第32話 俺ってどうしたいんだ?~追憶~
「秋路ってさ、女の子になりたいの?」
「え?」
それはある日の放課後の事であった。俺は羽衣達と接してる間にだんだん性格まで女の子みたいになってきた。元々男子と遊ぶのは苦手だった。どうしてもついていけなかった。だから自然に俺は女子と遊ぶようになっていた。武弥は別だが。
しかし中学生になり、男女で分けましょうみたいな流れになっていった。もちろん遊ぶ相手もそうだ。男子が女子と遊ぶのは恥ずかしい事だ。そういう風になっていた。
だが俺はそんな事は気にしない。女子と遊んで何が悪い?そう思っていた矢先の事だった。
「うーん。女の子になりたいとは思ってないかな」
「そうなんだ。秋路なら女の子になっても問題ないと思うよ」
問題ない?俺には理解できなかった。
別れ際に羽衣が俺にこう言った。
「ウィッグ貸してあげよっか?」
「羽衣ってこういうの持ってたんだな。意外だな」
ウィッグというのは厳密にいうと違うらしいが、かつらのことだ。
「どんなのがいい?」
「どんなのがいい…。そうだな、逆に俺どんなのが似合うと思う?」
「そんなの自分で決めなさいよ」
羽衣はどうしても俺に選んでほしかったようだ。
しかも一つだけあげてもいいよ、とのことだったのでとても迷っている。
「秋路なら黒髪の方が似合うよね」
黒髪か。確かにな、俺が茶色がかった髪の毛だとしたら…似合わないな。
俺はずっとしたかった髪型がある。
「…ツインテールにしたい」
「え?ツインテ?秋路が?考えたことなかった」
「俺には似合わないかな?」
したいとは思っていたが、似合うわけないよな。男なのに。
何考えてんだ俺。一人で舞い上がっちゃって。
「ごめん。似合うわけないよね」
ああ、なんか恥ずかしくなってきた。
「良いと思うよ?やってみないと分からないし、とりあえずやってみようよ」
「でも俺、付け方とかわかんないし…。」
分かんないどころかウィッグに触ったこともない。
早速、羽衣にツインテールにしたいという俺の希望に基づいてウィッグを選んでくれた。
黒髪ロング。
「ここ、座って。セットしてあげる」
さすがは女子と言ったところだろうか。
慣れた手つきでウィッグを付けるときにつけるネットを俺の頭につけた。
「あんた髪質いいわね。男のくせにー」
「余計なお世話だ」
特別手入れしているわけじゃないんだけどな。
それからも羽衣は俺の髪をいじっていた。
正確には整えていたという方がいいのだろうか。
「じゃあつけていくよ?アジャスターくらいは自分で調整してよね」
「あ、アジャ…なんだって?」
「あんたアジャスターも知らないの?よくそんなので女の子の格好してたね」
「その言い方だと外でもしてるみたいになるじゃん。この部屋でしかしたことないよ」
「あれ?そうだっけ?」
羽衣がとぼけ始めた。こうなると聞く耳を持たない。
必死にお願いして教えてもらった。
知っている人も多いと思うが、アジャスターというのはウィッグの大きさを調整してくれる便利なものだ。
「あとは引っ掛けるだけね。はい。できたよー」
え?付けるのこんなに簡単なのか?
「こんな感じ?」
「うん。じゃあね、鏡見てみたら?多分ビックリすると思うよ」
ビックリ?どうせ俺の女装した気持ち悪い姿が映るんだろ…。
俺は頭に乗っかったウィッグをゆらゆらさせながら洗面所へ行った。
さて、気持ち悪い俺の姿でも確認しようか。
あれ?誰だこれ。え、え?本当に俺なのか?
普通に可愛い女の子じゃないか…。
って自分で言ってて恥ずかしくなってきた…。
いや、やっぱり気持ち悪いただの女装だな。