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「一年、森口涼太。校長室まで」
購買で昼食の焼きそばパンを2個買い終わった直後、放送が聞こえた。
「お前なんか悪いことしたんじゃねえの」
クラスメイトの真田が僕の腕を小突く。
「えー、校長室までってなんだよ、全く身に覚えなんてないし」
そう言う僕に「校長室なんて滅多にないぞ、まぁ後で何があったか教えてくれ」
焼きそばパンを一つ僕の腕から奪って、片手をあげ、さっそうと階段を上がっていった。
(嫌な予感しかしないな)
校長室のドアをノックする。「失礼します」
中を覗くと、そこには予想に反して機嫌の良い顔の校長が立っていた。
そして、その隣には白い髭をたくわえ、白髪がよく似合い服のしわひとつない、歳をとった男性が立つ。老紳士ともいえる風貌だ。
「桜川家の使いでいらした吉川さんだ」
校長が聞きなれない名前を得意そうに言った。
老紳士が深々と頭を下げる。
「その節は大変お世話になりました」
「その節?お世話?」
どれだけ頭を整理しても(その節)にあたる出来事が浮かんでこない。
「戸惑っていらっしゃる、無理もない」老紳士は可笑しそうに笑った。
そして、「手紙は読んでくださいましたか」と言った。
「あぁ、手紙!」僕は思わず声が大きくなった。
「えぇ、そうです。お嬢様がぜひお会いする前に手紙を差し上げたいと」
そう言うと、腕時計にちらりと目をやった。
「そろそろかと……」
その時、校長室のドアが勢いよく開いた。




