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出会いは日常の中に  作者: つきみまいたけ
7/8

どっちも


警察から!?・・・何!?


翔太のことが真っ先に浮かんで、血の気が引いた。

携帯の向こうへ、「はい・・・そうです、けど?」と恐る恐る返事する。


「朝比奈翔太くん、ご存知でしょうか?」


その言葉で、やっぱり翔太に何か起こったんだと体に緊張が走った。


「翔太くんに何かあったんですか!?」


急いで聞き返すと男性が事務的な口調で坦々と話してきた。


「道に迷われていたお年寄りを署の方へ案内してくださったんです。小学生が帰るにはもう遅い時間なので朝比奈君もこちらで保護してます。お迎えをお願いできますでしょうか」


迷子・・・じゃなくて、迷い人を届けたほう?とにかくすぐ、あーちゃんに連絡しなきゃ。


「すぐ迎えに行きます!」と答えて通話を終え、急いであーちゃんの携帯に電話する。

2コール目が鳴る前に出たあーちゃんの声は、「翔太、帰って来た!?」と息を切らせていて、今まで走って探していたことがわかった。


「翔太くん、今警察にいるんだって。でも大丈夫、道に迷ってた人を連れて行ってあげただけらしいから。あーちゃん早く戻ってきて。迎えに行こう」


急いで帰ってきたあーちゃんとすぐに車で警察に向かう。もう外は真っ暗だ。

信号待ちで止まったとき、あーちゃんがハンドルを握ったまま、私に語りかけるでもなくボソッと呟いた。


「無事で良かった。探してる間、もし翔太がこのまま帰って来なかったらって考えて、生きた心地がしなかった・・・」


わかる。私も、警察から翔太くんの名前が出た瞬間に心臓が跳ね上がって、保護されてると聞いて膝の力が一気に抜けたもん。

警察署は車では10分程の場所にあるけれど、歩いたとなるとかなりの距離だ。早く翔太の無事な姿を確認したい。


車を停めて窓口に名乗り出た私たちは応接セットがある一角に案内され、そこに翔太がランドセルを前に抱え込んで座っていた。


あーちゃんが何も言わずに翔太の前に膝をつきランドセルを避け、翔太の頭から足元まで一瞥して無事を確認してから優しく包み込むように抱きしめた。

私もすぐに交じりたかったけど、兄弟の抱擁の邪魔はできない。そう感じるほど、翔太を抱くあーちゃんの後姿に弟を想う気持ちが溢れて見えた。


抱きしめられたまま翔太が小さな声で、「心配かけて、ごめんなさい」と謝ったが、あーちゃんが横に首を振る。あーちゃんはただ、「無事で良かった、良かったよ・・・」と噛みしめるように繰り返し呟いていた。


翔太は警察の人からの聞き取りをすでに終えていて、私たちに説明してくれた。


翔太が言うには、学校から帰宅途中、お年寄りの女性に「私の家はどこでしょう?」と尋ねられたそうだ。知らない人だったから当然、「わからないです」と答えたら、大通りを手押し車を押しながら斜めに渡り始めた。車が行き交っていたから危ないと思って女性を引き戻して、一緒に探すことにした。

あっちだったと思う、この道は通った道だ、と女性の言葉に付き合って歩いているうちに知らない地域まで来てしまって、帰る道もわからない。携帯を持ってないから連絡もできない。

始めは見つけられると思って家探しに付き合っていたが、自分以上に女性が歩き疲れて見えたことも気がかりになってきた。ようやく交番に行くことを思いついてコンビニで尋ねて、そこから一番近い警察署にたどり着いた、と。



「翔太くん、知らない場所で不安だったでしょ。よく私の番号覚えてたね」


「うん、気付いたら知らないとこだったから、ちょっと怖かった。みおの番号はあーちゃんから聞いて登録したときのを、なんとなく覚えてたんだ。他に思い出せなくて・・・みおにまで迷惑かけて、ごめんなさい」


「ううん、番号覚えててくれてありがと。翔太くんが無事で、本当に良かった」


私が両手を広げると、翔太がイスから立ちあがりそうっと進み出てきた。私からも足を踏み出して、翔太をぎゅーっと抱きとめる。ウエストに回した翔太の手に徐々に力が入ってきたのが感じられる。繰り返し頭を撫でながら褒める。


「がんばったね、翔太くん。困ってる人を助けた翔太くんは偉いよ」


泣くのかと思ってそのままの体勢でいると、少しして手を緩めて上げた翔太の顔は眉を八の字にして泣きそうなのをなんとか堪えた笑顔を見せた。


「うん。ぼく、あーちゃんとみおが褒めてくれると思ったから、がんばったんだよ」


横で聞いていたあーちゃんが、「翔太はよくがんばりました。おおっきい花マルだなー」と翔太の頭を力強くグルグル撫で回す。途端に翔太があーちゃんにパッと飛び移るように抱きついて顔を埋め、静かに鼻をすする音が聞こえ出した。



私達が迎えに行くまでずっと張り詰めていたらしい翔太は帰り道、後部座席で間もなくうとうとし始め、やがて横に置いたランドセルを枕のようにして寝ていった。

あーちゃんは時折振り返って、翔太を確認している。その安堵した表情から、翔太を大切に思う気持ちが窺える。


翔太が見つかった時点で自宅には連絡を入れてあったが、家まで送ってもらった時に、心配していたママたちが車内で眠る翔太をガラス越しに見て胸を撫で下ろしていた。



翌日には翔太がいつもどおり登校して行ったと聞いて、安心した。

学校から帰宅したら、翔太からあーちゃんにメールする約束を決めたらしい。

あーちゃんは帰宅が遅いことが多いから、いいアイデアだね。



夜、美香ちゃんに、何を思って突然結婚を決めたのか尋ねてみた。


「別に、突然決めたわけじゃないわよ。前々から考えてたことを決心しただけよ。」


「決心?」


「彼が料理人として生きてくためのサポートをしたいって、前々から思ってた。ある時、それなら『いつか』じゃなくて『今から』じゃない?って、自分の中で答えが出たの。入籍は突然だったかもしれないけれど、後からちゃんと結婚式したでしょ」


数年前に見た美香ちゃんのドレス姿は今思い出しても素敵だし、親しい人たちを呼んでうちのお店で開いたお披露目の集まりは、そのまま私の憧れの結婚の形になった。


私も結婚式は形式ばったものじゃなくて、家族の手料理と大好きな人たちに囲まれてお気に入りの場所でできたらいい。以前はぼんやりと思い描いてたイメージが、あーちゃんを意識したことで今はグッとリアルに考えられる。


「私、あーちゃんと早く結婚したい。でも大学へも行きたい。だからって、大学へ進んだら卒業まで長すぎるよ。ねぇ美香ちゃん、どっちを選ぶべきかなぁ・・・」


目元に笑いを乗せながら小首を傾げた美香ちゃんが、いたずらっぽく微笑んで明るく言った。


「どっちも選んじゃえば?」


「え?どっちも?」


「美緒、中学の頃から看護師になりたいって言ってたよね。うちの家計に負担掛けないために奨学金のこと調べてたのも知ってるよ。成績いいから、志望校狙えるんでしょ?行きなさいよ、大学。それでもって入学と同時に、秋人さんと学生結婚しちゃいなさいよ」


大胆なことをサクッと言ってのける美香ちゃんに、「え?」と目を瞬く。


「そんなこと、していいのかなぁ?結婚もして学校も行くなんて・・・」


「美緒が本気で思ってるなら私、お父さんたちの説得に協力するわよ。それとも、大学出てからにする?もしかしたら、お互いの気が変わってることもありうるし・・・」


頬を上げて目を細めた美香ちゃんが今度は少し意地悪く微笑む。


お茶のおかわりを用意しに席を立った美香ちゃんの態度から、後は自分で考えなさいという思いが読み取れた。









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