とある夏の戦い。
ふと思いついた夏の日の一コマ。
BL注意。(きゃっきゃしている、という程度ではあるのですが)
スペース、改行を除く1138文字。
「青藍様、かき氷を食べませんか?」
そう言いながら執事がやって来たのは午後2時を過ぎた頃だった。
今年は近年例を見ない猛暑であるらしく、30度を超える日が続いている。
さすがに山の中腹にある城はまだ過ごしやすいが、城下町は此処まで上って来ようと思うことすら億劫になる暑さであるらしい。おやつは城で食べることに決めているのか? と疑いたくなるほど押しかけて来ていた町長も、この数日はぱったりと足を止めている。
なので、と言うわけではないだろうが、彼が手にしていたものはいつもの紅茶と菓子のセットではなかった。
「かき……氷?」
「ええ。氷を削って蜜をかけたものです。先日削り器を手に入れまして」
予算が足りないというのが口癖の執事にしては珍しいこともあるものだ。
まぁ彼の場合、氷は自給自足できるわけだから、世間一般にはまだ出回ってはいない「かき氷」なるものもそれほど手の届かない珍品ではないのだろう。
折しも1日で最も気温が上がる頃。そこに現れた氷菓は興味をそそられる。
だが。
「匙が2つ」
「ええ。一緒に食べましょう」
「……これを? 俺と、お前で?」
「はい」
入って来た時からずっと笑みを絶やさないグラウスにうすら寒いものを感じる。
よくわからないが、ひとつをふたりで食べるというのはかなり親しい者同士ですることではないのか?
「親しいでしょう? たまには友人として、どうですか?」
いや、どうですか、と聞かれても。
確かに友人は「親しい者」に入るかもしれないし、育った環境が環境だけに自分には彼以外にそう呼べる相手はいない。その唯一の友人がそう言うのなら……こういうものは異性でするものだとばかり思っていたけれど、自分の常識が非常識だった、とも考えられる。
だ、けれど。
やっぱりひとつの器のものを男ふたりでつつき合うのは何かが違うと言うか。
「溶けてしまいますよ」
「あー、ええっと、」
否応なく匙を握らされて真向いに腰を下ろされて。
この男はたまに強引なところがあるけれど、こちらにも心の準備というものが。
「青藍様」
動揺を隠せないご主人様を前に、その執事は神妙な顔をする。
「……はい」
「これは、勝負です」
「勝負」
グラウスは頂上付近のクリームを指し示す。
「交互に氷を食べていって、上のクリームを倒したら負けです。ではまず私から」
言うなり、麓付近の氷をざらりと掬い、口に運ぶ。
抉られた部分が心許ない。
「ああ!! ずるいぞ先にっ!」
「見本を兼ねまして。さ、次は青藍様の番ですよ」
「くっそー! 絶対に勝ーーーーつ!」
まんまと執事の作戦に乗せられたことを、ご主人様はまだ知らない。
……青藍様、ギャンブルに弱すぎる……。