第66話 沙希からの手紙
武弥。本当にごめんなさい。
最初にこれだけは書いておくね。
花火大会。実はね、誰かと一緒に行ったのって初めてだったの。
私って、人と関わることが苦手だからね。
そのせいで今まで行けなかったの。人混みとかも逃げてた。
でも、武弥が一緒に花火大会に行こうって誘ってくれたこと、本当にうれしかった。本当に。
武弥にそのときに告白してしまおうかなって思ってたくらい。
でも、我慢した。そのこと、ちょっとだけ後悔してるかもしれない。
花火大会の少し前、電話かけてきてくれてありがとう。泣きそうなくらいに嬉しかった。
いっぱい話し込んじゃって、気づいたら3時過ぎてたね。
あんなに長く男の人と話したの初めてだったよ。あっという間だった。
こういう時間が、ずっと続けばいいのにって思っちゃって。
花火大会の時間がどんどん近づいてることに気付いて。
あのね。武弥。
ずっと言えなかった、ううん、逃げてた。
私は武弥のこと、ずっと好きだった。
初めて会った時のことを覚えていないくらいの付き合いだよね。
これって、幼馴染ってことだよね。
でも、幼馴染って言えるほど、仲が良かったのかなとも思う。
武弥の心遣いが嬉しかった。
羽衣ちゃんのことを真剣に考えてくれたり、わたしと七海の関係のことにも相談に乗ってくれたよね。
男同士の付き合いって言い切れる自信はないけど、武弥とわたしはそれくらい距離が近かったと思う。
もう男同士とは言えないね。
少しずつ見た目が変わっていくわたしのことを支えてくれたのも嬉しかった。
この言い方があってるのかは分からないけれど、認めてくれてありがとう。
結局、わたしがわたしのことを認められなかった。
おかしいよね、自分の体のことなのに。
ちょっと認められたかなって思っても、やっぱり嫌悪感が消えなかった。
わたしはやっぱり普通じゃないんだ、おかしいんだって。そればっかり考えちゃって。
どうすれば普通になれるんだろう。どうすれば何も考えずに済むんだろう。そんなことばかり考えてた。
でも、それは叶わないことなんだって気付いた。
どうしようもないことなんだ。そう思うようにしたけど、苦しみが強くなっていくだけだった。
だから、わたしはもう耐えられなかった。頑張れなかった。
ごめんね。また迷惑かけちゃってるよね。
わたしのたった一つのお願いは、武弥や七海たちがわたしのことを忘れることです。
悲しいけど、それが二人のためになると思う。
武弥と七海は何も悪くないからね。
最後まで読んでくれてありがとう。
それだけでわたしは満足だよ。
ごめんなさい。ありがとう。
ずっと好きでした。