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出会いは日常の中に  作者: つきみまいたけ
6/8

やきもち


あーちゃんと付き合い始めてほぼ1年。


私は2年生となり、教職採用試験に落ちたあーちゃんは進学塾の非常勤講師をしながら、来年の試験勉強をしている。塾講師は終わる時間が遅かったり休日に仕事があったりで、高校生の時間とはすれ違いが多い。

平日、たまに時間に少し余裕ができたあーちゃんから会いたいと連絡があるけれど、平日の高校生にそんな余裕があるわけないでしょとあっさり断る。本音は会いたいんだけど、授業や部活をサボることはしたくないから。

時間があるとしたら、試験期間の部活停止期間ぐらいだ。期間は教えたけど、だからって試験勉強するためだから、空き時間じゃないんだけどね。


試験期間の今週は授業が終わってすぐ、一斉に下校。電車やバス、自転車や徒歩など校門を出て様々な方向に学生が散っていく。私はバス停で一緒にしゃべっていた友人がバスに乗るのを見届ける。


さて帰ろう、と体の向きを変えると、斜め前にあーちゃんが立ってて驚いた。背後のコンビニにはよく乗せてもらう車が止まってた。


「あーちゃん!びっくりしたー。こんなところでどうしたの?お仕事は?」


「今日、早く上がれたから、会いに来たんだけど・・・」


素早くスマホを見て、メールも着信もないことを確認する。うん、突然来たんだね。


不機嫌さを隠そうとせずしゃべるあーちゃんに、「何かあったの?」と尋ねる。


「何か、って・・・今のあれ、誰?」


「今の?宮原君のこと?1年の時も同じクラスだったよ、教育実習で覚えてない?」


「美緒以外、忘れた。・・・今年も同じクラス?」


「うん、クラブも一緒。授業の一環で週一回のクラブが今日でね。で、終わってそのままバス停まで一緒だったの」


「なんで、頭クシャクシャされてたわけ?」


機嫌が悪い原因がわかってきた。


バス停で立ち話してるときに宮原君が、「小川って、先生に警戒心足り無さ過ぎ。ちゃんと持てよ。そんでもっと気ぃつけろよ」と注意してきた。

クラブの男の先生がスキンシップ過剰なことに対してかな、と思い当たったけど自意識過剰かもしれない。

とりあえず鞄の中を覗いて、「警戒心、どこに仕舞ったかな~」と探す振りしてやり過ごそうとしたら、かえって彼を刺激してしまったらしく「おまえってやつは~!」と両手で髪をかき混ぜられてしまったのだ。


遠目から見ると、笑ってたからじゃれて見えたのかもしれない。いちおう抵抗もしてたんだよ。


「ボケとツッコミみたいなものかな。私がこうやって手を繋ぐのはあーちゃんだけだよ」


言いながら手をあーちゃんに重ね合わせ指を絡めて、ニコッと微笑んで見せる。


付き合いだして間もない頃はぎこちなかった繋ぎ方が、今は馴染んで心地良い。

はじめは私から繋ぐたびに顔を赤くしていたあーちゃんだったけど、今では慣れて自分から繋いでくれるようになったのが嬉しい。


一瞬緩んだ表情を見せてくれたのに、「美緒、翔太とだって手、繋いでるだろ」と、まだ少しご機嫌ナナメだ。


「翔太くんは弟だし、まだ小学生でしょ」


「美緒と翔太、仲良すぎ。ふたりだけでよく、メールとか電話してるだろ」


「だって翔太くん、学校であったこととか聞かせてくれるし、絵文字たくさん使ってくれてかわいいんだもん」


弟にムキになるなんて、困ったお兄ちゃんだ。でも、そんなところも好きなんだよね。

下校途中の子たちの死角になるように、あーちゃんの陰に隠れてぎゅっと抱きついて見上げる。


「あーちゃん、1週間ぶりだねっ、会いたかった~」


さすがに不機嫌でいられなくなったあーちゃんが焦り声で、「美緒っ。美緒っ、見られてるって」と小声で注意してくるけど、見られて困ることはない。もう、学校の先生じゃないんだから。


進学塾で雑務兼講師をしているあーちゃんは人気があるらしい。


そこの塾に通っているクラスメートが偶然見かけたことから耳に入ったことだ。

教育実習の時よりも教え方がずいぶん上手くなってて講義中に時折笑顔も見られるくらい先生として成長したらしい。しかも若いとあって、女子が朝比奈先生に声を掛けてるのを何度か見たと。


それを聞いたとき、まずいと思った。他の子にあーちゃんの魅力を知られると、きっと好きになる子が出てくるし、塾に行ってなくて会える時間が限られてる自分が不利だもん。


だから今、見られて困るより、自分があーちゃんと付き合ってることを周知させたいくらいだ。


あーちゃんは焦ってはいるけど私を引き剥がすことなく、抱きつくままにさせてくれている。今日は会いに来てくれたけど、私だってもっとあーちゃんと一緒に居たい。思ったままを口にした。


「毎日一緒に居たいなぁ」


「・・・僕も」


あーちゃんのほんの短いひと言にキュンとして、回した手に更に力が入る。


照れるあーちゃんに引きずられるように車に乗せられ、「美緒ったら恥ずかしくないの?まったく・・・」とブツブツ言いながらも顔が喜んでる。


そして、弟と私が仲良すぎと言ってても、翔太にも会えるようにあーちゃん家に連れて行ってくれた。

そんなあーちゃん、大好き。


翔太が帰ってくるのを待つ間、私は試験の範囲を復習し、あーちゃんは夕食の支度にとりかかる。

ふと顔を上げると、夕食を仕上げたあーちゃんが落ち着きない。時計を見ると6時を過ぎている。翔太はまだ帰ってない。


「翔太くん、遅くない?」


「・・・だよね。今、翔太の友達の家に連絡しようか、考えてたんだ」


口にしてすぐに行動に移したあーちゃんは携帯を耳にあて、「すみません、朝比奈と言いますがそちらに翔太がおじゃましていませんか?」と、尋ねた。直後、「そうですか、失礼しました」と言って通話を終えたことから、いなかったらしい。


「ランドセルがないからもしかしたら、まだ学校かも・・・」


「そうだね、僕が見に行ってくる。行き違いになるといけないから、美緒はここに居て」


言うが早いか、あーちゃんはすぐに探しに行った。


私は自宅に連絡して、翔太がまだ帰ってこないからあーちゃんに付き合って遅くなると断りを入れておく。


翔太は帰りが遅くなるときはいつも、誰の家にいて何時頃帰ると連絡してくる子だ。

なんで今日は連絡してこないんだろう?あーちゃんに心配かけるような子じゃない。


外がだんだんと暗くなるにつれて、不安が増してくる。きっと私以上にあーちゃんが不安なはず。


あーちゃんからの連絡を待っていたら、私の携帯に未登録の番号着信が表示された。


こんな時に誰よ?と、思いながらもすぐにでると、「こちら内浦警察署ですが、小川美緒さんの携帯でよろしいですか?」と尋ねられた。






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