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私には性別がありませんでした  作者: 六条菜々子
第1章 変わっていく俺
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第22話 虹の丘の桜~追憶~

「あれから、もう2年たったんだ」

 その2年を早いと思うか遅いと思うか。それは人によってさまざまである。しかし、俺の体感としては、非常に早かった。あのころは中学生の自分の姿を想像できなかった。一体どうなってしまうのだろう。どう変わってしまうのだろう。そんな不安でいっぱいだった。でも、実際はそんなに大きな変化はなかった。ただ、中学校では制服を着るようになっただけだった。

「早かったね」

「まあ、いろいろあったからな」

 七海は気を遣ってくれているのか、優しく声をかけてきた。声をかけたかと思えば、遠くへ走って行ってしまった。なんとも気まぐれなやつだ。そういえば、大きく変わったところがあった。七海と羽衣の身長が伸びたことだ。昔はずっと七海に対して背が低いなとバカにしていた時期があったのに。今では俺と大差ない。むしろ、俺のほうが背が低くなっている。でも、中学生ってそんなもんか。この時期は女子の方が成長が速いと聞いたことがある。そんなことを考えていると、七海がこっちへと戻ってきた。年中元気がいいな。元気が良すぎると思うこともあるけれど。

「七海は何も変わってないな」

「秋路も変わらないよね」

「確かに」

 変わらないこと。変わっていること。変わってしまったこと。いろいろあるけど、俺は何か変わったのだろうか。特に変わったのは羽衣だった。二年前とは違い、よりお姉ちゃんらしくなったというか。俺が言うのもなんだが、安心できるのだ。一緒にいて落ち着くというか。もちろん七海と一緒にいても落ち着くことは落ち着くが、少し違う気がする。

「おいおい、二人とも失礼だぞ」

 そういうと思わず笑ってしまった。それにつられて、2人の顔からも笑みがこぼれる。

「ねね、久しぶりに桜を見にいかない?」

「いいね。秋路も行くでしょ?」

「そうだね」

 ここは通称『虹の丘公園』。と言っても俺が勝手にそう呼んでるだけだけど。この場所のいいところはいっぱいある。けれど、その中の一番はもうすでに決まっている。

「今年も綺麗に咲いてるね!」

「相変わらずきれいだな」

 『森本の桜並木』とも呼ばれる、この桜の木々だ。3月と言えば春。春と言えば桜。桜と言えば虹の丘。これは森本市に住んでいる人なら知ってる言葉だ。さらに、ここの桜は一般的な桜とは違い、少しだけ開花が早いのが特徴だ。ただ、虹の丘がこんなにも有名なのに行くまでが不便なせいもあるのか、あまり人は来ない。なので結構な穴場スポットでとしても有名である。穴場と言っても、実際はここに来なくても少々離れたところからでも、十分綺麗に見ることができる。でも、こうやって間近に見たほうがいいけれど。森本の桜並木は約100メートルにわたって、ずっと続いている。いわゆる桜のトンネル状態になっている。それに加えて虹の丘公園にある桜の木もあるので、あたり一面桜だらけという漫画のような景色を楽しめることもここの特徴だ。

「ここは何も変わらないんだね」

 羽衣がひとりごとを漏らした。何も変わらない。その意味を深く考えることはしなかった。

「そうだね」

「え?聞こえてたの?」

「ばっちりと」

「うわ。お姉ちゃん恥ずかしいよ。それ」

 七海と俺の集中攻撃。羽衣はたちまち顔が真っ赤になっていった。

「あんたたち覚えときなさいよ」

「あー怖い怖い」

「威圧的だね」

 羽衣が少しすねてしまったけれど、俺は気にせずその場に寝っ転がった。俺はここで寝っころがるのが好きで、この近くを通る時は必ずと言っていいほど立ち寄って寝るのだ。あとはただ寝るだけなので、二人にはもう帰ってもいいとは言ったが、羽衣も七海も俺が起きるまで待っておくらしい。せっかくなので3人で川の字で芝生の上で寝ることにした。まだ開花したばかりで、地面には桜の花はなかった。ここからは天気がいいときは日本海が見える。今日はとても青空で、昼寝には最適な日だ。ほどよく来る潮風がとても気持ちいい。


 昼寝と言っても本当に寝るわけではない。30分ほど寝転ぶだけだ。考えてみたら、今俺が着ているのは中学校の制服である。少ししわがついてしまっただろうか。まあ、今さら気にすることでもないか。

「じゃあ、そろそろ帰るか」

 桜の木々に別れを告げて、俺は二人と一緒に虹の丘公園を後にした。

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