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その音に驚いてドアに思わず目をやる。
いかにも、というような品の良い制服に身を包み、肩下の黒髪は涼やかに風になびく。
彼女を見た全ての人が一瞬で目を奪われる、きっとそうだ。
しかし僕のそんな思いは次の一言で、もろくも打ち破られた。
「あら、ずいぶんと久しぶりね。あなたがのろのろしているから、わざわざ私のほうから出向いてあげたわ」
薄い目をし、得意満面で僕に話しかける。
そして、僕の顔を至近距離でのぞきこむ。まるでキスしてしまいそうな距離だ。
「うわっ、なんなんだよ一体」
僕は飛ぶように後ろに下がった。
「もう少し格好よく成長していると思ったけど、まぁいいわ」
そんな彼女に老紳士が、なかば呆れたように言う。
「お嬢様、またそんなことを……。昨日は森口さまに久しぶりに会うのだからと張り切って、いつもより念入りに髪を乾かし、爪を磨いていたのはどこのどなたでしょう?それに……」
「吉川!」彼女の顔はみるみる赤くなる。
「それに?」僕が聞き返すと、あわてふためく彼女を尻目に老紳士は続けた。
「はい、それに森口さまのことはあの日以来、ずっと写真でお顔を拝見なさっていたのに『格好よくない』などと……」
(そこまで言ってないんじゃ)とまぁ、少し引っかかる部分はあったが、僕はこの初対面でずいぶんと失礼な二人組のやりとりを、頭を整理しながら、そしてただ呆然と眺めているしかなかった。
「それは内緒だっていったでしょう」
そう彼女が言ったその時(ワン!)扉の奥から一匹の犬が僕に飛び付いてきた。
「メイ!」彼女が言う。
丁寧に手入れされた毛並みが光る。メイと呼ばれたその犬は僕の顔をなめ、彼女のもとへと行く。
犬の頭を彼女が撫でたとき、点が線でつながる感覚がはしった。
「もしかして、あの時の!」




