12話
優月視点
翌日、目が覚めたあと朝の支度をして朝食を摂り終わると、コンコンというノックとともに迎えの人が来る。僕は部屋を出てその人の後についていく。
訓練場を横切りさらに奥へ進むと廊下の最奥に扉が見える。そこに入ると中にはリーナと他に女性が三人と男性が四人いた。僕を案内してくれた女性もその中に加わっていく。
「ユヅキよく来てくれた。ここが我々叛逆の使徒の会議室だ。ここにいるのはそれぞれ各分野での幹部で、この作戦の要となる存在だ。仲良くやってくれ。」
そう言うリーナの顔色は昨日よりも大分マシになっていた。それを横目で見ると、他の幹部の人に対して挨拶と一言だけ言う。
「よろしくお願いします。」
「それでは作戦の概要について話していく。作戦は大きく分けて二段階。
まず第一作戦の決行は一週間後新月の真夜中、明かりのない深夜を狙って決行する。
領主の館に潜入し、三つの班に分かれる。
その後、私の率いる暗殺班が領主デブリットの暗殺とそれが達成された後に館内の撹乱だ。そしてここにユヅキに加わってもらう。
もう一つの班、第二班がデブリットの悪事に関する資料の回収だ。暗殺して終わりにはならないので、この班は今後に重要な役割のため確実に行って欲しい。
この班には、隠密、鑑定、拳士、盗賊を派遣する。
そして最後の班、第三班は館内にいるであろう捕われている人々の確保だ。
ここには罠士、剣士を派遣する。
各班目的達成後は速やかに現場を離脱の後にこの建物内に集合、残った者に生存と土産を知らせろ。
また、ここで一つ覚えていてほしいのは私たち暗殺と撹乱の班の生存は確かめなくていいということだ。最も捨て駒のような班だということは分かっていると思う。
…だが、そこは理解してほしい。
以上が第一作戦の概要だ。更に詳しいことはこの後話すが、ここまでで質問があるものは挙手を頼む。」
聞いている限りは細部まで練られた良い作戦だ。だが、リーナが自身のことを最もぞんざいに扱っているあまりにも雑な作戦だ。
しかし僕は作戦の内容については口出ししないと決めている。これはあくまで彼女達の戦いであり、助力を求められたからと言って過剰に干渉するのは良くないと考えたからだ。
ちなみに先程から言っている「隠密」、「鑑定」、「剣士」などはここにいる幹部の方々の得意分野であり、それを専門としているため作戦概要では名前でなくコードネームの一種として使われている。
正直敵に自身の得意な分野をそのまま教えているようなものだが、まぁ作戦中に大声で叫ばない限りバレることはないだろう。
そんなことを考えている間にもいくつかの質疑応答が行われていた。
「今回の作戦で具体的に人数はどれだけ動員するつもりなんだ?」
と、剣士の人が質問する。
「今私たちの仲間はここにいるものも含めて二百三十人程だ。
そのうち第一作戦で動員する人数はその四割、数にして約百人程だ。といっても実際に戦闘に参加する人数は少ない。
今回の作戦の目的はあくまで暗殺。
大規模な交戦はしない段取りだ。そのためその百人には主に資料や捕われている人の保護をやってもらう。さらにいえば、私のいる暗殺担当の班にはおよそ十人ほどを配属し、行動する。
この十人は私が直々に選抜した者たちだ。実力者を多く引っ張り出すことになって悪いが、了承してくれ。」
剣士の人は説明に納得したのか頷くと、今度は鑑定の人が手を挙げて発言する。
「あまりこのような質問はしたくないのですが、リーナ様が暗殺に失敗した場合の保険はあるのですか?」
「いや、良い質問だ。私が暗殺に失敗した場合のことだが、そもそも私は暗殺はしない。今回の私の主な役割は撹乱の方だ。暗殺担当はユヅキに任せようと思う。彼は私よりも隠密、暗殺において遥かに上だ。だからこそこの作戦の肝である暗殺を確実にするために私ではなくユヅキを置く。
皆も反対意見はあるだろうが、その場合は実際にその実力を後で見せてもらうと良い。
これが保険と呼べるかどうかは分からないが、この答えでいいか?」
「ええ、問題有りません。彼の実力についてもある程度は確認していますので、今更確認の必要もないですし。」
「そうか。では他に質問のあるものはいないようなので次に移る。」
そう言ってリーナは机上に建物の図解を広げ始める。
「これから第一作戦の詳細について話す。
この図解は領主の館のものだ。二階建てで、おそらく地下室が存在している。
一階は大広間といくつかの部屋がついている。その中のうちのどこかに地下への階段が有ると考えられ、また捕われている人もそこだろうと見当がついている。そのため第三班はこれの捜索から始めてもらうことになる。
ちなみに使用人は泊まり込みのものは執事長と、侍女長のみだ。しかもその二人も二階で寝泊まりしている。他はその近辺に住んでいるため、作戦中はほぼ無人だと考えてくれ。
そして二階だが、ここの廊下の半ばほどにデブリットの寝室がある。そしてその両隣には護衛が寝泊りするための部屋が置かれている。そのため廊下からの侵入は困難だろうと予想される。
護衛は全部で八人だがその全員が最低でもCランクはあると予想される。またそのうちの一人、ガウスは正真正銘のSランク冒険者だ。
よって第一班は直接窓からの侵入を試みる。既にルートは決めてあるので、全員覚えておいてくれ。
そしてさらに奥へ進むと、そこに妻子の部屋があるが、ここは無視して構わない。今回のターゲットではないからな。
で、だが、この廊下の最奥に書斎と執務室がある。第二班の目的地はここだ。
ここには恐らく鍵がかかっているだろうが、そこは盗賊に任せる。第二班は資料回収後速やかに現場を離脱してくれ。
その間は我々第一班が撹乱をして第二、三班の離脱が楽になるようにする。
以上が作戦の詳細だ。ここまでで質問は?」
リーナが一通り話終えると他の幹部を一瞥する。他の幹部全員が異論はないのか首を横に振る。それを確認するとリーナはさらに続きを話し始める。
「次に第二作戦について話す。
第二作戦は第一作戦とは違い武力ではなく政治的な方面からの戦いだ。
第一作戦が成功後、奪った悪事関係の資料を使い国に訴える。そしてその時近辺の他領の領主の中でも最も力の強いリートヴィヒ伯爵家に協力を仰ぐ。
リートヴィヒ公爵領は視察に行ったところ民からも慕われる良き政治を行っているようだった。
実際評判も良く、私も幼い頃に会ったことがあるが、とても良き御仁であった。その方に協力を頼み出ようと思っている。
しかし万が一にもそれがダメだった場合は私たち自らがこの領地を治めるしかない。私でもいいが、私よりも彼の方がいいだろう。
彼、ダングウェン子爵は現在我々の味方となってくれている。そのため彼にこの領の領主になってもらいこの領を改善していくのだ。
これは全員にやってもらう。もう担当などはなく、各々が自分が最も活躍できる場所を見つけてほしい。
これが第二作戦の概要だ。質問は?」
すると何名かが挙手をする。
「この第二作戦は民からの支持がないと無理だと思うんだがそこら辺策はあるのか?」
「ああ、そもそも私たち叛逆の使徒の大部分がこの領の民だ。民衆の説得は彼らにやってもらおうと思っている。それでダメなら全員で一人一人の元へ行き説得するだけだ。」
「なるほど、結構力技な気もするがまぁいいだろう。」
「では次は私が。国への直訴がダメだった場合、私たちは本当に叛逆の使徒だと思われ討伐される可能性もありますがそこはどう考えているのですか?別に私たちは死ぬことが怖いというわけでは有りません。この領の現状に苦しみ、もがいても正そうと思ってここにいるので。しかし、その努力が水泡に帰すのだけは避けたいのです。」
「そうだな、私は正直国自体への直訴は成功の確率は低いと踏んでいる。」
「それはなぜ?!」
「それは提出した書類等が他の貴族によって揉み消される場合があるからだ。」
「ではどうするのですか?」
「そこは考えてある。これを使おうと思う。」
「これは……!」
リーナが取り出したのは紋章と紙だった。鷹と剣が記された紋章であり、それが紙にも刻印されている。何かはすぐに見当がついた。しかし一応確認を取っておく。
「これはリーナの実家の物?」
「ああそうだ。私の実家、クロフォード伯爵家の紋章だ。そして、我が父から受け取った手紙だ。いつでも私が家に帰ってきてもいいという許可が記されている。
要はクロフォード伯爵家の一員に戻ってもいいという訳だ。
これを使って国への直訴等全ての成功の可能性を上げる。だが、これは最後の最後、もうあとがないときにのみ使う。私情を持ち出して済まないが分かって欲しい。」
「いえ、分かりました。私情のことは別に良いですよ。私たちは貴女様に感謝していますのでその程度のことどうということはありません。」
幹部のその言葉に他の全員も頷く。
「そうか…ありがとう。」
リーナは頭を下げて礼を言う。その姿を見て幹部たちは顔を見合わせ笑みを浮かべると頭を上げるように言う。そしてもう質問がないのか、これで作戦会議は終了となった。各々部屋を出ていき、僕もそれに続いて部屋を出ていく。
部屋に戻り武装を確認して、ギルドでゴブリンの依頼を受注してから少し前に新しく見つけた出来たばかりのゴブリンのコロニーに向かっていく。
ゴブリンの排除もあるが新しく手に入れたスキルやクラスの効果を確認することが主な目的だ。
到着後すぐに戦闘を始め、ゴブリンたちを実験道具として使い殺していくといつの間にか全滅していることに気付く。
今回はまだキングまでしかいなくそれも生まれたばかりで弱かったためあっさりと終わった。
幸いにも誰かが捕われているということもなくゴブリンの魔石だけ抜き取り後は焼却する。
(おかしい…ゴブリンのコロニーができるのが早すぎる。まだ一月も経っていないのに。)
ゴブリンのコロニーは通常小さいものでも形成されるのに最低一ヶ月は掛かると云われている。だからコロニーを見つけた際は必ずそれから一ヶ月はコロニーは発生しないようになっている。
さらにこの巣がおかしいのは誰も女性が捕まっていないことだ。
ゴブリンが生まれるのはは魔力溜まりから自然発生するか人や他の異種族の女を捕まえて孕ませ子を産ませるかのどちらかだ。これはゴブリンという種に女がいないことが起因している。これはオーク、オーガにも言えることだ。
話を戻すとゴブリンのコロニーの形成に欠かせないのが後者だ。
自然発生で生まれる個体の数はたかが知れている。そもそんなに魔力溜まりから多く発生などしているならこの世は魔物の数が莫大なものとなり人類など等に滅んでいてもおかしくないだろう。
要はゴブリンのコロニーの形成に必要なのは他種族の女だということだ。
しかし今回僕が潰したコロニーには女が一人たりともいなかった。いたような痕跡もないため、絶対にそうだと言い切れる。
この二週間ばかりで百体以上のゴブリンが自然発生したなど常識的に考えればアホらしいことだが、実際に起こっているとなると笑えない。
僕は冒険者ギルドに向かい、受注しておいたゴブリンの依頼の達成を報告してからギルドマスターへの面会を求めると予定がなかったのかすんなりと許可が出る。
僕はギルドマスターに今回のことの詳細を話す。流石にギルドマスターはこれの重要性が分かったらしく顔を顰めていた。ギルドマスターは僕に感謝を述べた後、対策を考え始めるようだったので僕もギルドを出る。帰り道に夕飯を食べて部屋に戻る。
部屋に帰った後寝る準備を手早く済ますと、日課の訓練を始める。日課にしている訓練は三つある。
一つは《魔素操作》の訓練だ。
魔素とは魔力の素でありこれがなければ魔力は生成されない。またどんな生物や植物にも宿っていてこれがない生物はいない。
正確に言えば死亡すると体内から魔素は消失するのだ。また魔剣などの付与効果がある剣や道具にも魔素が宿っている。
このことは今まで知らなかったがこれにより分かったのは地球が変貌した要因の一つが魔素だということだ。
恐らく今まではなかった魔素が何処かからか流れ込み空気中に漂ったため凶魔や迷宮が生まれたのだろう。
とまあ、魔素は魔力の素なのだがこの扱いが非常に難しい。
なぜならとても微細な粒子のような物だからだ。魔力を血液と例えるならば、魔素は赤血球や白血球だ。血液という液体を動かすのはまだ楽?なことだが、それより微細で多量の赤血球や白血球を動かすのは容易ではない。
魔力一に対して魔素百程度の差がある。百倍程度今までより操作が難しくなっているのだ。
しかしその反面出来ることもまた百倍程度増えていると言っても過言ではない。
まずは魔法の発動が凄まじく楽になった。魔素から操ることにより魔力の運用性やら操作性が有り得ないほどの向上を遂げたのだ。
また魔法を工夫しやすくなった。例えば遠隔で発動させたり、多重化したり、遅延発動させたり、設置型にしたりと、多岐にわたる。
そして最大の長所は魔力の運用に無駄が完全に消えたことだ。
今までは魔力を使うときに無駄な魔力が勝手に消費されていたが、今はその無駄を完全になくすことができた。そのため魔力枯渇になり辛くなったのだ。
魔素の有能性を確認したところで魔素操作の訓練は文字通りだ。周囲や自身の体内のまさに干渉してひたすら動かす。ただそれだけだ。これを二時間永遠とやる。
次に二つ目の訓練だが、これは神装を使うための訓練だ。以前ルドラが言っていたのは、
『いろいろな技術や我と主の間のズレが少なくならならければいけない。このズレは神気に馴染んでいること、体が負荷に耐えられること、そして、我と主が感覚を共有できるレベルの一体化が可能なことだ。』
だった。そして改めて確認を取るとどうやら技術というのは既にクリアされているらしい。
必要だったのは《魔力支配》と《闘気》、そしてゾーンレベルの集中力だったらしくこの前《闘気》を覚えたことで技術面は終わっていたそうだ。
また、体は充分耐えられるレベルになっているということだし、一体化の方もルドラが体に入っているうちに問題ないレベルまで勝手に引き上げられていたようで、ルドラもこれには驚いていた。
そして今やっている訓練は残りの一つ、神気を体に馴染ませることだ。最初これを聞いたとき、真っ先に《劍帝》の《天乃御劍》を使用した。
初めての使用だったが、これがまたとんでもなかった。
『神気を人の身で使用することは不可能だ。』
これは神に挑んだことがある人ならば必ず思うことだ。かく言う僕もそう思った。
神気はそもそもエネルギーとしての質からして魔力や闘気などとは比べ物にならない。魔力を一としたとき神気は一万以上といってもいいだろう。
そのくらい違うのだ。見ただけで格の違いを思い知らされる。そんな存在だ。この神気を自在に扱えるが故に『神』なのだ。
だがこのトランスドスキル《劍帝》はそれすらも可能とした。天上の存在を。
その効果は凄まじく、まず身体能力の爆発的な向上、これは軽く走っただけで音速を超えるほどの速度が出た。次に脳の認識能力他が全て爆発的な向上をした。
体感で一分ほどが現実ではまさかの六秒、差は十分の一もある。【全見】の発動を合わせるとどうなるのか想像もつかない。
そして最後に神気を使用した技だ。神気を自在に使えるため剣技に組み合わせることができたのだ。
それによって放った剣技は危うく近くの鉱山を吹き飛ばすところであった。なんとか上空に進路変更できて幸いだった。
と、神気を使ったは良いものの僅か一分程で使うのをやめた。理由は単純。体が壊れそうだったから。
例えスキルでも限界はあった。また解除した後のデメリットも体感できた。
代償内容はスキルに記載されていた通り一定時間の魔力の消失と身体能力の激減である。
この一定時間ここが肝だった。
僕は使用時間の分かと思っていたが実際は一分につき一日、つまり一秒につき二十四分だったのだ。
これにより身体能力の激減による尋常でないほどの倦怠感と魔力の消失という有り得ない状態で一日と少しを過ごしたのだった。
特にこの魔力の消失というのはやばく、《魔素操作》に内包されている《魔素感知》ですら体内に一粒の魔素も見つけられなかった。
要は死人状態であったのだ。僕はその間一歩も、いや体の何もかもを動かすことはできず、まさに死人のような状態となっていた。
衰弱も激しく、一定間隔でリーナが回復薬を飲ませてくれなかったら死んでいたのではないかというほどだ。
だがその甲斐あり神気についてどのような感じか分かったので後はルドラから少しずつ神気を送ってもらい体に馴染ませているのだ。
それが終わると最後は古代語の本の解読だ。この古代語の本にはさまざまなことが載っていて、古代のスキルや魔法、技術、伝統、文化、兵法などどれも素晴らしいものが多かった。そのため僕は本の解読とスキルの習得をしているのだ。
日課が全て終わると僕はベットに入り、静かに浅い眠りをとる。
こんな感じで訓練をしながら遂に作戦当日を迎えた…
ここまで読んでいただきありがとうございます。
『面白い』、『続きが読みたい』と思って頂けたならぜひぜひブクマ、評価をお願いします。(作者の励みになりますので。)
ちなみに評価欄は広告の下です。
それでは次回もお楽しみに!




