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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第4章 本当の気持ち
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第39話 姉妹でデート!?

 私は、私がわからない。この姿になって、女子高生になって喜んでいたはずなのに、何かがあると途端に自信がなくなる。私はこのままで居られるのかなって。認められる、認められないとかじゃなくって、ちゃんとみんなみたいに普通の生活ができるのかなって。こんな中途半端な自分がいやだって。母さんや七海は認めてくれてるとはいっても、私が認められてなかったら、それは『偽り』の私なんだよね……

 本当にこれで良かったのかな。時々、心配になる。


「ごちそうさまでした」

 いつも通りの夕食。いつも通りの部屋。たまに横を通っていく、ぬるい風。家の中にかすかに残っている暖かい空気。何も変わってない、変わらないでいてくれた日常の風景。唯一変わったと言えば、そう、私が変わった。それも突然に。でも、あれで良かったのかもしれないと今では思える。あのままだと、私はこんな時間は過ごせなかったかもしれない。他人から見れば、私は幸せなのだろうか。

「どうしたの?怖い顔して」

「いや、何もないよ」

 母や妹は以前と変わらずに、まだ男だった私の時と同じように接しているように気を遣っているかもしれない。でも、明らかに変わっている。前はこんな会話でさえも交わさなかった。一言もしゃべらなかった日もあった。いったい何がみんなを、何より私の心を変えてしまったのだろう。

「ねえ、お姉ちゃん」

 気が付かないうちに、すでに夕食を食べ終えていた七海が、私の顔を横目でうかがいながら、いつもよりトーンが落ちた声で言った。

「どうしたの?」

「今度の日曜日、デートしない?」

 一瞬、聞き間違えたのかと思った。暗いことばっかり考えてたから、私の頭はどうにかなってしまったのだと。しかし、そんなことはなかった。聞き間違いなんてなかった。七海は純粋な気持ちで私をデートに誘ってきたのだ。そこにどんな意図があるのかは分からない。でも、そういってきたのだから、デートしたいのだろう。

「デート?私と?七海がしたいのなら、私は別に付き合うけど?」

「ほんと?約束だよ?」

 いつもの七海じゃない。そんな気がした。普段は考えていることをあまり表に出してこない七海らしくなかった。何かに追われているような感じだった。それが何なのかはわからない。でも、そんな気がした。

「うん。約束ね」

 私が女体化してから、七海は私と積極的にかかわろうとしている。その一つがこの『指切り』と言う行為。約束をするときはこれをする。いつの間にか、そう決まっていた。七海がここに引っ越してきたばかりのころはよくしていたんだけど。羽衣がよくしてたからなあ……

 デートをするのは初めてのことだ。多分。しかも、同性同士でなんて想像したこともなかった。俺の固定概念はやはり捨てた方がいいのだろうか。血がつながっていないとはいえ、一応私の妹だ。気が抜けないなあ。

「やっぱり嫌なの?」

 七海への対応が疎かになっていたのか、七海は心配そうな顔で私の顔をじーっと見てきた。

「嫌じゃないよ。少しも。ただ、デートする相手が私でいいのかなって」

「いいに決まってるじゃん!だって、七海はお姉ちゃんとしたいんだもん」

 心なしか、涙を浮かべているような気がした。こんなに可愛い私の妹を泣かせてしまった私の罪は大きい。何とかしないと!

「わかった。七海がそこまでいうんだったら、私は何の心配もしないよ?デート楽しみにしておくね」

 そう言いながら、私はあろうことか七海の頭を撫でてしまった。こんなに可愛い顔で見られると誰でも撫でてしまうと思う。しかし、これでは七海の機嫌を余計に損ねてしまうのではないか!?と言う焦りが生じてしまったが、そんなことはなかったようだ。 

「ありがと。七海も楽しみにしておくね!」

 


 もう私は七海に心配をかけてはいけないんだ……

 私自身が一番わかってることじゃないか。



「お姉ちゃんまだー?」

 下で七海が呼んでいる。私だって早く行きたいと思っている。でも、服が選べられないよ!昨日も考えてたんだよ。ああ、何着て行こうかな?って。いつの間にか、寝てしまってたけど。

「待って!もうちょっとだから!」

 ちょっとで用意できる自信はない。もう、七海に選んでもらおうかな。そもそも、私が持ってる服が少なすぎるんだよ。買わないといけないな。


「お待たせ。ごめんね」

「別にいいけどさ。じゃあ、行こ!」

 七海はかんかんに怒っているかと思っていたら、見た感じそうでもなかった。結局、私はおとなし目の色のワンピースを着てきた。七海は柄がたくさん入っているTシャツを着ていた。七海と一緒に外へ行くのは久しぶりかも知れない。学校にはよく一緒に行ったりするが、外へ遊びに出かけるのは珍しいことだ。

 このあたりで外へ買い物に行くと言えば、大多数が隣の臨海市に行くというだろう。私が住んでいる森本市には、本当にこれと言ったものがない。あるのは豊かな自然だけだ。まあ、それがいいんだけど。ただ、こういう時には困る。わざわざ、電車に乗り、隣の臨海市まで行かないと、とてもじゃないが買い物を楽しむようなところはない。なので、今は駅に向かっている。このあたりはまだ商店街のような感じになっているので、結構にぎわっている。ただ、臨海に比べると、やはり静かだ。雰囲気はこれくらいの方がいいんだけどね。人が多いところに行くというのは、それなりに勇気がいるものだ。ただでさえ、この格好になれていないのに、それに加えて人ごみ。これはもう最悪の組み合わせだ。


 十分くらいで森本駅に着いた。駅には人があまりいなかった。まだ、時間が早いからだろうか。

「臨海までの切符お願いします」

「わかりました。はい、どうぞ。200円です」

 この駅にはまだ自動券売機が導入されていない。そのうち導入されるみたいだけど。この駅は利用者が少ないから、このまま自動券売機は作ってくれないのかな?こういう時に、森本はやっぱり田舎だなあと実感する。

 踏切の音がする。電車が来たのだろうか。森本駅には線路が一本しかない。つまり、電車が来る間隔が少ない。だから、電車がすれ違うことがないのだ。

「よかった。ちょうどだったね」

「そうだね」

 電車の中には一人だけしかいなかった。まだ朝の九時だもんね。ほとんど貸切状態のような感じになっている。とはいっても。これは別に特別なことではない。普通なのだ。


「次は臨海駅、臨海駅です」

 五分くらいで臨海駅に着いた。いつの間にか少し寝てしまってたみたい。七海にもたれかかっていた。

「ああ、ごめん」

「別にいいよ。楽しもうね、今日のデート」

「もちろん!」

 デート。そう、今日は七海とのデートなんだ。楽しみだなあ。



 駅から出ると、やっぱり人がいっぱいだった。どこからこんなに人が来たんだろうと目を疑いたくなるほどの数だ。みんな楽しみに来たのだろう。中には家族連れもいた。

「じゃあ、どこから行く?」

「えっと、じゃあまずは服でも見ようかな」

 『女体化』現象が起きてからは臨海に来ていなかった。つまり、女子高生としては初の買い物なのだ。なんだか、緊張しっぱなしだなあ。

 七海は当然のごとく、女子だ。だから、私の知らないことをいろいろ知っている。どこに行けばどんなものが売ってるかとか、これとこれを組み合わせてみるといいとか。知っていて当たり前なんだろうけど、私はそういうことは全くと言っていいほど知らない。今までかかわってこなかったから。だから、教えてもらわないとね。



「どうだった?今日、楽しかった?」

 日も傾き始めて、夜になろうとしていた。暗くなってきたので、そろそろ帰ろうかと言う時間。

「楽しかったよ!知らなかったこと、いろいろあったしね」

「そう?それならいいんだけど」

 今日は新しい発見がいっぱいあった。発見もあったけど、七海のおかげで新しい服を買うこともできた。ピンク調のTシャツと水玉模様が入った膝上くらいのスカート。二つとも、七海が見つけてくれたんだ。多分、私一人で来ても見つからなかったと思う。

 七海を見ると、何かうかない顔をしていた。どうしたのだろう。

「どうしたの?何か聞きたいことでもある?」

 七海は動かない。いったいどうしたんだ?

「あのね。お姉ちゃん、今日のデート本当に楽しかったのかなって思ってね」

「さっきも言ったけど、楽しかったよ。七海がいなかったら、こんなに楽しめなかったかも。どうしたの?」

「えっとね、お姉ちゃん。人ごみ苦手だった?」

 当たり前だ。とは言えない。せっかく私の服選びにもついてきてくれたのに、そんなこと言えないよ。

「本当のこと言ってね」

 どうも、私の考えは見透かされているみたい。隠しても仕方ないか。

「うん、苦手だよ。特にこっちで生活するようになってから」

 『女体化』現象以降、私は人と一言交わすだけでも怖くなっていた。実はばれてるんじゃないかって考えてしまう。もう大丈夫だっていう確証が得られない。声が高くなっても、見た目が女の子っぽくなっても、中身は男なのだ。人のまねをしているにすぎないのだ。

「そうだったんだ。なんかごめんね。お姉ちゃん、気づいたら顔色が悪かったからね、どうしたんだろうって思って。全然わからなかった。妹失格だね」

「そんなことないよ!七海はちゃんと私のことも考えて、今日のデートをしてくれたんでしょ?誘ってくれた時、とっても嬉しかったんだよ?」

 今まで疎遠状態だった七海に誘われるなんて、うれしくないはずがないじゃん。

「そ、そうだったの?実はね、七海は少し強引に誘いすぎたんじゃないかな?って思って、今日のデート終わった後にお姉ちゃんに謝ろうかなって思ってたくらいだよ」

 なんだ、二人とも誤解してただけなんだ。こんなことで気を遣っても何もいいことないのに。

「でも、よかった。誤解が解けて」

「ほんとだね」

「ねえ、七海」

 私はどうしても聞きたいことがあった。むしろ、このデートで確かめたかったことはこれだった。

「何?お姉ちゃん。もしかして、まだ七海が誤解してることあるの?」

「いや、ないよ。違うの、七海に一つ聞きたいことがあってね。今日の私、ちゃんと女の子に見えたかな?」

 学校では制服を着る。だから、多少疑いをもっても女の子という事ができる。でも、今日は私服。ごまかしがほとんど効かない。つまり、私はこの機会に女の子として見か確信が持ちたかったのだ。

「当たり前じゃん。むしろ、七海が女の子に見えないかもね。今日の服装、そんなに女の子らしくないし」

「そんなことないと思うけど。十分女の子だよ?」

 七海は何を着ていても可愛く見えるのだ。私はどう思われているのだろう。みんなが私を見ている。そう思うと、どうしても気が重くなってしまうのだ。

「本当に?とてもそう思えないんだけど」

「お姉ちゃんは気にしすぎなんだって!もう、大丈夫だよ?七海より女の子らしいもん」

 女の子らしい。七海は本気でそう言っているのだろう。私自身が認められないって事は、まだ『普通の女子高生』になれていない。そういうことなのかな。



「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

「そうだね」

 私たちは仲がいい姉妹。だから、手だって繋いじゃう。七海がいるから、今は安心して歩くことができる。いつか、そんな普通なことが一人でもできる様にしたい。そんなことを考えながら、もう人がまばらになってきた臨海とはお別れを告げ、七海と臨海駅への道を進んでいった。

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