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職業:賢者の優雅な異世界生活  作者: 卯木ソラ
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3、辺境への訪問者

 

 あれから早いもので2週間が経過した。太陽の光の届かない「賢者の家」だが、能力(スキル)が正確な時間を教えてくれる。『賢者』さまさまである。


 そして、司はというと、地下書庫の蔵書たちと睨めっこしてなんとか読むことは可能になった。とはいえ、ここを訪ねてくる者など居るはずもなく会話を試したことはない。通じなくても魔法で翻訳とか司ならやりそうだ。



 それから、また一つわかった事があった。それは、司が転移してきた原因である。前にここに居た賢者の仕業らしい。先代は真面目な性格だったのかこと細かく書かれた手記が残っていた。それによると先代は老いで亡くなる前に錬金術を行おうとしていたようだ。錬金術といえば有名な漫画があるが、それと同じで異世界でも等価交換が基本だったらしい。


 まとめると、先代が(自身の肉体を対価に)新たな賢者を召喚したという事だ。そうして、呼び出されたのが司だったのだ。因果応報とはよく言うが司に至ってはとばっちりとしか言い様がない。


 因みになぜ詳細にわかったかというと安定の『鑑定』×『賢者』である。実は司が転移した地下書庫の床には大きな魔法陣が描かれていたのだ。それを『鑑定』してみたら錬金術の魔法陣だとわかって、更にその傍に手記が置いてあったという訳だ。



 理由はともあれ司は現状に割と満足していた。前の世界に未練がないといえば嘘になるが(高校の制服に袖を通せなかったのはかなり痛いが)、それでも司は、分けて考えられるタイプだった。それはそれ、これはこれ。


 少なくとも、食糧に困らず当面は読書や探索、魔法の実験に時間を費やすことが出来るので、問題は無かった。むしろ快適すぎて引き篭もり(二ート)と化している。そして労せずして、「探索」と「解読」の能力(スキル)も増えている。



 そんな生活をマイペースにも満喫していた司だったが、今日に限ってはそうもいかないらしい。


 司は何かの気配を感じて、読んでいた書物から顔を上げると、じっと玄関の方を見据えた。もちろん、壁があるため直接は見えない。すると音も聞こえないはずの暗闇の奥から小さな足音が聴こえてきた。少し離れた距離だろうがはっきりとした音で聞こえている。これは手に入れた「探索」能力(スキル)のレベルがそこそこ上がっている証拠だ。


 だんだんと近づいてくる足音は扉の前で止まった。コンコンコンとドアノッカーのリズミカルな音が鳴る。その時には司は既に玄関へと歩き出していた。


 その日、生物の存在しない谷底の隠れ家に突然の来客があった。それは恐らくこの家が造られてから最初で最後の訪問になっただろう。







 扉を開いた司は暫し込み上げてくる感情を抑えるのに真顔になった。それも致し方ないことだろう。なぜなら司の目の前にいるのは、それはそれは愛らしい狐なのだから。白に近い薄い水色の毛にそれより濃い空色の模様。黄水晶のような丸い瞳。子狐程度の大きさをしたそれは毛並みがつやつやだった。触りたいと思うのも仕方ないほどに。が、反対に狐の方はというとまん丸の目をこれでもかというように見開いていた。


「○※△¥#@~!!」


「・・・なんて?」


 狐が何かを叫んだが、耳馴染みのない音に司は首を捻る。この世界の文字は読めるようにはなったが、やはり会話はできないらしい。その手の魔法がないか『賢者』で検索をかけると「翻訳魔法」というのが出てくる。これは思念伝達に近く、意味のある言葉を自動的に翻訳してくれる便利な魔法である。永続魔法の一種で一度掛けただけで効果が持続する。司は迷うことなく「翻訳魔法」を使った。『言語理解』の能力(スキル)が増えた。


「あなたはどこから来たの?」


 司は狐に尋ねる。狐が何に対して驚いていたとかは興味なかったので無視した。知りたいのはこの世界のことだ。司にとってはそれが最優先事項だった。


 だがしかし狐がそれに答えることは無く、恭しく一礼すると、逆に司に質問してくる。所作が人間地味ている。


「...アナタが賢者様ですか?」


「職業欄はそうなっているね」


 司が答えると狐は歓喜に充ちた表情をし、声高にまくし立てる。心做しか瞳も潤んでいるように見える。


「人の身を捨ててまで試した甲斐がありました!神はワタシを見捨てなかったのですね!」


 なんと、狐は元人間で【賢者】を探していたらしい。


「事情を聞かせて欲しいのだけど。あなたはどこから来たの?」


 狐のテンションの高さに司が呆れた目になるのも仕方のないことだ。何しろこの狐が一体何者なので何処から来たのか、司には皆目見当がつかなかったのだから。初対面なのにハイテンションで来られると、人は誰しも距離を取りたくなるものだ。


「賢者様、少々話が長くなるので、宜しければワタシどもをそちらの家に上げて頂けませんか?」


 この狐、物腰がとても丁寧で柔らかい。きっと前世では良い人間だったのだろう。まだ、死んでいないが。


 聞き間違いでなければ、狐はワタシどもと言った。そこで司は、狐の足元に籠が置いてあることにようやく気づいた。じっと見つめると微かに動いた気がする。


「生き物?」


 思わず呟いた司に、狐は瞳に悲しげな光をたたえて答える。


「はい、赤子でございます。ワタシがアナタに助力を乞う理由であり、人の身を棄てた原因であります。それもふまえてお話するつもりです」


「赤ちゃんか・・・久しぶりに見たなぁ。籠に収まるってことはまだ小さいんだね」


 司は感慨深げに頷くと籠を持ちあげる。するとお包みの隙間から赤子の顔が見えた。細く柔らかそうな銀色の髪にぷくぷくとした赤子特有の丸い輪郭。頬には赤みがさしているし、唇もピンク色で健康状態は悪くなさそうだ。眠っているようで残念ながら瞳の色は判別できない。司はその微笑ましい姿に思わず笑みを浮かべると狐に声を掛ける。


「“賢者の家”へようこそ。何もない場所だけど、客人をもてなすことはできるからね」



会話文とか視点とかでちょっと書き方を迷っています。試行錯誤の段階なので読みにくいことがあるやも知れませんが大目に見ていただけると嬉しいです。

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