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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第5章 四人でいること~pure story~
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第52話 ファッション経験値

 男装女装大会!? え、俺らがするのか。他に誰もいないからな。ただ、これだけは言える。羽衣は本気だ。

「順番とかどうする? じゃんけんで決める?」

 こんな重要な時にじゃんけんで決めるのか。いや、待てよ。これって全員参加だよな? そうでなければ不公平だもんな。きっとそうだろう。

「羽衣、待て。これって全員参加だよな? 羽衣も含めての」

「もちろんよ。ああ、そうだ。心配しなくっても、全員分の服は用意してあるからね」

 そうか。それなら別にいいけれど。いや、良くない。何だ『全員分の服』って。今日のためだけにわざわざ買ってきたという事か? なら、楽しむというよりも申し訳ないという気持ちが勝ってしまうのだが。

 そんなことを考えていると、七海が困った顔をしていた。俺たちの方を見ている。

「どうした、七海」

「いや、順番はどうするのかなと思って」

 そういえば、話題がずれていたな。俺のせいだけれど。

「そうね。あみだくじにしましょうか」

 羽衣が出したその意見に、全員賛成だった。ただ、羽衣が線を引くって言いだしたから、都合の良いように組むのではないかって気もするけど。大丈夫だよね?


「それでは、あみだくじの結果を発表いたします」

 羽衣の機嫌がいいのだろう。自力でドラムロールを入れていた。

「男装女装大会のトップバッターは武弥です」

「え、俺?」

 武弥は目を見開いていた。まさか、一番初めが自分だとは思わなかったのだろう。

 それにしても、武弥がどんな格好をしてくるのか楽しみだ。初めて見るからな、武弥の女装。


「早く出てきなさいよ。進まないじゃないの」

「待って、待ってくれ」

 武弥が着替え終わるまで待っていようという話だったが、さすがに遅すぎたのか、羽衣が偵察へ向かった。初めてだから、着方とかがわからないのかもしれない。俺がわかっているというのも、何だか変な話のような気がするけれど。

「はい、時間切れ。開けるわよ」

「え!」

 その後、武弥の悲鳴のような声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだよね。あはは。

 羽衣の部屋から帰還した武弥の顔は、例えるなら魂の抜けた人間のようだった。

「あら、見事に似合っていないね」

 七海が武弥の心をえぐりとる一言を放った。えっと、冗談ではなくて、本当に似合ってないからフォローのしようがないのだけれど。どうしたらいいのだ。こういう時。

「秋路はどう思う? 嘘はつかなくていいからな」

 嘘をつく、つかない以前の問題ですよ。武弥さん。

「えっとな、全然似合っているいないぞ」

「日本語になっていないぞ。それ」

 直前まで本音を言おうか、ちょっとした嘘をつこうか悩んだ結果、言葉が混ざってしまった。噛んでしまったみたいで、少し恥ずかしい。

「ま、まあ、頑張った方じゃないの?」

 ちなみに武弥の今の格好は、ロングスカートに茶色がかった秋っぽい模様の服を着ているという感じである。何故だ。なぜこんなにも似合わないんだ。不思議で仕方がない。

「そうだよ。似合わないのが普通なんだから」

 遊びとはいえ、負けた感があるのか、武弥は落ち込んでいた。そういうのはリアクションに困るので、やめて欲しいのだけれど。

「じゃあ、次は秋路ね」

「俺なのか」

 俺は何というか、慣れてしまったというか。もう以前のように、女の子向けの服を着ることに抵抗は感じるようなことは無くなっていた。時の流れと経験を積むというのは恐ろしいものである。

「あ、そうだ。秋路はこれを着てね」

「わかった」

 羽衣の部屋の中に用意されていた、今回の企画用の服ではなく、これを着ろと。無地の紙袋に入っているので、独特の雰囲気が出ている。何だか気味が悪いな。

 近くに置いてあったハサミを借りて、中を開けてみた。すると、そこにはいわゆるメイド服が入っていた。それで、これを着ろと言うのか。羽衣は。

 メイド服と言っても、普通の服と着方はさほど変わらなかった。ただ、生地が全体的に軽く作られているのか、ふわふわとしているので、何だか不思議な気分だ。着ているけれど、着ていない。そんな感じがするのだ。

 再度紙袋の中を見てみると、猫耳があった。いやいや、羽衣は俺に何をさせようとしているのだ。そんなことをしてしまったら、ただの変態男子中学生にしか見えなくなるだろ。それだけはごめんである。

「お待たせ」

「あら、ずいぶん早いのね」

 早いのではない。慣れていない武弥に比べて、慣れている俺の着替えるスピードが速かっただけだ。というか、慣れてもいいものなのだろうか。

「おお、さすが。似合ってるね」

 七海が似合っているというのだから、少し自信が付いた。付いていいものなのかはわからないけれど。

「おかしいところとか無いかな? メイド服なんて着るのは初めてだし」

 それ以前に、男子中学生がメイド服を着るという時点でおかしいと言えばそうなのだけれど。そういう意味ではなく、俺は単純に着方がおかしいところは無いかなと不安なのだ。

 ただ、何もなかったらなかったで問題ではある。

「うん。普通に似合ってるわね」

 いや、あのね。似合っている、いないの問題ではなかったのですが。まあ、いいや。何だか、気にしたら負け的な感じがする。

「武弥君はどう思うの?」

 羽衣はまだ武弥と接することに慣れていないのか、それとも無意識にしているのか、何故か武弥だけ君付けで呼んでいる。武弥と一緒に過ごすのも、武弥がずっと入院生活だったから少ないし。仕方ないと言えば、そうなるのだけれど。

 でも、武弥は俺がこの服に着替えてから、ずっと挙動不審だ。セーラー服の時もそうだった。やっぱり似合っていないのかもしれない。

「そ、そうだな。何て言うか、『普通の』女の子にしか見えないから、どう反応すればいいのかわからなくてだな……」

「え?」

 びっくりし過ぎて、間抜けな声が出てしまった。

 どういうことだ? 普通の女の子? 武弥は何を言っているんだ。どこから見れば、そういう感想が出てくるんだ。そもそも、女子二人からの『似合っている』という感想とは違って、武弥からは『普通の女の子』と言う感想をもらった。似合ってはいないのかな?

 って言うか、武弥の顔真っ赤だし! 何でだよ、赤くなるのは俺の方だろ!?

「はいはい。武弥君は秋路に惚れているのかな?」

 羽衣がそう言うと、武弥は黙り込んでしまった。余計に気まずくなったじゃん。


 その後も男装女装大会は続き、七海と羽衣は男装をした。二人ともさすがというか、何というか。俺の思っていたよりも男装が似合っていて、かっこよかった。着こなし方が上手なんだろうな。さすがです。

 俺もあんな風にかっこよく決めてみたいけど、今のこの格好も別に嫌なわけではない。

 どっちも着こなすことって出来ないのかな?

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