羽が同じ色の鳥は群れになる②
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いつも通りのHRが始まり、いつも通りに授業が行われた。(一応その前に始業式があった。)初日から授業があるのも面倒くさいが、うちの学校は進学校で勉強に力を入れているらしく授業がある。もちろん教えられる内容は一年と同じなんてことはないし、生徒が欠席したりもしているがそんなのは所詮誤差の範囲だ。クラス替えも残念ながら無い。要は特筆して思い付くネタが無いのだ。だからいつも通り。悪く言えば代わり映え無く。
昼休みになり昼食になった。俺は何人かの友達と集まって一緒に弁当を食べる。勿論、玲土も一緒だ。別になんてことはない。いつもそうしてるからそうしてるだけだ。集まっていた方が普通ということだろう。友達だから一緒に昼食を食べる。それは普通なことだろう。食べながら周りの話を聞いているとどうやら今日の話題は昨日のドラマの一話がどれだけよかったかということらしい。
「あそこのシーンがすごく良くてさ。」
「分かる分かる。俺もあそこで泣きそうになっちゃったよ。」
「んで、その後のシーンがまたいいんだよな。」
「終わりもすげー気になる終わり方だったよな。来週が楽しみだな。」
皆が思い思いに感想を述べて共感して盛り上がっている。
「日馬はどーよ。どの部分がよかった?」
俺に話題が振られた。俺は少し考えて
「うーん。特には。」
と返答する。
すると、友達の一人がが信じられないという顔で
「なんだよそれ。お前ちゃんとドラマ見てたのか?今期屈指の名シーンだったんだぞ。」
「いや、ちゃんと見てたって。」
「お前本当そういうところ鈍感だよな。感情がないのかって思っちゃうわ。マジでびっくりするわ。」
「うるせー。感じ方は人それぞれだろうが。」
そう言って俺は箸を進める。説明として前置きしておくと、俺は嘘偽りなくそのドラマを見ている。勿論周りの友達に合わせるという意味もあるが俺自身、ドラマを見ることで自分が何かで変わらないかとか人生が面白くならないかという期待も込めてドラマを見ているのだ。
だが、結果として俺は何も変わらないし、何なら余計に自分の何も無さに絶望するだけだ。テレビの中の人物はあんなにも波乱万丈で楽しそうな人生を送っている。(正確にはそういう話をそういう役で演じているだけなのだが)それなのに俺の人生と来たらそんな予兆すら感じられない。俺はあんな風にはなってないし、なれないのかなぁと思うと少し悲しくすらなる。
だから、特にはだ。俺にとっては何も変化が無いから、何も変われなかったから特に何も思わない。別にテレビの中や本の中の奴がどうなったって俺はあんまり共感できない。だってそれは自分じゃないんだから。そいつらは俺のいない世界で俺のできないことを好き勝手に楽しそうにやっていやがる。
俺はそれが面白くない。まぁとは言っても何か変わるかなとは少し期待して俺も物語を見ることを続けているんだから、自分でも馬鹿だなぁとは思う。実際何も変わらなかったから。少なくても今この時までは。
昼休みが終わって午後の授業が始まった。ここも特に変わったことは無い。いつも通りというか計画通りに授業が進んでいくだけだ。俺はそれに倣って授業を受ける。さながら川を流れる笹の葉で出来た船のように。
退屈だなぁと感じるが、どうしようもないしどうする気も無い。ただ現実を淡々と受け入れるだけ。まぁ仕方の無いことだ。だって―。
この世界は俺を中心に回ってはいない。そんなことは各々の感じ方しだいだと思う人もいるかもしれないが、俺は俺の考え方を否定する気は無い。俺がいたっていなくたって世界は進むし、俺の周りの他人だって同様だ。誰かがそこにいればいいだけだ。それは誰だっていいし、勿論それは俺じゃなくたっていい。
だから、面白くないのだ。俺は退屈なんだ。こんなのは独りよがりだって分かってる。自分が他人と違っているとも思ったことだって何度だってある。それでも思っしまう。考えてしまう。自分が世界の中心にいたら、あのテレビや本の中の物語の中心
の人物になれたのならどんなに楽しいのだろうと。
そんなことを今日も考えながら午後の授業も終わった。放課後になり生徒はそれぞれのやりたいことをする。部活に行くやつもいるし、放課後の委員会等の用事があるやつもいる。
ちなみに、俺は帰宅部で委員会にも入っていない。この高校でとりあえずいいなと思ったことは部活への入部が強制ではなかったことだ。中学校では強制だったので嫌々やっていたが(一応バスケ部だった)、やりたくもないことを自分の時間を割いてやらなければいけないというのは、単に言うならば拷問だ。周り人の空気も読まなければならなくなってくるし、良いことなんて一つもなかった。だから、高校では迷わず帰宅部になることにした。これならやらなくていいことをしなくてもいいし、周りの人のことを考える必要も少なくなる。まぁ全く無いわけではないが。
「おーい日馬。帰りゲーセン寄ってこうぜ。やりたいゲームがあんだよ。」
こういうことだ。声の主は俺と同じ帰宅部の友達のやつだ。
少し間を置いてから
「わかった。ちょっと付き合うわ。」
俺は気の無い返事を返す。そう。全く無いわけではないのだ。人間関係が有る以上、それに伴って集団行動というものは発生する。それを自分が望まなくても集団として生きる人間にとっては必要なことなのだ。もはや、義務と言ってもいいのかもしれない。
まぁ、いいさ。これに付き合うことで俺の中の何かが変わるかもしれない。そう思って俺はいつも自分を納得させる。何かが。
ナニカ。
そうだな。そのナニカがあればいいのだが。