表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ロマンスの神様

作者: 尚文樹

「わし、神様辞める」


ロマンスの神様がそう言ったのは、ついさっきの出来事からだった。


「潤」


「どうしたの、呼び止めたりしてさ」


「あの、ね」


「……うん」


黄昏に染まった、放課後の教室。

二人は互いをちゃんと見ようとして、でも上手く出来ずにいた。


ゴクリと、息を呑む声が聞こえる。


「私、ね」


聞いてくれている。彼は。


この続きを、聞こうとしてくれている。


不意に。


喉があまりにも渇くから、不意に時計を見てしまった。


「も、もうこんな時間! 部活行かなきゃ! ごめん潤、また今度!」


「お、おう」



「だああああああああ!!!」



「うざい! うざったい!!」


神は叫んだ。


「なんなんだよ! 誰がわざわざ奴を教室に引き留めてたと思ってる!?」


神は嘆いた。


「ヘタレ野郎とヘタレアマしか居ないのか人間には! 面倒くさいにも程があるっての! いっそ滅びてしまえぇ!!」


「神様。とりあえず落ち着いてください」


騒いでいる神とは対照的に、冷静な天使が窘める。


「あ、ああ。……すまん。だがな、こうも焦れったいと叫びたくもなる」


「ええ。今週のノルマ、全く達成出来て無いですもんね」


ここは天界だ。


二人は、実体のある不思議な雲の上に立っている。


神様を囲うように、不規則に並べられた大きな金縁の姿見。

それらには、さっきまで見ていた男女二人が写っていた。


「生前一度も恋をしなかった私だが、こんな皮肉な仕事をやる事になるなんてなぁ」


もう何度も繰り返したその台詞を、神はまた言う。


天使は溜息を吐いてから、それを無視して報告した。


「神様、次のチャンスです」


「どれどれ。今度は上手くいきそうなのか?」


「勿論です。神様の腕次第ではありますが」


「む……次こそは」


声に呼応するように、姿見にシーンが浮かび上がった。


「あの。先輩」


「ん、なに?」


都会の真ん中、ビルの屋上にて。


綺麗な夜景を背にした、二人の影。


一人は、真剣な表情をする、初々しい新卒のサラリーマン。


もう一人は、疑問符を浮かべた、優しそうなOL。


「おお。良い雰囲気じゃないか! 何もしなくても良さそうだ。さぁ早く! 勇気を出して告白するんじゃ!」


暫く、沈黙が続く。


だが、それも長くはなかった。


「僕、先輩の事が……」


それは突然に。


ガチャリと、静寂に似合わない無機質な音が響いた。


「はーい、こんな時間まで屋上に居ないでねお二人さん。ランデブーするなら別んとこで頼むぜ、閉めちゃうから」


「「……あ、はい」」


二人の返答は、一字一句同じだった。



「うがああああ!!! 普通このタイミングでビルの管理人来るか!?」



神は、またしても叫んだ。


「えー。今のは屋上を人避けしなかった神様が悪いですよ」


「いやだってさ、あのまま行けそうだったじゃん。言えそうだったじゃん。下手に手を出して失敗した事だってあるし、今度はそうするまいって思ったのに!」


「……まぁ、あのヘタレ男もどうかと思いますけどね」


「分かんないなぁ、人間。何で素直になれないかな」


「そりゃ私らは恋した事ないから分からないですけど、複雑な気持ちがあるんじゃないです?」


「言った方が楽になるし、待ってても余分に苦しいだけなのに」


「いやいや。神様にそんな経験無いじゃないですか」


「おい、さっきのカップル……」


今度は神様が、天使を無視して呟いた。


校庭の隅、優しい夕陽に照らされた、高校生の男女二人。


「あっ、潤……」


「……部活終わりか?」


「う、うん」


神は、黙っていた。


「さっきの、続き」


「……」


「……潤。あなたの事が、……好き」



「だああああああ!!」



またしても。神は叫んだ。


「やれば出来るじゃんか! これならさっきのタイミングでも言えただろうに!!」


「待って下さい神様。まだ早いです」


言われて、神は姿見に視線を戻す。


「……俺、お前とは、友達で居たい」


「だから……ごめん」


「「え?」」


神の声色と、少女の声色は、同じものだった。


「天使よ」


「どうしました?」


「わし、神様辞める」


「無理です」

ここまで読んていただいて、ありがとうございます。


文字数にかなり気をつけて書いていて、改行を含めず1600文字(原稿用紙4枚分)に収まるように書きました。


恋愛ってめんどくさいね、なんてかなりポピュラーなテーマで書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?


もし現実にもロマンスの神様がいるのだとしたら、もっとちゃんと二人を良い方向へ誘って欲しい所ですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ