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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第6章 無意識的から意識的へ
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第61話 告白の返事

 武弥からの告白から、一週間が経った。

 何も変わらない。何も起きない。いつもと同じ。だから大丈夫。そう思っていた。でも、だめだった。

 私は、まだあの日のことを引きずっているんだ。


「沙希、最近どうだ?」

「最近?」

 武弥への告白の返事は、しばらく待ってもらうことにした。多分、今の気持ちをぶつけてしまうと、私の方が耐えられないと思ったから。

「いや、最近は何も話してくれないからな。どうなのかなと思って」

「別に普通だよ。ちょっと勉強が難しいかなってくらい」

「沙希っぽいな」

 武弥の言うとおり、私は告白前のように話せなくなってしまった。原因が武弥にあることも本人は気付いていると思う。

 別に武弥が悪いわけじゃないから、申し訳なかった。


 私と武弥の仲だから、これからもずっと一緒に居れる。昔はそう思っていたけれど、今はそう思えない。告白の返事の仕方によっては、もう武弥には会えないかもしれない。だから返せない。

 告白された日、私の中ではとっくに答えは出来ていた。もちろん断るつもりだった。本当は二人とも気付いていると思う。七海と羽衣が、とても喜んでくれること。私もそういう関係になりたいということも。

 でも、そんなのは私が許せない。


 羽衣と一時期、恋人同士のような関係になったことがあるけれど、『やっぱり違う』というのが二人の共通の意見だった。結局のところ、親友なのだ。

 武弥とは、なぜか恋人同士になれる気がする。でも、私が拒絶してしまうと思う。

 武弥が昔からずっと私のことが好きだということも、羽衣と七海が私のことを好きだったということも私は知っている。でも、私が本当に好きだったのは武弥だけだった。


 それでもだめだ。私は武弥と恋人同士になることは出来ない。そんな資格、私にはない。



「沙希、いつの間に帰っていたの」

「……結構前」

 武弥の前では平然と振る舞ってるけれど、家に帰るとスイッチが切れたようにぐったりとしている毎日だった。

 最初でこそ、お姉ちゃんと七海は心配していたが、四日目あたりからあまり触れなくなった。

「ご飯できてるけど食べる?」

「ううん。いらない。食欲ない」

 食欲がないどころか、私はこの一週間ほとんど寝ていない。自分が疲れているのかどうかも分からなかった。

 私はもう、おかしくなっていた。


 ずっと答えは出ているのに、武弥に伝えられない。そんな私が情けない。

「沙希お姉ちゃん。武弥と何かあったの?」

 リビングでテレビを見ながらぼーっとしていると、七海が話しかけてきた。いつから武弥が原因だと気付いていたんだろう。

「まあね」

「また武弥が沙希お姉ちゃんのこと泣かせたの? もう…」

「間違ってはないけれど、誤解していると思う」

「そっか。そうなんだ」

 七海は一瞬怒ったような表情を見せたけれど、私の言葉に安心したのか、今は落ち着いていた。

「……あのね、武弥が告白してきたの」

「え? 武弥が?」

 予想通りの反応だった。あの武弥が告白なんてするはずがない。そう思っていたのは、私だけではなかったみたいだ。

「うん。でも、まだ返事できてないんだよね」

「もう気持ちは決まっているの?」

「決まっているよ。ちゃんと断る」

 私の言葉に七海は驚かなかった。ある程度分かっていたみたいだ。

「それで、言えないんだね」

「そうなんだよね。だから、武弥とも上手く話せなくて…」

「だから最近、沙希お姉ちゃんの様子がおかしかったんだね」

 私の思っている以上に、七海は心配してくれていたみたいだ。隠そうともしなかったから、当然か。

「でも、沙希お姉ちゃんって本当は付き合いたいんでしょ? 武弥と」

「……付き合いたくないって言うと嘘になるかも」



 気付くと、部屋の時計は4時になっていた。時計が壊れてそのまま動かないわけじゃない。本当に4時だ。

「また眠れなかった……」

 もう私はボロボロだった。また今日も武弥に会える。そう考えると嬉しい反面、苦しいという気持ちがあった。

 その理由も私はよく分かっていた。自分がどれだけ馬鹿な人間だということも分かっているつもりだ。


 馬鹿だから、私は逃げることにした。私は、告白の返事を返さないことにした。その代わりに、最後の願いを叶えることにした。それが本当に叶うのかどうかは武弥次第だけれど。



「武弥、おはよう」

「おはよう」

 ごく普通の会話のように思えるかもしれないけれど、私から武弥に話しかけたのは一週間ぶりだ。

「ねえ、武弥にちょっと話があるんだけどいいかな」

「今か?」

「うん。今」

 告白の返事をすると思っているのだろうか。武弥は少し困惑していた。

「…いいよ。どうしたの?」

「問題です。臨海市で毎年七月に行われるイベントはなんでしょうか?」

「イベント…え?」

 どう考えても、今の質問はおかしかった。返事を保留にしたまま、私は次に話を進めてしまったのだ。この一週間以上の間、お前は何をしていたんだと言われそうな気がした。

「思いつかない?」

「え、いや。えっと何だろう」

「……時間切れです。正解は臨海花火大会でした」

「そっか。確かにその時期か」

 臨海花火大会。それは、毎年臨海市で行われている、まあまあ規模の大きいイベントの一つである。

「よかったら一緒に行かない?」

「俺はいいけど。七海と三人で?」

「ううん。私と武弥の二人で行くつもりだけど。もしかして嫌だったりする?」

 強引に話を持っていったかもしれないと反省していると、武弥は笑っていた。

「嫌なわけない。花火大会、一緒に行こうよ」

「いいの?」

「断る理由なんて無いよ」


 こうして、私は武弥と一緒に七月の花火大会に行くことになった。これはデートに数えてもいいのかな。


 告白の返事は、花火大会の日にする。それまで、私は武弥との時間を大切にすることにした。

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