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奪われた君、与える僕。  作者: 菅原 遥
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第1話 "普通"のデート

「まかせて。奪われてしまった君に、僕がもう一度与えてみせる。」

そのどこまでも澄んでいる綺麗な瞳に、固く誓った。



―――――――――――――――――――――――――――――――



わかってはいた、覚悟していた。そうだろ、立川慎也(たちかわしんや)

……けれどいったい何だってこんなに人が多いんだ。

つい、ひとつの疑問が口に出てしまった。

「この人たち、いつ仕事してるんだろ」

「え、慎也くん、なにか言った?」

隣にいたひとりの女の子が、僕の顔を覗き込んでくる。

相変わらず整った顔立ちしてるなあ。

「ただのひとりごとだよ、末広(すえひろ)さん」

「なーんだ。って、あかりって呼んでって言ってるでしょー」

そんなことを言いながら、僕の彼女は頬を膨らましている。

うん、かわいい。

我ながらすごいご執心ぶりだ。

まさか自分が、ここまで人を好きになるとは。


「慎也くん、あれ乗ろうよ! あれ! なんかクルクル回ってるよ!」

僕たちは遊園地に来ていた。

長期休暇を利用してのささやかな日帰り旅行だ。

電車でなかなか時間がかかったが、彼女の笑顔には変えられない。

なんちゃって。


「今度はあれ! いこ!」

「なんだってそんな回転したがるのさ」

「回りたいトシゴロなのだよ、ふふ」

なんで得意げなんだろ。

僕たちはまだ高校1年だからこんなに遊べているけれど、

2年からは大学進学に向けて勉強しなきゃなんだろうなあ。

そんなことを考えて、少しだけ憂鬱な気分になる。

待て、デート中なんだからそんなこと忘れよう。


「あー、回った回った! なんだかお腹空いちゃったねぇ」

「そこのお店、入ろうか」

外装だけでなく内装までも煌びやかに凝ってある。

ここの遊園地のマスコットキャラらしきデザインがあちらこちらに。

なんだか落ち着かないなぁ。

まあこの子は目をキラキラさせて喜んでるけど。

「オシャレなお店だねぇ。指鳴らしたらウエイトレスさん来るかな」

「うーん、たぶん来ないと思うなぁ」

パッチン。彼女が指を鳴らす。まったく。

……やっぱり来ないじゃん。

それどころかほかのお客さんから注目されちゃったじゃないか。

「ん?なんだかみんなこっち見てるよ、慎也くん」

「あかりが見られてるんだよ、もう」

僕らは少しお高い人気料理をそれぞれ頼んだ。

これ、地元のファミレスならもっと安くで……

いやいや、そんなことは考えないでおこう。これもまた遊園地ならではだ。

ウエイトレスさんがお冷を持ってきてくれた。

「やっぱり、遊園地の水は違うねぇ」

「僕には違いがわからないなぁ」

「雰囲気だよ! ふ・ん・い・き!」

「ごめんごめん、遊園地の水はおいしいよ」

「でしょー、ふふ」

だからなんで得意げなんだ。


運ばれてきたお高い料理を、ふたりで仲良く食べる。

ぜったい数日後には使わないであろうグッズをふたりそろって買う。

そんな普通の幸せが、僕にとってはかけがえのないものだ。

帰りの電車の中で、君の寝顔を眺めながら僕はそんなことを思っていた。

電車が停まる。

「着いたよ、おはよう」

「んー? わ! ごめん寝ちゃってた!」

「いいよ、一日はしゃぎまわって疲れたもんね」

本当に今日一日は楽しかった。


君の心を(むしば)んでいく、その厄介な病を忘れてしまうほどに。

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