたんだなぁと思いながら脱衣所でTシャツと短パンに履き替えた。自分の部屋に戻る途中でリビングに両親の姿が見えたので


「上がったよ。」


と言っておく。


「はい。早く寝なさいよ。明日も遅刻しないようにね。」


そんなこと俺だって分かってるし、一応遅刻はしないといいなとは思ってるとも。


「おやすみ。」


と言い残して上の階に上がる。


「「おやすみ。」」


と両親の声が返ってきた。まぁ挨拶くらいはしてるんだから文句は無いだろう。俺は自分の部屋に入る。部屋の中でとりあえず鞄を漁って今日貰ってきた教科書類を部屋の隅へと片付ける。片付けるというよりは追いやるといった方が言いか。まぁいいや。とりあえず邪魔にならないようにしておく。


 で、明日の準備か。教科書と一緒に貰った曜日毎の日程を確認し、明日必要な強化書類やノートを鞄の中に入れていく。準備としてはこんなもんか。あとは、制服はハンガーにかかってるし特にはないだろう。とりあえず、準備は終わったのでベットに入り、布団を被る。まだ眠いって感じじゃなかったので携帯を弄って適当に何か面白いのがないか探す。動画やいろんな記事を見てると思うが、自分で感じているもの、身近にあるものやテレビや周囲の人との会話で得られる情報よりもより多くの情報があるんだなぁと思う。世界はとても広い。本当に広い。


 こうやって見ていることでその一端を見れることが素晴らしいと感じたり面白いと感じる一方でそれを自分が体感することはできないし、それを全て知ることは俺には出来ないと思うことで少し寂しくなったりもする。情報能力の向上はすごくいいことだが、やはり人間は全知全能ではない。どうやったって知れないことは知れないし、できないことはできないのだ。


 そう考えるとちょっと自分がやってることが嫌になって携帯を弄るのを止めた。充電をしておくことにした。時計を見るともう日付を跨いでおり一時近くになっていた。このままではまた明日起きるのが辛くなると思ったのでそろそろ寝ることにする。部屋の電気を消して仰向けになり、目を閉じる。また。明日になるのか。まぁ日付的にはもうなっているのだが、的には眠ることで切り替わると考えているので起きた時が明日だ。


 また明日。よく言う言葉だ。俺としてはまた明日というのはまた同じ日常を繰り返すという意味な気がしてしまうからあまり好きな言葉ではない。また明日にならないといいな。今日とは違う明日がいい。普通じゃない日がいい。明日が今日じゃなければいい。何か、何か俺にとって特別な日になれば―。


 俺はそんなことを考えながらいつのように眠りに着く。明日が普通じゃないことを祈って。それが俺のいつもの一日の終わり方だ。


 そうして、今日も一日が終わる。



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