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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第2章 複雑な感情
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第28話 7年後の桜

 メイド服の騒動があったものの、俺は部長たちに用事があることを伝えて、いつもよりも早めに学校を出た。

 目的地は、桜ヶ丘高校から歩いて約30分のところにある。そこには、知る人ぞ知る、『森本の桜並木』があるのだ。ただ、不便なところにあるため、地元の人でさえも足を運ぶことはあまりないのだそうだ。

 桜並木という愛称が付けられるだけあり、道の両側に桜の木、道の真ん中から上を見上げると、桜がまるでトンネル状に見える。


 俺がこの場所を知ったのは、小学生のころであるが、何度見ても、何年たっても、ここの景色は変わらなかった。まるで、ずっとここで待ってくれているかのように。

「きれいだ」

 そんな独り言が、口から勝手に出てきてしまうくらいに、ここの風景は美しいものだ。絵はがきのように思えるほどだ。


 そんなことを考えていると、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。

「誰かと思ったら沙希か」

 そう呟いたのは、毎日のように顔を合わせている武弥だった。

「お前も見に来たんだろ? ここの桜」

「そうだけど。もしかして武弥も?」

 そう聞くと、武弥はため息をつき、こう言った。

「この桜並木を見に来なかったら、一体どこへ行くんだよ」

 確かに、桜並木以外にここへ来る理由は考えられなかった。別に店があるわけでもなく、ただ桜だけがあたり一帯に存在している場所なのである。

「ただ、私がここに来た目的は違うよ?」

 桜並木が見たいだけならば、わざわざ今日来る必要はないのである。明日にでも来ればいい。しかし、そういうわけにはいかなかった。どうしても、今日でなくてはいけなかったのだ。

「まさか、覚えてたのか。沙希」

 武弥が来た理由も私と一緒のようだった。そうでなければ、ここに二人がほぼ同時に来ることは無いだろう。あの時の約束をただ忠実に守っただけなのである。

 結局、あの日の約束を忘れることはできなかった。もし忘れてしまうと、俺の中から羽衣の存在が消えてしまうのではないかと恐れていたのである。

「忘れることなんて出来るはずないよ」


 それからしばらくすると、七海がやってきた。武弥と七海が会うことは少ないのか、話が弾んでいた。


 もちろん、三人の目的は同じだった。羽衣は、約束を覚えてくれているのだろうか。

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