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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第1章 変わっていく俺
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第6話 体の変化は止まらない

 何だか、今日は体がとてもだるい。体全体に鉛をのせているかのような重さであった。一歩ずつ足を前に出すことでさえも、とてもしんどいと感じた。しかし、目の前を見ると、そこにはいつも通りの通学路と昨日よりはすこし雲が多い空があった。だが、俺はいつもと違うと言う感覚に襲われている。確かに日々『女体化』はしている。だが、今日はそういった意味での『違う』ではない。この現象の原因か何かはわからない。けれど、体調がおかしい。

 いつもはきちんと歯車があっているはずの部分が、少しだけずれているような。そんな気持ちであった。

「沙希ちゃん、おはよう」

 教室に着くと、そこには由果ちゃんと紗那ちゃんがいた。挨拶をしてきたのは由果ちゃんであった。彼女はいつも通りの可愛らしい笑顔を俺に見せてくれたが、今はその余韻に浸ることができる気分ではなかった。

「…おはよう」

 俺がそう返すと、二人は顔を合わせてコソコソと話を始めた。何か勘付かれたのだろうか。

 それからしばらく経ち、由果ちゃんは俺に保健室へ行くように求めてきた。やはり、俺の予想は当たっていたのだろう。普通、予想通りに事が運ぶと嬉しくなるものだが、こういった場合は全く嬉しくない。むしろ悲しいのである。

「連れて行った方がよさそうね」

 由香ちゃんの出した案に紗那ちゃんは賛同していた。二人とも考えていることが一緒だったのだ。そもそも、俺が考えていることは他人に筒抜けなのだろう。それはとても便利なことだとは思うが、同時に不便でもあった。この二人に迷惑をかけているということになってしまうからだ。

「大丈夫。沙希ちゃんの元気がないほうが迷惑だから」

 由香ちゃんのその言葉に俺は驚いた。ここまで人のために動くことが出来る子がいると言うことに、俺は感動していた。もし何か機会があれば、お礼がしたい。俺は純粋にそう思った。


 俺は保健室へ向かう間、常に左右にブレブレになりながら歩いていた。もちろん、両側には二人が付いてくれていた。『女体化』現象が起きてから、体調に波が生まれている。俺はそのことに少し苛立ちを覚えていた。自分自身をコントロールできていない。そう思ってしまうのである。

「先生、中津さんの体調が悪いみたいなんです」

 保健室へ入る際、紗那ちゃんはドアにノックすることを忘れていた。多分、それくらいに焦りを感じていたのだろう。俺のことを本気で心配している。そう感じた瞬間でもあった。

 保健室の中では、早坂先生が食い入るように何かの資料を見ていた。その資料…いや、山積みになっている何十枚もの紙が何なのかを聞きたいと思った。しかし、ここは保健室。俺の体に起きているこの症状について教えてほしい。今はまだ耐えられるが、正直なところ立っているのがとてもしんどいのである。

「とりあえず、そこのベッドに寝かせておきましょう」

 先生はあくまでも冷静に俺をベッドへと連れて行った。また、俺の足取りがあまりにも頼りがなかったのだろうか。紗那ちゃんと由果ちゃんの二人がかりで俺の両腕を肩に載せ、ベッドまで運んでくれた。ゆっくりと歩くこともままならないことに気付いていたのだろうか。

「ありがとう、二人とも」

 俺がそういうと、二人は笑って大丈夫だよと答えてくれた。嬉しかったが、同時に二人を騙していると感じてしまい、罪悪感を持ってしまった。ただ、簡単に伝えられるようなことではなかった。

「じゃあ先生。中津さんのことお願いします」

「ええ、わかったわ。担任の先生にも言っておいてね」

 二人は早坂先生の言葉を聞くと、急いで扉へと歩いて行った。しかし、その様子はとても心配そうであった。俺は迷惑をかけているのである。すでに早坂先生と校長先生には迷惑かけてるのだが、この二人には心配をかけたくなかった。しかし、頭のどこかでこれは仕方ないとも考えていた。

「もしかしたら、あれかもしれないわね」

 急に早坂先生が妙な指示語を使ってきた。俺に察しろというのだろうか。残念ながら、俺は人の心を読むことが苦手である。この人は一体何が言いたいのだろう。

「あれって何のことでしょう」

 そういうと、先生は不気味な微笑みを浮かべた。片方の口角が不自然に上へと上がっている。人の顔を見るとある程度何を考えているのかが分かるものとよく言われる。しかし、早坂先生にはそんなことは通用しないのだろう。

「あれよあれ。女には毎月くるあれよ」

 さすがにそこまで言われると気づいてしまった。気づきたくなかったが。つまり、もう普通の男子高校生では無くなっているのだ。そもそも、俺の今の体の状態で性別を考えるとすれば、一体どちらをみんなは選ぶのだろうか。

「まだ断定はできないけどね」

 先生の『まだ』という言葉が引っ掛かったが、さすがに違うだろう。だが、どうしても聞きたいことがあった。俺は焦っていた。

「体の中まで変わってるんですか」

 俺の中で、ある一定の制限を『勝手に』つけていた。それは見た目だけが変わる、という制限だ。つまり、『女体化』現象は目に見える部分のみで発生すると思っていたのである。まさか、こんな短時間で体の中身まで変わるなどとは思わないだろう。まずそんなことが起こり得るのだろうか。

「知らないわよ」

 さすがにそこまでは分からないようだ。まあ、当たり前だと思う。

 しかし、先生によると、この症状はやっぱりあれらしい。いつの間にそんなところまで変わっていたのだろうか。まさかここまで進んでいるとは思わなかった。しかし、それらしい症状が出ている。今のこの状況では何とも言えないのだ。

「とりあえず、ゆっくり寝ておきなさい。落ち着いたらゆっくり話しましょう」

 俺は早坂先生の言うとおり、少し休むことにした。せっかく由果と紗那が連れて来てくれたにもかかわらず、いまだに休憩らしい休憩はとっていないからである。



 保健室に備え付けられているベッドに行ったあと、すぐに眠りについてしまったみたいだ。やはり、疲れていたのだろう。

「気分はどうなの」

 先生はずっと俺のことを気にしてくれていたのだろうか。俺が起きると、すぐに隣へと来てくれた。相当な時間がたったのだろう。夕焼けが保健室の中に差していた。一体どれくらい眠ってたのだろう。

 早坂先生は頭に冷やしたタオルをのせてくれていた。それに効果があったのかは分からないが、眠る前よりは少し気が楽になっていた。体もあまりだるくはない。

「楽になりました」

 俺がそういうと、先生は安心した顔をした。よっぽど心配だったのだろう。

「なら良かったわ」

 本当に楽になっていた。でも、まだ体調が万全にはなっていない。


 これからも体の変化は続くのだろうか。

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