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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第2章 複雑な感情
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第29話 届くかな、この想い。

 実は、武弥はあの日高熱が出てしまい、家から出られなかった。だから、羽衣とはあの日に会うことができなかった。今ここにいる理由には、武弥なりの考えもあるのかもしれない。

 それは、もちろん七海と俺に関係のない話ではなかった。


 あの日と何も変わっていない、この場所。変わっていない桜。武弥と七海。そして……羽衣がここにいる。

 この三人がここに集まることが出来たのは、きっと羽衣がひきつけてくれたおかげなのだろう。


「5年後に、あの日の約束が果たせたんだから、これからも『ここで』会おうね。来年も、再来年も、5年後も、10年後も…この桜の木の下で。集まろうね。『4人で』一緒に」

 七海は、桜を見つめながらそう言った。それは、俺も同じ思いだった。

「約束、やり直ししよう? また、この場所で会えるように」

 四人で心を確かめ合う。あのころとは状況が変わってしまったけど、約束は消えなかった。みんなの心の中に残っていた。だからこそ、もう一度約束をする。ゆびきりという形で。ゆびきりなんて、使う頻度が少ないからこそ、大事に思えるものだ。

 しかし、なんだか心に引っかかるようなものを感じた。俺は、この場所にもう一度来れるのだろうか。そんなことを思ってしまったのである。

 四人でゆびきりをした。小指をほどいて、横の二人を見ると、涙を隠しきれないほどに流していた。まるで、止まること知らない雨のように。顔を流れていく感触で気が付いた。俺もいつの間にか泣いていたのである。


 なあ、覚えてるか? 羽衣。

 あれから5年たったんだって。もう、羽衣がいなくなって3年。でも、羽衣は本当はいなくなってなんか無かった。ずっと、俺たちの心の中に生き続けていた。

 でも、俺にはそんな現実が受け止め切れていなかった。無理だった。本当にごめん。大人の真似事しかできない俺には、あまりにも荷が重すぎた。

 今、そしてこれからもこの二人にはいっぱい迷惑をかけていくと思う。もちろん、羽衣にも。

もしかすると、羽衣も心配だったかもしれない。

 確かに羽衣がいなくなってからの1年間は現実から目をそらしていた。何も考えない方が幸せなんだって思った時期もあった。でも、今は違う。


 とても今さらだと思うけど、あの日羽衣は何を言いたかったんだ? 今の俺には、その時の答えを聞くことができない。

 あの時、俺は結構準備してたんだぞ? 花用意して、手紙用意して、あと心の準備も。柄でもないことをしていた。

 俺はただ、羽衣の誕生日祝いをしたかった。ちゃんと目を合わせて、おめでとうって言いたかった。もしも叶うならば、あの日に戻って羽衣に1秒でも早くこう言いたい。『羽衣、好きだぞ。友達としてだけどな』と。

 そのあともちゃんと『桜並木デート』の予定立ててたんだ。約束を守っていたのに、羽衣は来なかった。恋人ごっこ、なかなか楽しかったよ。

 でも、もうあの日のことは忘れるよ。それは、別に羽衣のことを忘れることじゃない。あの日をいくら引きずっても、羽衣が苦しむだけだと気づいたんだよ。


 もうそんなことを考えるのはやめる。今日で5年だぞ、あの日から。

 俺はこの5年間、ほとんど後悔しかなかった。

 だからこそ、これからは羽衣の分も俺が一生懸命生きると決めた。別に長生きしようだなんて思ってない。多分、俺は夢を叶えてしまったら、いなくなると思う。

 せめて自分の人生くらい、後悔のない生活を送る。目一杯生きる。



「これからもよろしくな、羽衣」

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