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羽が同じ色の鳥は群れになる③

3 


帰りの寄り道としてゲーセンに来た。俺の友達はそれは楽しそうにゲームをしている。実際に楽しいのだろう。俺はその様子を見たり何か面白そうなゲームが無いか探して歩き回った。ちょっと面白そうなゲームを見つけてはやってみたりもしたが、すぐに飽きて辞めてしまった。俺はあまりゲームセンターで遊ぶことには向いてないのかもしれない。正直どうでもいいな。どうせ付き合いだけで来た様なものだ。


 俺の向き不向きは世界の本質には何も関係しない。それ自体は意味がないのだろう。俺が別に楽しくなくても他の誰かが楽しければいいのだ。別に皆が皆幸福になれというわけではない。人はそれぞれ違うのだから、どうあったってそこに差は生じる。


今回はそういうことだったのだろう。俺の場合は今回もなわけだが。


 ひとしきり、ゲームをして満足したのか友達は


「おーい。日馬帰ろうぜ。」


と声を掛けてきた。


「おう。もういいのか?」


「オッケー。オッケー。もう大満足よ。やっぱりあれは面白いなぁ。お前もやってみたらいいじゃないか?」


満足げに語っている。


「ふーん。お前はあのゲームの何が楽しいんだ?」


何となく聞いてみたくなったので俺は質問する。


「そりゃ勿論。自分が主人公になりきって敵をバッタバッタと倒していくところだよ。いやー。痛快だね。あれは。」


「そうかー。」


主人公になりきる。まぁそれも一つの手ではあるのだろう。このどうしようもない現実に対する自分の在り方として。違う世界で主人公になれるというのならば、その体験を楽しいと思う人もいるだろうな。


 ただ、俺はそこですぐに思考が現実に戻ってしまうから向いていないのだけれど。




 俺と友達はそこで別れ、俺は家路についた。特にここからは描写するようなことはない。ただの帰り道だ。


 家に着いた。玄関に入り


「ただいま。」


と言うと、母親がリビングから出てきて


「遅かったじゃない。もう7時よ。どこで油売ってたのよ。」


と開口一番不満を言ってきた。


「別に。ちょっと友達と遊んでただけだよ。」


俺は淡々と靴を脱いで自分の部屋へと向かう。そこで母親が俺に声を掛ける。


「ちょっと帰ってきたなら早くご飯食べちゃってね。今温めるから。」


「はいよ。」


そう言って俺はそのまま自分の部屋へと階段を上っていく。


「すぐに降りてきなさいよー。」


母親の声が聞こえたが、俺は何も言わずそのまま自分の部屋に入った。


部屋に入って鞄を放り投げ、自分の身体をベッドへと沈める。


「はぁー。つまんねぇな。」


思わず、本音が出た。


 今日も何も無かった。


 それが俺にとっては一番面白くないことであり、いつもいつでも、ふとした時に感じることだ。このまま寝てしまおうか。でもどうせ起こされる。しかも怒られて。


 俺は少し考えたが、下に降りることにした。面倒だけれどしょうがない。それが一番ベターな選択だろう。リビングに行くと母親が


「食べる前に手を洗ってきなさい。あんた帰ってきてから洗ってないでしょ。」


言ってきた。そういえばそうか。いつもやってるつもりだが、ついつい抜けてしまう。それが疲労による忘却はたまた感覚すらないのか。それは分からないが、家に帰ってくるとすぐに部屋のベッドに横になっている。


 言われたとおり手を洗ってリビングに戻り夕食を食べる。黙々と食べていると、向かいに座っている母親が俺に声を掛けてくる。


「それで、今日はどうだったの?」


「何が?」


俺は箸を止めて母親を見た。


「何が?じゃないでしょ。今日は二年生になって初めての登校日だったんだから学校ではどうだったのって聞いてるの。当たり前でしょ。」


母親の持論に俺は


「あぁ。」


と答えて少し考えるように宙を眺め


「普通だったよ。」


と答えた。


 だが、母親は俺のその解答だけでは満足できなかったらしく


「普通って全然分かんないわよ。もうちょっと具体的に何かないの?」


俺に更なる解答を求めた。仕方なく記憶を遡って今日あったことを掻い摘んで話す。


「えーっと・・・とりあえず、始業式があってまぁそれは問題なく終わって。えー・・・クラス分けなくて友達とかも一年のときと変わってないし。あとは授業か。これもいつも通りだったなぁ。特に今日は初日ってのもあったし、そんなに深い所まではやらなかったな。まぁ触りだけって感じかな。まぁそんなとこ。」


実際こんなとこだろう。これ以上言うことも特に思い当たらない。逆に思い当たれば


それはそれで俺も面白いし、何か言えないようなことがあっても面白いんだが、残念ながらそんなことはない。


「うんうん。それで瑠希ちゃんはどうだった?」


瑠希がどうかだって?そんなのどうでもいいんだが。まぁいいや。


「あぁ登校してたよ。で?」


質問の意味がよく分からなかったので何でか聞くと


「よかった。あんた学校でもボーっとしててちゃんとやってないんじゃないかと思ったから瑠希ちゃんがいると助かるわ。あんたに喝入れてくれるし、あんたが真面目に授業受けてるかも仕入れられるからね。」


はーん。そういうことか。まぁ瑠希が居ようが居まいが俺の行動に変化は無いが少しやりづらいと感じるのは間違いなくあるな。何というか監視されてる感はある。それを毎朝小言で言われてる気がするし。まぁちゃんと聞いてないから定かではないが。


あと、情報を流されるってのは厄介だな。そういうところはお隣さんの面倒なところだ。うちの家族と瑠希の家族は一応家族ぐるみの付き合いがある。だから、俺の母親が瑠希から情報を聞きだすのも簡単ってわけだ。俺には全く利点が無いシステムだ。


ちなみに瑠希の親は本人と違って温厚で優しい人たちだ。あんなに穏やかな人から何であんなおしゃべりインコみたいな五月蝿いやつが生まれ育ってきたのかが疑問になるくらいだ。本当は血の繋がってない親子なんじゃないかって思うくらいに違うと感じる。まぁ親子の会話を家の中まで聞いてるわけじゃないから、人前じゃないところでは瑠希と同じような人達なのかもしれないけど、俺にはそういう態度を取らないからそれはそれでよしだ。それに比べてうちの母親ときたら


「いい?サボんないで真面目に授業を受けるのよ。サボったらすぐ分かるんだからね。よーく肝に銘じておきなさい。」


こういう人間である。あー。子は親を選べないとはこういうことだろうなぁ。瑠希の親とうちの親をチェンジ出来たらなぁ。まぁいいか。どちらにしろ。大本は変わらない。本質は変わらない。そうだ。


普通なことには変わることは無いのだから。

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