第26話 四人目の部員
文学部に加入してから、約3日が経った。しかし、この部に対していくつかの疑問点があった。しばらく居れば解決するようなものだったが、どうしても気になった俺は、神田先輩に聞いてみることにした。
「神田先輩」
「どうした。お茶でも飲みたいか? 特別に用意してあげてもいいぞ」
なぜか毎度上から目線でものを言う神田先輩であったが、特に嫌悪感を抱くことは無かった。むしろ、その言葉遣いを少し心地よく感じ始めていた。
「それともなんだ。私に用があるのか?」
「うん。少し質問があってね」
「質問?」
そう言いながら、神田先輩はむむむと唸り始めた。その理由は分からなかったが、意外な一面を見ることができた。神田先輩でも悩むことがあるのだと思うと、少し近い存在に思えた。
「だめかな」
「まあ、嫌というわけではないが……」
そう言いながらも神田先輩はとても嫌な顔をしていたが、俺は質問をすることにした。
「ここって何をするところなんですか」
文学部の謎は、まだいくつかある。何の活動しているのかが全く分からなかった。神田先輩と部長は確かに本を読んでいるが、それはいつも行われているわけではない。
そう思っていると、二つ目の疑問を思い出した。
「文学部員って全部で何人いるんですか」
二つ目の質問を投げかけた後、それまでずっと唸っていた神田先輩が、ようやく言葉を発した。
「そんなに一気に質問をするな。仕方ないから、そのうちの一つだけ聞いてやろう」
相変わらずの上から目線であったが、一つだけというところが、俺には引っかかった。
ふと神田先輩の方を見ると、自慢げに髪をくくりながら、俺の方をじっと見て待っていた。やはり何を考えているのかが分からない。
「二つじゃだめですか」
「だめだ。一つだ」
これは困った。二つの質問ができるならば、何の躊躇もなく神田先輩に質問することが可能なのだが。
そう思っていると、横から近づいてくる気配を感じた。神田先輩と部長は俺の視野に入っている。三人目の文学部員の登場だろうか。
「あなたが新入部員さんですか? お茶をどうぞ」
「あ、どうも」
まず最初に思ったのは、この人は誰なのだろうということだった。初めて見た顔だった。ただ、そんなことはどうでもよく感じるくらいに、彼女の身に着けている服に違和感を感じた。
「おい、新入部員。一応挨拶ぐらいしとけよ」
無口な部長が喋ったということに驚いた。やはり文学部員のようだ。
「初めまして。新しく文学部に入った、中津沙希です」
「私は鹿野紅音です。文学部の副部長をしています」
今聞こえたのは、幻聴だったのだろうか。それとも聞き間違えたのだろうか。目の前に立っているのは、どうみても小学生のコスプレ姿である。何を隠そう、副部長と名乗ったのは、目の前でメイド服を着てお茶配りをしているのである。
ここの生徒だろうとは思っていたが、まさか副部長だとは思っていなかった。
「あの、新入部員さん。『なんでこんなちっちゃい人が副部長なんですか?』みたいな顔しながらこっち見ないでください。すごく悲しいです」
「いや、そんなことは思ってませんよ」
副部長ということは、三年生なのだろうか。一瞬そう思ったが、鹿野さんは俺と同じ二年生だということを神田先輩から教えてもらった。質問を一つしてしまったため、これ以上の質問を受け付けてもらえなかったが。
この部屋には、俺を含めて四人しかいない。つまり、文学部員は全部で四人しか存在しないのだろうか。なんてところだ。限界部活とはよくいったものである。
ただ、人数の問題など、今の俺にはどうでもよかった。紅音ちゃんはその後もメイド服で過ごしていた。別にメイド服が好きなわけではない。ただ、どうしてもこの部屋との相性の悪さを感じてしまうのである。
「沙希は、なぜずっと紅音を見ているんだ? もしかしてお前も着たいのか?」
「そういうわけじゃないんですけど。ただ、どうしても気になって」
「もし欲しいなら、はっきりそう言えばいいからな? 必要なら買って来てやるから」
紅音ちゃんが本を読んでいる中、俺は部長と神田先輩からの攻撃を受けていた。
どういう経緯があったのかは分からないけれど、この部屋にメイド服が不釣り合いだということは、はっきりと分かった。