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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第3章 きっかけ
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第31話 恋愛話

 決心をしたその日に撤回するのはなんだかおかしいかもしれないが、やはり俺には厳しいものがある。行動のすべてを女の子のようにするなど、仙人でもない限り無理だろう、ということに今気づいたのである。

 つまり、違和感なく過ごすことは、案外難しいということだ。それでも、頑張ることには変わりないのだが。今のこの生活は、すべてが新しいことだらけで、ついて行くのがやっとだ。それゆえに、新しい問題も発生する。


「好きな人?」

「沙希には好きな人とかいないの?」

 ここで問われている『好きな人』というのは、恋愛的に好意を持っている人物という意味だろう。だが、俺にはその質問に答える術がなかった。なんとなく話を流そうと思ったが、それもまた変な感じがするのだ。

「もしかして、もう狙ってる人とかいるの?」

 紗那ちゃんがそう尋ねてくるが、この人がいいといったような具体的な名前は出てこなかった。

「ね、狙ってるって?」

 動揺のあまり俺はオウム返しをしてしまったが、由果がそれに続いた。

「あんた以外にだれがいるのよ」

 どうやら、俺に好きな人がいると考えているのは、二人の中で一致していたようだった。

 そのことを否定するつもりはなかったが、肯定する気はなかった。というよりも、自身が認めていなかったのが、大きな理由の一つであった。



 休憩時間は、なぜか俺の恋愛話に火が付き、話が盛り上がっていたが、ようやく昼休みとなった。これで、ひとまず落ち着けるだろう。

「それで? 誰なの、沙希の好きな人って」

 先ほどまでの考えは間違っていた。俺は昼休みの間も、落ち着けないようだ。騒がしいことは苦手ではないが、それとこれとは話が違う。恋愛話は苦手なのだ。

「別にいないよ」

「沙希、嘘ついたね? さっき少し考えたじゃん!」

「別にそういうことじゃ……」

 答えるのに躊躇してしまったのは確かだ。しかし、それが肯定ととらえられてしまったのはいかがなものか。

「もう、紗那はまた沙希をいじめてる」

 由果はそう言いながらお弁当を食べているが、先ほどまで楽しんでいたのを俺は見逃さなかったぞ。

「別にいじめてなんかいないよ」

 口をとがらせて、紗那はそう言った。きっと、紗那は純粋に気になっているのだろう。俺が、誰のことを好きなのか。年頃の女の子なら、誰しもが気になる話題なことも、俺はよく分かっている。

 だが、他人にあの話をするのは少々抵抗があるからいえない。もっとも、こんな話をしたところで何の解決にもならんだろう。むしろ、変な誤解を与えるだけである。ならば、話さない方がいい。そうなってしまうのである。


「あれ、お姉ちゃんだ」

 放課後の帰り道で遭遇したのは、七海だった。

「今帰りなの?」

「うん。一緒に帰ろ?」

 七海も私と同じで、用事ができたせいで残っていたらしい。それで、私と偶然出くわしたというわけである。

 よく考えてみると、七海と一緒に帰るなんて、とても久しぶりのことのように思える。

「どうしたの、疲れた顔して」

 その言葉を聞いて、さすが我が妹だと思った。特に意識はしていなかったが、今日の休み時間に繰り広げられた恋愛話に、俺は疲れてしまったようだ。

「そうかな?」

「うん。げっそりしてるよ」

 身内なので、控えめに言う必要は無いと思っているのだろうか。回りくどい言い方は、一切使わなかった。

「何かあったの?」

 七海はそう質問してきたが、俺には上手く答えることができなかった。特にはっきりとした理由があって疲れたわけじゃないのだ。ただ、心のどこかでもやもやとした感情があったのだ。

「いや、そういうわけじゃないんだよ」

「そうかな。絶対なんかあったと思うんだけど」


 確かに、何かはあった。しかし、今のこの気持ちを七海にどう説明したらいいのかがわからないのだ。一体、何なのだろう。この気持ちの悪い感情は。

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