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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第2章 複雑な感情
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第23話 部活動

 問題が発生したのは、前日までの気温の低さを忘れさせるような気温上昇が起きた、ある日のことだった。


「それで? 沙希、部活はどうするわけ?」

 急に今のような緊急会議状態になったわけではない。この問題を放置していた俺が悪いのである。こういう時に自分の面倒くさがりな性格が嫌になる。かと言って、人間はそんなに急に変わることが出来るはずもないのだ。性格云々ではなく、今目の前にある問題を解決しようとする方が、効果的である。

「そういう、書類を書かないといけないものは早く決めておいた方がいいよ。後々、大変なことになるから」

「そういうものなの?」

 俺は今、どの部活に入ろうかを必死に考えているのだ。この高校は、基本的に一年生は部活動に強制加入させられる仕組みになっている。まあ、そんなに厳しい決まりではないのだけれど。

 ただし、俺の場合は転校してきたことになっているので、書類上では途中参加と言う形になるらしい。まあ、当たり前だな。名前も違う、性別の扱いも違うのだ。つまり、全くの別人と言うことになっているのだ。男の時の俺と繋がりがない、というのは当然のことだ。


 そう言えば、この学校って何の部活があるのだろう? 男子として約二年ほど通っていたが、いまだにどれくらいの部があるのかを把握していない。俺が覚えようとしないだけで、決して数が多いわけではない。

 部活動は一年生は強制参加なので、入らないといけない。でも、入りたいと思える部がない。これはよくあることなのではないだろうか。そうは言っても、これがあったら入りたいというのもない。

「もし何も入りたい部活がないのなら、文学部に入ればいいのよ」

「文学部?」

 今まで文芸部とか図書部、読書部というのは聞いたことがあったが、文学部は初耳だ。そもそも、この学校にそんな部があっただろうか? 別に他にピンときたものもないから、少し興味も沸いた文学部でいいか。



 やがて、放課後になった。俺は期待に胸ふくらませながら、ゆっくりと文学部へと向かった。文学部があるのは職員室前の廊下を渡り切り、右側にある通称『部室棟』だ。正確には『南棟』と言うらしい。だが、実際にその言い方をしている人を俺は聞いたことがない。大抵の人は前者の言い方をする。

 文学部は三階にあるみたいだ。確かこのあたりにあったはずなのだが…。

 

 しばらく進んでいると、各部屋のドア付近に設けられている教室札に『文学部』と書かれているところを発見した。滅多に部室棟には来ないので、ここで本当にあっているのかが多少不安ではある。しかし、入るしかないのだ。

 部屋に入る時には、三回ノックをする。これは常識だ。

「すみません、失礼します。文学部に入部させて欲しいのですが……」

 と言って入ったものの、中には誰もいなかった。あれ? おかしいな。今は部活の時間のはずなのだけど。

 そんなことを考えていると、どこからか誰かの声がした。

「珍しいな? あなたはお客さんかな?」

「は、はい! 入部届を……」

 え、どこにいるのだろう? 今のはまさか幻聴だったのか? いや、はっきりと聞こえたはずだ。では、どこに…?

「私がいるのはこっちだ」

 先輩らしき、そのお方は俺の背後に佇んでいた。もっと存在していることを示してほしいものだ。例えば、肩に手を置くとか。それはさすがに怖いか。

「ここに何の用なの?」

「あの、文学部に入部したいのですが」

 俺がそう言うと、先輩らしき人はくすっと笑った。俺は何も変なことを言った覚えはないのだが。

「文学部にか? 興味深い人間だな」

 興味深い人間? 何を言ってるんだ、この人は。部活動に所属することがそんなにおかしいのだろうか。いや、別の意味なのかもしれない。では、一体何なのだろう。

「1年ではないよね。もしかして、転校生さんなのかな?」

「はい。そのまさかです」

 もしかしても何も、俺は転校生と言う設定でここにいる。みんなからはそう見えているはず。俺が今着ている、この制服はきちんと作ったものだ。つまり、誰かのお下がりというわけではない。新品なのだ。

「わかったわ。とりあえず、私の権限であなたの入部を許可します」

 早い! というより転校生というだけで、その扱いはどうかと思いますよ。でも、この時期に転校してくるのだから、多少は気になるのも当然なのかもしれない。そういえば、この人の名前を聞いていなかった。

「私は2年の中津沙希と言います。これから、よろしくお願いします」

「自己紹介だね。そう言えば、私の名前を教えていなかったよね。私も同じ2年の神田志保です。だから、敬語とかは無しでいいよ」

 当たり前ではあるけれど、今はこの学校の中に3年生はいない。この学校では、3年生は2月の中旬から『卒業準備期間』というものが設けられている。その決まりによって、今は3年生がいない。

「わかった。えっと、神田先輩は部長か何かなの?」

「いや、部長は私じゃないよ。本物の部長はどこかへ行っちゃった」

 一体何をしているのですか、部長さん。せっかく部室棟まで来たのに。

 文学部。名前だけ見ると、大学の何かのような雰囲気を漂わせる。でも、その活動内容は全く分からない。謎が多そうな部活だな。

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